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◆ 奇妙なる共闘(2)
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「…な、」
カシム・キングは、絶句した。
眼前に広がる、巨大モニターが映し出している戦場―ここより遠く離れた、ポイントZX。
その中では、まさに今、彼の予想外の事態が進行中であった。
あのミサイルが―4基もあれば、十分に時間は稼げるはずだったのに―
破壊されるスピードが、遥かに速い。
こんなはずでは…こんなはずでは、なかったのに!
「か、カシム様!」
「…!」
その中に割り込む、ビラム司政官の通信―
蒼白となり、強張った彼の表情がいやでも伝えてくる、危機的な状況。
「よ、4基のミサイルのうち、2基が既に発射機構を破壊され、発射不能!残り2基も、もはや…!」
「何をしている!早く、早く発射せんかあッ!」
「は、はいッ!もうすぐシークエンスを終了し、発射されますッ!…し、しかし、」
走査線の中、怒鳴りつけられ身をすくませるビラムの額に、冷や汗が伝う。
「こ、このままでは…あのミサイルによる時間稼ぎももう持ちません、人員の総退避が間に合いません!
『あれ』の点火に移るまでには、まだ…!」
「ま、まだ超兵器はあっただろうが!出せ!出せ!もっと出せ!」
もう、出し惜しみをしている場合ではない。
月の連中やトカゲどもの襲来に備え、出来れば使わずにおきたかったが―もはや、そんな状態ではない。
時間を、ともかく時間を稼がねば…
奴らを、ここから逃がさぬために!
「ともかく、奴らをこの地に喰い止めておくのじゃ…そうすれば、『あれ』で全てのケリがつけられる!」

轟音。
沸き起こる白煙が、一挙に空気を喰らっていく―
「…!」
「な…発射する?!」
一斉に、パイロットたちの視線が一点に集中する。
4基の核ミサイルのうち、2基が…その底部から、炎と白煙を吐き始めた。
凄まじい熱波に、発射台に取り付いていた機体が後退を余儀なくされる。
ミサイルは、ゆっくり、だが確実に昇っていく―天に!
一瞬、彼らの合間に絶望がよぎる…
だが、その時。
何処から、自信と意思に満ちた声がした―!
「…なあに、すぐに落とせるさ!」
…今はミサイルの爆炎にまみれ、見えなくなってしまったポイントZX―
その煙幕をくぐりぬけ、貫き、姿をあらわす…
「!」
「獣戦機隊!」
「ゲッターチーム…!」
「お前ら、無事だったのか…!」
それは、獣戦機―そして、ゲットマシン!
「忍!合体だ!」
「わかってる!行くぞ!」
『おう!』
獣戦機隊が…地を駆ける巨象が、豹が、獅子が、空を舞う大鷲が―連なる。
彼らの精神エネルギーを糧として、忍の放つキーワードを鍵として、4体の獣が機神になる!
「キーワード!D・A・N・C・O・U・G・A!ダンクーガ!」
超獣機神ダンクーガが、顕現する―!
「やあああああああってやるぜええええっ!」
忍の咆哮!
天高く舞い上がる、漆黒の機神!
同時に、機神が手にすなるのは―
「断・空・剣!」
握った柄の元よりレーザーが伸び上がり、刀身と化す。
その刀身を叩きつける―核ミサイルの推進部に!
一撃は、推進部にダメージを与えたものの…だが、それでもミサイルは飛翔を止めはしない。
「へっ…!随分と頑丈なこって!」
しかし、不敵に笑んだ忍の表情に、揺らぎはない…!
「エルレーン!」
「お前、大丈夫なのかよ?!」
「うん、何とか…!」
そして、ゲッターチーム。
ベンケイたちからの通信に、エルレーンはうなずく。
―その表情に、苦みが走る。
身を動かせば、銃創が痛む。
だが、だからと言って退くわけには行かない。
そうだ、退くわけには行かない…これぐらいの傷で。
(だって、見ている…!)
メカザウルス・グダに、一瞬視線をやる。
あっという間に、その中に吸い込まれていった恐竜ジェット機―
あの男が、見ている。
「…!」
だから、今だけでいい、この痛みは忘れよう。
自分がやるべきことは―ただ一つ!
「ハヤト君、ベンケイ君!」
「おう!」
「合体だ!」
(それは、戦うことだけだから!)
「…チェーンジ・真・ゲッター1!スイッチ・オォンッ!」
真・イーグル号が空を切り、
真・ジャガー号が空を裂き、
真・ベアー号が空を衝く…
そして、邪神がその姿をあらわす…
三位一体、真・ゲッター1!
「ゲッター・トマホーーーークッ!」
エルレーンの雄たけびと共に、長大な柄を持つ戦斧(バトルアクス)があらわれる。
勢いをつけ、彼女はそのまま大上段から核ミサイルにうちかかる!
「…!」
もちろん、強固なその兵器はその一撃では崩せない…
それでも、彼女は何度も何度もゲッタートマホークを振りかざす、その悪夢を止めるために!
「…ふっ!」
そのダンクーガの姿を、真・ゲッター1の姿を、彼女の姿を、男は見ていた。
メカザウルス・グダのブリッジ(艦橋)から見ていた―
そして、プリベンターの、恐竜帝国軍のパイロットたちも!
一機、また一機、ミサイルに攻撃を加えだす。
一時は絶望に絶えた攻撃が、再び一挙に降り注ぐ―!
防衛システムがいくら砲撃しようとも、超兵器ゴーストX-9がまたあらわれようと、物の数ではない。
空を飛ぶ者は空から、地を行くものは地から、「仲間」を支える者は支え、見守る者は見守り…!

斧が、剣が、爪が、砲弾が、光線が、ミサイルが、牙が、
矢が、鎌が、拳が、尾が、槌が、銃撃が、鎖が、

ミサイルの推進部を、推進部だけを狙って降り注ぐ―!



所詮…集結した彼らの力に、意思なき鋼鉄の塊は抗えない!



「…っしぇええええええいッ!」
絶叫。しゃがれ声の絶叫。
大地に堕ちていく核ミサイルの映像を目の当たりにしながら―がたがた震える声で、カシムが絶叫した。
興奮のあまり、椅子から立ち上がる醜老。
その息は、恐怖と興奮ですっかりあがってしまっている…
「は?」
「い、今すぐ爆発させいと言っておるのだあッ!」
「え、あ…」
「早く!一刻も早く、あの超爆弾を爆発させ…」
「わかっております!し、しかし…」
ビラムは必死に言い募る…まだその時ではない、と。
「しかしッ、まだポイントZXでは総員が退避完了しておりません。全員が安全圏まで退避するまでには、後…」
「や、やかましいわあああああッ!」
だが。
その必死の、当たり前の苦言すら、今やこのカシム・キングには聞こえない。
「こ、このわしが!このわしが、命令しておるのだッ!…その程度のことがどうだというのだ!」
「あ…で、ですが、ッ」
「口答えするなあッ!ここであ奴らを滅さねば、や…奴らはわしを殺しにきおるッ!」
「…」
もはや、無駄だった。
何を言っても、狂乱した老翁の耳には届かない―
惰弱が故に怖じ、臆病が故に恐れる。
そして、恐怖した精神は麻痺しきり、まともに思考回路を動かさない。
吐き出すのは、短絡した結論。
あまりに単純すぎあまりに愚劣すぎあまりに手前勝手すぎる結論。
「殺されてなるものかッ!殺されて…そ、その前に奴らを殺すのじゃあッ!」
その幼児のこねる駄々のような結論を、ビラム司政官は呆然と聞いていた。
しかし、その駄々を自分に言い張っているのは…自分の上官、彼らイノセントの実権を握る独裁者なのだ―
「…地下の、あの超爆弾を爆発させよ!今すぐにだあッ!」
「…は、はい」
弱々しく、ただこう言う以外に彼に何ができただろうか?
彼はイノセント。一介のイノセントに過ぎなかった。
それだけが、弱かったことだけが、彼の罪だった。


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