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◆ Der Schwerttanz(舞い狂う剣)
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「バット将軍!我々におまかせください!」
「そうですとも!あのような輩、ゲッターロボもろとも…!」
と、メカザウルス・ゾリの周りに控えていたメカザウルスに搭乗するキャプテンたちが口々にそう言う。
挑発的な、どこか戦場をなめたようなその「敵」に、もはや我慢がならない彼ら。
「…よし!キャプテン・バルキ、キャプテン・クック、キャプテン・シビラ、キャプテン・シルラ!ゲッタードラゴンを攻撃せよ!…あのできそこないを『処分』してしまえ!」
バット将軍の命令に、メカザウルスたちがいっせいにゲッタードラゴンにその邪悪な目を向ける…!
「は、ハヤト!」ベンケイの慌てたような声。…だが、エルレーンはその光景を冷静な顔で見ている。
…いや、冷静というよりは、無表情…冷たさすら感じるほどの無表情で。
…と、その顔がふっとほころび、彼女はベンケイに向かって微笑いかけた。彼を安心させるように。
「うふふ、大丈夫だよ、ベンケイ君!」
「え…?!」
「んー、でも…ちょっとだけ、試しとこうか?」
「へ?!」ベンケイが彼女にその言葉の意味を問い返そうとしたその時だった。
…いきなり、ゲッタードラゴンが宙に舞ったのは。
だが、ゲッタードラゴンはメカザウルスに向かっていくわけではない。
ぐるり、と空中で宙返りしたり、両腕をばたばたと上下させたりと、かなりマヌケな動きをしている…
はたから見るとそれは、お遊戯をしている(へたくそな)幼稚園児のようでもある。
…戦場の空気が、あまりのわけのわからなさに、一瞬弛緩した。
ぴょんぴょんとジャンプしていたゲッタードラゴン。
それがぴたりと止まったかと思うと、今度はまるでバレリーナのように、くるくるその場で回りだす…?!
「んっとぉ、えーと…こんなカンジかな?」
「な、何してるんだエルレーン?!」
「えー、ちょっと練習ー!」あくまで明るい声で、そう答えるエルレーン。
「れ、練習?!」
「さっきは偶然、斧を出せたけど…このボタンだったかな。こっちは、ええっと…」そうつぶやきながら、そのボタンを押してみるエルレーン。
…が、見たところ、何も反応がないようだ…
いや、そうではない。ゲッタードラゴンの両腕についた鋭い鋸、スピンカッターが作動した。
切り裂くものもないままに、無駄にぎゅんぎゅん回転している。
「…?」
「そ、それはスピンカッター!腕についてる鋸のボタンだ!」
「のこぎり?…ふうん、そうなの…じゃあ、こっちは?」納得しながら、そのそばにあった別のボタンに手を伸ばすエルレーン。
それを押した途端…ゲッタードラゴンの額にあるビーム発射口から、紅い光線がほとばしる!
…だが、その光線は狙いもつけられないまま、誰もいない前方の森の木々にぶち当たり、そこからめらめらと炎があがっていく…
「それはゲッタービームのボタンッ!」
「へーえ…前のゲッター1は、胸からビームがでたのに…このゲッターロボは、頭から出るのー?きゃはは、なんか変なカンジー!」
そう言いながら、きゃらきゃらとエルレーンはさもおかしそうに笑った。
「わ、笑ってる場合かー!エネルギーの無駄遣いするなー!」
「きゃはは、ごめんなさーい!」思わずモニターに映る彼女に全力で突っ込んでしまうハヤト。
それに、明るく詫びを返すエルレーン…
「…?!」
「な、何なんだ…?!」この状況にもかかわらずの、能天気としかとれないその態度と行動…
もはや、ベンケイはおろか、プリベンターの一行、それどころか敵である恐竜帝国軍もあっけに取られたままそのやり取りを聞いている…
「えっと、トマホーク、カッター、ビーム…後、武器ってあったっけ、ハヤト君?」
「そ、それと、シャインスパークだが…も、もういい、エルレーン!ゲッタードラゴンでなくても奴は倒せる!だから俺と…」
さすがにこのまま彼女に任せておくわけにはいかないと思ったのか、ハヤトが自分に操縦権を渡すように言おうとした、その時だった。
…彼のセリフの中のある言葉、「ゲッタードラゴン」という「名前」が、エルレーンの興味をひいた。
「…『ゲッター』…『ドラゴン』?…それが、この、ゲッターロボの…『名前』?」
「!…あ、ああ…」
「ふうん、そうかあ…『ゲッタードラゴン』、それがあなたの『名前』…ふふ、それじゃ」
にこっと微笑み、自分の乗るゲッタードラゴンに向かって話し掛けるエルレーン。
まるで、その機体が「イキモノ」であるかのように…
「ちゃんと私のいうこと聞いてね、ゲッタードラゴン!…あなたも私と同じ、戦うために造られたものなら…」
ぎりっ、とその目つきが鋭くなる。戦いへの意思に燃える、透明な瞳…!
「大事な人たちを守るために、命を賭けて戦うのッ!!」
「!」
そう言った刹那、ゲッタードラゴンは最も手近にいたメカザウルス…メカザウルス・ギガに向かって飛びかかった!
滞空していたメカザウルス・ギガ…キャプテン・クックは、いきなり襲い掛かってきたゲッタードラゴンに対応できない…!
「たあっ!」
「な、何ッ?!」
「スピンカッターッ!」ゲッタードラゴンのスピンカッターは、的確にメカザウルス・ギガの尾部を切り放った!
どさっと音をたてて落ちるメカザウルス・ギガのしっぽ。
…その途端だった。キャプテン・クックは信じられない光景を目にする…
なんと、全ての計器がいっせいに作動しなくなったのだ!
「…な、何故だ?!け、計器が、計器が…?!」
「…あれ?あなた…知らない、の?」慌てまくるキャプテン・クック…彼のその様子に、不思議そうな顔をしているエルレーン。
…彼女にとっては自明の理であるそのことを、彼に向かって言ってやった。
「メカザウルス・ギガは…しっぽにセンサーが全部ついてるから…そこをやられると、計器がみんなダメになるの」
「な…何だって…?!」衝撃の事実に、強張るキャプテン・クックの顔。
…まさか、メカザウルス・ギガがそんな設計で造られていたとは…
「そんなことも、知らなかったんだ…」
ため息を一つつき、エルレーンはあきれたようにぽつりとつぶやいた。
「メカザウルス・ギガ…かわいそう…だね」
「な、何…?!」
「あなたみたいな、馬鹿なキャプテンに使われるメカザウルスが、かわいそうだって言ったの、よ!」
「な、何だと?!」
「だって、そうじゃない?…自分の乗る、メカザウルスのことも、知らないなんて…!」
「…!」「敵」から強烈な侮辱を受け、ぶるぶる震えるキャプテン・クック…
だが、彼女の言は事実そのもの。
…いや、それゆえになおさら怒りと混乱が彼のこころを支配する。
「かわいそう…」
「だ、黙れェッ!!」
「…『兵器』にも、こころはあるんだよ…?」あくまで、穏やかな口調…まるで、諭すかのように。
その言葉のどこかに、さみしげな響きが混じったように聞こえたのは…気のせいなのだろうか。
「く、くそぉおぉぉッ!!」
「あなたたちみたいな、人には…わからないかも、知れないけど…」
怒号と共に、メカザウルス・ギガをゲッタードラゴン向けて突撃させるキャプテン・クック。
対して、エルレーンは…まったく慌てることもなく、それを見ていた。
そして、メカザウルス・ギガの体当たりがぶち当たる寸前に…軽く右にその身をそらせ、両腕を伸ばす。
「…あ、ああッ?!」
…すると、メカザウルス・ギガはがっちりとゲッタードラゴンの腕の中に捕らえこまれてしまった!
「うおぉぉおぉおおぉぉっっ!」エルレーンの絶叫。
と同時に、ゲッタードラゴンはメカザウルス・ギガを思い切り振り回す…!
そして、上空高く投げ放つ!
それは、かつて彼が使っていた必殺技…!
「大・雪・山・おろしぃぃいいいぃぃッ!!」
「!」
「む、ムサシの…大雪山おろし?!」驚きの声をあげるハヤトたち。
彼らの目の前で、はるか天空に投げ捨てられたメカザウルス・ギガが、強烈な勢いで地面にぶち当たった!
「ぐ、ぐはっ?!」
悲鳴をあげるキャプテン・クック。地面に倒れ付したままのメカザウルス・ギガを見下ろすゲッタードラゴン…
「…ゲッタービーム」ぽつり、とつぶやくように彼女はその技名を口にする。
刹那、紅い光がゲッタードラゴンの額から放たれる…
「?!」そして、キャプテン・クックが状況を理解し終わる前に、その光はメカザウルス・ギガを包み込み、音もなく焼き尽くした。
…数秒の空白の後、紅い光をまとったメカザウルス・ギガは…爆風を撒き散らしながら砕け散り、強烈な爆発音とともに四方八方に飛び散った。
「きゃ、キャプテン・クック…!」その有様を見るバット将軍…
あまりにあっけなく破壊されたメカザウルス・ギガに、動揺を隠しきれない。
一瞬、戦場に異様な静けさが漂った。
その静けさを破ったのは、ゲッタードラゴンの操縦者…エルレーンの、驚くほど冷静で穏やかな声。
「…これで、まず一人。…さあ…」
恐竜帝国軍に向き直るゲッタードラゴン。
彼らに向かって、淡々と挑発的なセリフを投げる…戦うために造られた少女の静かな声が戦場に響く。
「次に、死にたい人は、だあれ…?…いっておくけど、私、強いんだから…。だけど、あなたたちが弱くても、手加減は、しない、わ。だって」
きらりと冷たい光がエルレーンの瞳に宿る。
その透明な瞳で、きっと恐竜帝国軍をにらみつけ…エルレーンは鋭い口調で言い放った。
「あなたたちは…リョウの敵、ゲッターチームの敵…だもの!」
すうっとエルレーンの瞳が次の標的に向けられる…
少し離れた場所に、仲間のあまりにあっけない敗北に立ち尽くす、メカザウルス・ラダ。
「次に、私の相手になってくれるのは、だあれ?…メカザウルス・ラダに乗っている…あなた?」
「!」エルレーンに機体名を名指しされたキャプテン・バルキ。
嫌な緊張が一気に彼を襲う…
目の前で爆散した、キャプテン・クックの死に様が胸をよぎる。
「!…へえ…あなた、いいモノ、持ってるのね…ちょうど、いい」
…と、メカザウルス・ラダをじっと見ていたエルレーンの目に、興味深いものが映った。
…それは、彼女の武器。
「ち、畜生!…お、俺の恐竜剣法で、貴様なんざバラバラにしてやるぅっ!」
「…!…恐竜剣法…」その言葉に、ふっと反応するエルレーン。
彼女の唇に薄い笑みが浮かぶ…
「どりゃあああぁぁあっ!」キャプテン・バルキの雄たけび。
メカザウルス・ラダは腰部にセットされた長剣を抜き、一直線にゲッタードラゴンに斬りかかった!
「…」だが、エルレーンは動かない…いや、彼女は見ている。
先ほどと同じように…メカザウルス・ラダの動きの全てを、見ている。
ぎりぎりまで「敵」をひきつける。…そして、メカザウルス・ラダの剣が大上段からゲッタードラゴンに降りかかった、その刹那!
キィイイィイィィンッ!
甲高い、金属が鳴る音が響く…
「な、何…?!」
「それが、『恐竜剣法』…?…もしかして、何かの、冗談?」
瞬時に手にしたゲッタートマホークでその一太刀をたやすく受け止めながら、小馬鹿にしたような口ぶりでそうつぶやくエルレーン。
「?!」その挑発めいた言葉に、キャプテン・バルキの顔が恥辱でゆがむ。
が、彼には油断などしている余裕などなかった。
頭上でメカザウルス・ラダの剣を受け止めたまま、ラダに向かって思い切り蹴りを放つゲッタードラゴン!
「う、うわぁ?!」
「はぁっ!」だが、メカザウルス・ラダが蹴り飛ばされた勢いで吹っ飛ぶその前に…ゲッタードラゴンの左腕は、素早くラダの右手首をつかんでいた!
ばちいっ、と激しい火花を立て、引き裂かれる衝撃に耐え切れなかったジョイント部分がはじけ飛ぶ。
…メカザウルス・ラダは後方の森の中に吹っ飛んでいく…
引きちぎられた手首、そしてその手の中にあったモノを残して。
エルレーンは、ゲッタードラゴンの手の中に残るその手首を…ぐしゃっ、と握りつぶした。
すると、手には彼女が欲していたモノだけが残る。
「?!」
「け、剣を?!」
そう、「剣」こそが彼女の武器なのだ。
エルレーンはその長剣を構えながら、その刃の鋭さや長さを検分している…
「ふうん…なるほど、ね。よく斬れそう。何で出来てるのかなあ…」
「き、貴様!」
「あなたなんかに、この剣はもったいないよ…これっ、もらうね。…どうせ、もうすぐ、持ち主がいなくなるんだから…いいよね?」
「な、何だとぉっ?!」ぬけぬけと言い放たれ、ぶるぶると震えるキャプテン・バルキ…
なんとかメカザウルス・ラダの体勢を立て直し、再びゲッタードラゴンに向かっていかんとする。
その様を見るエルレーン…彼女は、にいっと不敵な笑みを浮かべ…操縦桿をぐっと握りなおす!
「かわりに、見せてあげるよ…本当の、恐竜剣法を!」
「?!」
キャプテン・バルキの目の前で、自分から奪った剣を構えるゲッタードラゴン。
ひゅん、と空を斬る軽い音。
…その構えは、まさしく…自分たち「ハ虫人」の剣術、「恐竜剣法」のものだった!
驚きに目を見張るキャプテン・バルキ…
だが、それもつかの間に過ぎなかった。
ゲッタードラゴンの剣は、まっすぐに…メカザウルス・ラダに向かう!
「恐竜剣法・必殺!火龍剣!」
「?!…ぐ、ぐあぁあぁぁあぁっ…?!」
そして、メカザウルス・ラダの腰部を水平に斬り払う!
…一瞬の空白の後、そこから光と炎が噴き出し…メカザウルス・ラダは、キャプテン・バルキごと爆発炎上した。
「うふふ…どう?」
ふわっ、と剣を構えなおし…ちらりと視線をその燃えゆくメカザウルスに向けるエルレーン。
その瞳に輝く光は、冷たい殺意。
プリベンターの知っている、あの正義感の強い熱血漢・流竜馬のものでは絶対にない…!
「…!」
「な、何故だ…?!」
「ば、バット将軍、っ…あ、あいつは、あいつは、一体何者なんです?!な、何故、我々の剣術である恐竜剣法を、『人間』のあいつが?!」
動揺もあらわな、恐竜帝国のキャプテンたち…
それもそのはずだ、あの「ゲッタードラゴン」とかいう機体を駆るパイロットは「人間」のはずだ。
…なのに、何故その「人間」が、自分たちの剣術・恐竜剣法を使えるのか?!
「あ…あ奴は、あの、No.39は…」
バット将軍は、ごくり、とつばを飲み込んだ。
あまりの惨状に、いつのまにか喉がからからに渇いてしまって、言葉がうまく出てこない…
「我らがかつて、造りだした…呪わしい、『兵器』だ…っ!」
その「兵器」と呼ばれた少女。
エルレーンは…次の標的をねめつけた。
…残るメカザウルスは、バット将軍のメカザウルス・ゾリを除けば…あと、二機。
「…さあ、次は…メカザウルス・ゴナのあなた?…それとも」
「ひっ?!」
「メカザウルス・ジラに乗っている…あなた?」
「…」押しつぶされたカエルのような、怯えた声をあげるキャプテン・シビラ。
恐怖に強張り、何も言葉を返せないキャプテン・シルラ…
自分の呼びかけにまともに応答しない彼らを、エルレーンはなおも挑発する。
「…悪いけど、私…そんなに、時間がないの…だから、二人いっぺんに、お相手するね」
「?!」
「な、何をっ!なめやがってぇぇええっ!」そこまで言われると、さすがに彼らの恐怖心も…燃えるような怒りでかすんで消える。
怒号と共に、キャプテン・シビラ、キャプテン・シルラ、二人同時にゲッタードラゴンに飛び掛る!
「うおぉぉおぉおおおぉぉっっ!」
「死ねぇええぇぇぇッッ!!」
絶叫する二人のキャプテン。
「…」エルレーンの瞳が、揺らいだ。
瞬時に操縦桿をぐっと倒す。
その操作に従い、ゲッタードラゴンが動く!
その途端、できるだけ姿勢を低くしたゲッタードラゴンが…メカザウルス・ゴナめがけ、一直線に突き進んだ!
まるで地に這うかのごとく低い姿勢をとられたので、ミサイルによる迎撃も間に合わない…!
「?!」
「はぁっ!」そのまま、下から一気に薙ぎ払う!
剣は、鋼鉄を切り裂く銀色の細い筋となって、メカザウルス・ゴナの右足の付け根から左肩まで通り抜けた…!
一刀両断されたメカザウルス・ゴナ…
彼の身体が二つ身に別れた瞬間、パイロット・キャプテン・シビラからの応答は寸断した。
そして、爆発炎上するメカザウルス・ゴナ!
巻き起こる爆風と高熱、黒煙に巻かれ、メカザウルス・ジラは身動きが取れなくなる…
「く、くそっ!」だが、キャプテン・シルラはとにかくまずその煙の壁から逃れようとする。
メカザウルス・ジラの背中から巨大な翼竜の翼が伸びていく…
ばっさばっさとその翼を羽ばたかせ、メカザウルス・ジラは空中高く飛び上がった!
…だが、それすらも…彼がそうするであろうことすらも、既にエルレーンの計算のうちだったことを、キャプテン・シルラは知らなかった。
「…思った、とおり!」
「な、何…?!」さっ、と巨大な影が上方から射してきた。
思わず天を仰いだキャプテン・シルラの目に映ったのは…剣先をまっすぐ自分のいる場所…メカザウルス・ジラのコックピットに向けたまま落ちてくる、ゲッタードラゴンだった!
「…恐竜剣法・必殺!邪龍剣ッ!」
「!」エルレーンがそう絶叫すると同時に、その剣は竜巻のようにきりもみ回転する。
次に何が起こるのか…キャプテン・シルラがそれを理解するのと、彼の意識がこの世から消えうせるのは、ほとんど同時だった。
エルレーンの剣は、違うことなくその場所を破壊した。
真上から貫かれた、メカザウルス・ジラのコックピット…
そこからゲッタードラゴンが剣をずるっ、と引き抜くと、そこから無数の火花がはじけた。
すぐさまその場から離れるゲッタードラゴン。
…そして、爆発。自分の背で燃えるメカザウルス・ジラにもはや視線を向けることもせず、エルレーンは、淡々と…こう口にした。
「…ごめんねえ?でも、仕方ないよね。…あなたたちがいけないんだよ。リョウたちを殺そうとするから!」
幼い口調ながら、その奥底には…人を慄然とさせる、冷酷な響きが流れていた。
その言葉を聞きながら…目の前で繰り広げられた悪夢を呆然と見つめているバット将軍。
自分の部下たちが、あっという間に…あの、できそこないの流竜馬のクローンに即殺された…?!
「きゃ、キャプテン・シルラ、キャプテン・シビラ…」
「最後は…あなただね、バット将軍」
「!」
最後の獲物、バット将軍の搭乗するメカザウルス・ゾリに目を向けるゲッタードラゴン…エルレーン。
「き、貴様…後悔するぞ、必ず…我らを裏切ったことを、必ず…」
悔し紛れか、かすかに震える声でバット将軍がエルレーン…No.39に向かって言い放つ。
…だが、エルレーンは…片眉をちょっと上げるだけ。
「裏切った…?…ふふ、バット将軍、私…もう、ずっと前に、あなたたちを、裏切っている…後悔なんか、してないわ」
「…?!」
「それに…この、暑さ…!…『大気改造計画』だね?!」…と、エルレーンの口から思いもかけない言葉が放たれる。
「!」その言葉に目を見開くバット将軍。
「まだ、あきらめてなかったんだね!」
「も…もちろんだ!貴様ら地上のサルどもなど、この計画さえ成れば…!
…そして、貴様らを葬った後に、奴らにもその後を追わせてやる!
そうすれば、この地上は我々のものになるのだッ!」
「…!…なら!…やっぱり、あなたたちを、許すわけには、いかないッ!」
闘志に燃えるエルレーン。話はもう終わりだ、と言わんばかりに、思い切り彼をにらみつけた!
「行くよ、バットしょうぐ…う、ぐあぁっ?!」
だが、その刹那…!
彼女の表情が、強烈な痛みで歪む。
頭蓋が内部から砕かれるかと思えるくらい、強烈な頭痛。
思わず操縦桿から手を離し、頭をかばうように抱え込む…
あまりの痛みの激しさに、ぐらぐらと視界が揺れ動く。
「?!」
「お、おい、エルレーン?!どうしたッ?!」
「う、うう…り、リョウ、ッ」痛みに噛みしめられた唇が、わずかに動き…かすれる声が、そこからもれた。
「!」
「お、おねがい!ま、まだ、ねむっていて、ッ…そ、そうすれば!わ、私が、バット将軍を、倒すから…ッ!」
両目がかあっと見開かれる…
彼女の懇願の言葉が届いたのか、それはわからないが…始まりと同様突然に、その強烈な頭痛は終わりを告げた。
「…くうっ!」苦痛から解放され、どさりとコックピットのシートにもたれるエルレーン。
ほんのわずか、数秒の間の出来事ではあったが…それが彼女に与えたダメージが小さくないことを、こぼれおちるまでにびっしょりと浮かんでいた冷や汗が物語っている。
「だ、大丈夫なのか、エルレーン?!」
「う、うん…まだ、大丈夫…!」心配げなハヤトに、何とかうなずき返すエルレーン。
額に浮かんだ汗をぬぐって、微笑ってみせる…
「な、何をごちゃごちゃと…死ねいッ!No.39!…『ウランスパーク』をもう一度見舞ってやるわァッ!」
「…ふん!やれる、ものなら!」
「な、何だとぉっ?!」驚愕するバット将軍。
No.39は「ウランスパーク」に怯えるどころか…むしろ、それを出すように挑発してきたではないか?!
…奴も、ゲッターチームと同じ、「ウランスパーク」によって苦痛を感じる「人間」のはずであるのに…?!
「え、エルレーン!」だが、その動揺はハヤトたちとて同じだ。
エルレーンの不敵な挑発、そしてその裏にある意図も、もはや彼らには理解できない…
「吠え面かくなよ!…やれいッ!」
「はっ…!」バット将軍の号令とともに、部下の一人が「ウランスパーク」発射のボタンを押した!
…ハヤトとベンケイは、先ほどの…全身を貫く激痛を思い出し、思わず目を閉じ、身構えた…
…だが。
数秒たっても、何の異変も起きない…不審に思った彼らは、再び目を開く。
すると、メカザウルス・ゾリは…相変わらず、そこに浮遊しているだけだった。
あの「ウランスパーク」なる銀の光は、まったく発射されていない!
慌てた部下は、何度も何度もそのボタンを押す…
だが、メカザウルス・ゾリの頭頂部につけられたアンテナから「ウランスパーク」が発射される兆しはない…!
にやり、と薄く笑むエルレーン。勝利を確信した者の笑み。
「…?!…な、何故だ?!何故『ウランスパーク』が…」
「きゃはははは…!本ッ当に、お馬鹿さんだね、バット将軍!」哀れなほどに動揺する様を見せるバット将軍…
そのバット将軍を、エルレーンは嘲笑う!
「?!」
「知ってた?…メカザウルス・ゾリの『ウランスパーク』はね、その白いガラスみたいなところでエネルギーを造ってたんだよ。
…私がそこ、さっき壊しちゃったじゃない…ふふ、だから、もう、『ウランスパーク』は使えないんだよ!」
「!」それを聞くバット将軍…ざあっ、と身体中から血の気が引いていく。
必殺の武器が使えないことを、あの憎々しいNo.39は知っていたというのか…
自分たちも知らなかった、メカザウルス・ゾリの弱点すら!
…「敵」はもはや、打つ手なし。
バット将軍の狼狽振りから、それを敏感に感じ取ったエルレーンは、とどめをさすべくメカザウルス・ゾリに向かう!
「さあ、飛ぶよ、ゲッタードラゴン!」
「お、おおッ?!」
ばあっと空を斬り、朱い機体が宙を舞う。
そして、メカザウルス・ゾリの眼前に滞空し…その手にした長剣を振りかざす!
慌ててビームで応戦するメカザウルス・ゾリ…
だが、まるで踊るかのように軽やかな動きで、ゲッタードラゴンはそれをかわしている…?!
「はぁぁああぁぁぁっ!」
「ぐ、お、おおっ、な、何だとッ?!」連続してメカザウルス・ゾリ内に響く強烈なショック。
ゲッタードラゴンは、メカザウルス・ゾリから放たれるビーム、その全てを軽々と避けながら…カウンターを喰らわせてくる!
みるみるうちにメカザウルス・ゾリの全身が傷つく。
切り払われた箇所から煙とオイルが吹き、今にも墜ちそうなほどに…
「な、何故、これほどまでに…」
「きゃははっ!…私を造った理由まで、忘れちゃったの、バット将軍?!」
にいっ、と笑ったエルレーン。勝ち誇った口調。
「…あなたたち、『ハ虫人』は!…『人間』より、ずうっと考えるのが遅いんだよ!だからリョウたちに勝てなくて、リョウたちを殺すために、私を造ったんじゃない!
…その上、私は…さらに強化(ブーステッド)された、リョウのクローンなんだからァッ!…その、私に!」
がちゃり、とゲッタードラゴンの掌中の剣が鳴る。
獲物を求めて高ぶっている。
「あなたが勝てるはずなんてないんだよぉ、バット将軍ッ!」
エルレーンの高らかな宣言。その言葉が、バット将軍の背筋を貫いていく…
そして、そこからじわじわとあふれ出てくる。
…かつては、自分たちの「道具」、「兵器」であったモノの恐ろしさ…
その「兵器」が今、自分たちに牙を向く。自分たちを、殺そうと…!
「…これで、最後!」
「!」
「恐竜剣法・必殺!…火龍剣ッ!!」
ゲッタードラゴンの剣が薙ぐ。メカザウルス・ゾリの中心部を、鋼鉄の刃は確実に破壊した…!
ばちばちと火花を立て、砕けていくメカザウルス・ゾリ…
大爆発の寸前、そこから小さな脱出ポッドが飛び出す!
…バット将軍だけは、何とかそこから逃れたようだ…
しかし、エルレーンは…敗北し、もはや戦闘能力をほとんど持たないバット将軍をも、殺すべき「標的」とみなす。
何故なら、彼はリョウの…ゲッターチームの「敵」だから!
「く、くそっ…め、メカザウルス・ゾリまでやられるとは…!」
「!…逃がさない、バット将軍!ここで…」
エルレーンがそう吼え、剣を再びバット将軍に向けようとした、そのときだった。
彼女の全身を、再びあの衝撃が走りぬけた!
「…ぐうっ?!…うあぁ…」
頭痛だ。
激しい頭痛が彼女を貫いた。
ぎりぎりと頭を締め付けるような痛み。
エルレーンは頭を抱え、苦しそうな呼吸を繰り返す。
エルレーンが操縦桿から手を話してしまったため、ゲッタードラゴンも作動命令を受け取れず、だらんと両腕をたらし、動きを止めてその場で滞空するのみ…
「ど、どうしたんだ?!」ベンケイの呼びかけも彼女には聞こえない。
「うう、っ…」汗が流れ落ちていく。あまりの痛みに、もはや言葉を発する事もままならない。
…限界が、来たのだ。
あまりに急な「目覚め」は、同様に激しい害をもたらす。
意識を失う寸前、彼女が最後につぶやいたのは…いとおしい、自分の分身の「名前」だった。
「リョ…リョウ…」
「?!え、エルレーン!エルレーン!大丈夫か!?」ハヤトの通信。
しかし、それも彼女にはもはや聞こえていなかった…
「リョウ…わたし…わたしは、リョウのために…ッ…」
そう言い切るや否や、すうっと彼女は白目をむいてしまう。
がたん、という音とともに、全身の力が抜けたように操縦桿に突っ伏した。
苦しげな呼吸音だけが、通信機を通して聞こえる…
「え、エルレーン!…お、おいベンケイ!」
「わかってる!」ベンケイがコックピットを飛び出し、ゲッタードラゴン内の通路を駆け抜けて彼女の元へいく。
ばたん、と扉を開け、ドラゴン号のコックピットに入ったベンケイの目に映ったのは、気を失って倒れこんでいる…「仲間」の姿。
「お、おい!エルレーン!エルレーン!」頬をたたいても反応がない。
エルレーンはベンケイの腕の中で、全身の力を失ってぐったりとしている…糸の切れた、操り人形のように。
「…ふん、何がなにやらわからぬが、今日はこれで失礼させてもらうぞ」命拾いをしたバット将軍が、それでも強気に言い放つ。
「待て!バット将軍!」
「そのできそこないに伝えておけ!恐竜帝国を裏切った貴様には地獄の苦しみが待っているのだと!…さらばだ、ゲッターチーム!!」
そういうが早いが、バット将軍のポッドは急速旋回し深い森の中に姿を消した。
「くっ…待て!」
「だ…ダメだハヤト!…り、リョウが…い、いや、エルレーン…?…と、とにかく、気を失っちまってる」
「…くそっ!」ハヤトが舌打ちしながら、そう毒づく。
バット将軍をもうちょっとで倒せるチャンスだったのに…!
「…ハヤト君。…リョウ君は…一体、どうしたんだ?」アーガマのブライト艦長が、数秒の空白の後に問い掛けた。
「…目覚めたんですよ」ハヤトはふうっと長く息を吐き出し、静かに言った…
「…何が?」
「…『眠り姫』…もう一人の、リョウがね」
そう。ティファの予言は成就された。
それが示していたものは、生きのびていた恐竜帝国との対決という信じられないほど残酷な運命と、そして…
「眠り姫」の復活。
あの少女、自分たちのかけがえのない「トモダチ」との再会…
それが、果たして幸運の予兆なのか、それとも不運の先触れなのか…
今のハヤトには、その答えなど見いだせそうもなかった。


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