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◆ Monologue〜Nobody hears, Nobody knows〜
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この「未来」の世界は、俺の気に喰わない。
帰りたい。帰りたい。帰りたい。
俺たちは、この世界にいてはならないはずの「人間」…何せ、俺たちは「過去」から来た門外漢なのだから。
にもかかわらず、プリベンターは…「未来」の世界の揉め事にまで介入してしまった。
そのせいで、俺たちは戦わなきゃならん…
まあ、だが、それはいい。
相手が誰であろうと、俺は戦う。
それが俺の使命。俺の生きる意味。俺の存在理由。
そうして、グレートマジンガーここにありと知らしめてやるんだ。
誰に?
…誰にだっていい。とにかく、誰にでも、だ。

俺たちのいなくなった世界は、いったいどうなっているのだろうか。
科学要塞研究所は大丈夫なんだろうか?
グレートとビューナス、ついでにボスボロットまでいなくなってしまったあの研究所を、一体誰が守れるというのか。
所長。
所長は、一体…どうしたのだろうか?
できることなら、無事でいてほしい。
今の俺には、そう祈る事しか出来やしない。
だが…地下に潜伏したミケーネの奴らが、こんな好機をみすみす見過ごすか?!
…畜生。
もし、あの時、あのわけのわからん爆発のせいで…ネオ・グランゾンのせいで、こんな「未来」の世界に何て飛ばされなきゃ!
そうすれば、俺が必ず守れるのに!
科学要塞研究所を、俺のグレートで…所長を守ることが出来るのに!
俺はグレートのパイロットだ。
小さい頃から特訓に特訓を重ねて、ようやく俺はその座を手に入れた。
だから戦う。俺は戦う。
「正義」のために、守るべきモノを守るために…
そうだ、俺は今までずっとそうやってきたじゃないか、だからこれからもそうするだけだ。
俺のグレートが強いってことを、何よりも強いってことを証明してやる。
そうさ、グレートは強い。何よりも。
プロトタイプのマジンガーZなんかよりも、ずっと、ずっと。
ずっと、ずっと…

…マジンガーZ。
俺のグレートの前身。
そして、甲児君の愛機だ。

初めて甲児君に会った時、俺は驚いた。
どっかの幼稚園のわんぱく小僧を、そのまま大きくしたような。
それが、甲児君だった。
いたずら者だが元気がよく、太陽のように明るい…そんなわんぱく小僧を嫌う奴がほとんどいないように、俺も素直に甲児君に好感が持てた。
…ただ、一つだけ気に喰わないものがあったけれども。

それは、「名前」。甲児君の、「名前」。
「兜甲児」、それが彼のフルネームだ。
そして、その名字は…あの人と、同じモノだ。

マジンガーZのパイロットの「名前」を知った時、俺とジュンは笑ったものだ。
「へえ、『兜』…所長と同じ!変わった姓ね、ふふ…」
ジュンはその時、こう言った…多分に、冗談のつもりで。
「…もしかしたら、所長の息子さんだったりして!」

だが、それは、現実だった。

甲児君は、まだ所長のことを知らない。会ったこともない。
ただ、マジンガーの兄弟…グレートマジンガーの開発者である所長に、一度会いたいとは何度も言っていた。
会えば、彼はそのことに気づくだろうか。
半身を機械と為したその男が、自らの「父親」であるということに。
見ただけで、わかるものなのだろうか。
もしそうなら、それが…血の絆、とでも言うのだろうか…?

俺には…わからない。
俺にはいない。血のつながった者など。
だから、わからない。
わかるはずもない。
わかりたくもない。
わかりようもない。
わかる時は、永遠に来ない。

所長。
あなたは、俺を施設から引き取って、グレートのパイロットにするために猛特訓をさせてきた…
ガキである俺が何度泣いて、何度逃げ出そうとしても…容赦なく捕まえて、再び訓練に戻す。
俺ははっきり言って、あなたを恨んだ。
何故、自分がこんなつらい目にあわねばならないのか、と…
だが、今は違う。
俺は知っている。ミケーネ帝国を倒すため、その身を粉にして戦わんとする所長を。
俺は、ジュンは、そんな所長の力になりたくて、ずっとやってきたんだ。

だけど、所長。
あなたは何故、それを甲児君にさせなかったんだ。
サイボーグになった自分を、彼らに見せたくなかったからか?
…ならば、何故。
あなたは何故、いまさら…彼らに会いたい様なそぶりを見せたんだ?!

いつだったか…まるで、遠い昔のように思えるけれど。
「未来」に飛ばされる前、イージス作戦にしゃかりきになっていた頃…
ハードワークの合間でかすめ取るようにとる休息の時間、コーヒーを飲みながら所長が笑って言った―
「全てカタがついたら、平和が再び訪れたなら。…その時は、会えるだろうか…甲児たちに」
俺は一瞬、虚を突かれ黙り込んだ。
だが、ジュンがすかさずこう言って、その場の雰囲気を守ってくれた…
「ええ、その時は。みんな一緒に、平和に暮らせますわ…」
所長は、安堵したように微笑んだ。
俺は確信した。
もし、全てが終わり、平和が訪れたなら…この人は、甲児君たちに自分の正体を明かすつもりだ、と。
そうして、一緒に暮らすのだろう…当然じゃないか、血のつながった家族なのだから。

…だけど、その時…俺は、どうしているのだろうか。
戦う事しか俺にはない。戦う事が俺の存在理由。
平和になったら。争いのない世がやってきたならば。
俺は、俺は、一体…何処に行けばいいというのだろう?

だから、戦いの在る今は、まだいいのかもしれない。
いつまで考えてもまともな「答え」のでやしないその問題を、とりあえずは頭の片隅にほうっておけるから。

所長。
だけど俺は、今の今まで必死に戦ってきたんですよ。
ミケーネ帝国といのちをかけて戦ってきたのは、俺とジュンなんですよ。
俺には戦いしかないだから俺は死ぬ気で戦いますよそうだ別に死んだってかまいやしませんそうみんなのいのちを守るため科学要塞研究所を守るため所長のいのちを守るためなら俺はそのためにつらい特訓を繰り返してグレートマジンガーに乗る力を手に入れたんだだからグレートで戦わないならば俺には何の価値もないああ畜生ッそうだから俺は戦います「仲間」のために「正義」のために、

…そして、多分、…あなたのために。

だから、平和な時代がやってきても、俺を、戦う事しか出来ない俺を、
























………。



兜甲児。
俺の「仲間」、俺と同じ、マジンガーを駆る男…
かげひなたのない、誰にでも愛される男。
鉄(くろがね)の城・マジンガーZを与えられ、神にも悪魔にもなれる力を授かった男。
祖父・兜十蔵が与えた脅威のマシン。彼の誇り、彼の才、彼の力。
彼が、皆の前で、そのロボットを誇ってみせる時…
「これはおじいちゃんが俺に残してくれたんだ」と、小鼻を膨らませて語る時…

俺がいつもこころのどこかで、反吐を吐き捨てたくなるような気分になっていることを、彼は一生知らないままで生きていくのだろう。



………。



あああああああ畜生何だって俺はこんな事を考えているんだそうだまったく馬鹿げているぜ甲児君は本当にいい奴じゃないかちょっとばかり抜けているけれども明るくて屈託なくて誰にでも好かれてしかも勇気があるマジンガーZのパイロットとして勇敢に前線に立つそうして「仲間」を守ろうと必死で戦うそうさ彼は俺たちの大切な「仲間」じゃないかそう本当に彼はいい奴だ疑いようもないくらいになそうさ、




所長だって、そんな甲児君を誇りに思うんだろうな。





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