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◆ 来たれ我が最大の宿敵よ、我に殺されんがために来たれ
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「うーん、何でだろなあ…わかんない、や」
「…だろ?異常無いように思えるんだけどな」
処置なし、といった顔つきで、メカザウルス・ロウの点検を終えたエルレーン。
そばに立つアストナージも、まったくやるかたなしといった風情で、ため息をついた。
「…じゃ、エルレーン。お前の目から見ても、応急修理に問題はないんだな?」
アストナージはもう一度、念を押すようにエルレーンに問いかける。
回収(サルベージ)したメカザウルス・ロウと、真・ゲッターロボ…
すさまじい破壊力を秘めた邪神・真・ゲッターはもちろんの事、炎熱マグマ弾という強力な遠距離砲、そして怪力を併せ持つメカザウルス・ロウ…
プリベンターは、こちらの機体も戦力として使えると踏んでいた。
そのため、まず点検修理が行われていたのだが…
メカザウルス・ロウのほうは、すでに応急修理は終了している。
しかし、にもかかわらず…肉食恐竜は、一向に目覚める様子がないのだ。
あの日、あの戦場で稼動を停止してから、まるで壊れたおもちゃのようにぴくりとも動かぬままだ…
問われたエルレーンも困っている。
製造時にインプットされた、機械に関する広範な知識…
しかし彼女の知識をもってすら、修理されたメカザウルス・ロウが何故起動すらしないのか、まったく見当がつかない。
「うん…だから、起動ぐらいしないとおかしいんだけどなあ…」
「うんともすんともいいやがらねえ。…やれやれ、俺、これ本当に直せんのかなあ?」
「な、直してよお、アストナージさん!」
「いやー、でも…どうせ直らないんなら、分解しちまうか!」
「?!」
いきなりのアストナージの突き放した言葉に、エルレーンは真っ白になる。
が、何処かうきうきとした様子のアストナージ、実に楽しげに続きを語ってみせる。
「恐竜帝国のテクノロジーにも興味あるしな…特に、こいつの人工知能!あのNo.0って子の言葉をあそこまで理解してたってのは驚きだぜ。
どういう構造になってるんだか、ちょッくら分解(バラ)して…」
「だだだ、ダメなのー!ロウ、殺しちゃだめええええ!」
「はは、じょーだんだって、じょーだん!」
「むー…!」
半泣きのエルレーンに詰め寄られ、アストナージは笑ってそれを流した(だが、その目のどこかに本気の色があったことも確かだ)。
「だけど、こいつの人工知能に興味あるってのは本当だぜ。No.0がこいつを動かしてた様子からすると、単純な…」
「…『No.0』じゃ、ないのッ」
と、その時、エルレーンから指摘が入った。
一瞬、ぽかんとなったアストナージ…が、しばしの空白の後、彼は彼女の正しい「名前」を思い直し、言い直した。
「!…あ、ああ、そうだったな!…ええっと…『エルシオン』、だったか?」
「そう…!」
すると、エルレーンはにこっと微笑んだ。
そう、彼女はもはやナンバーで呼ばれる存在ではないのだから。
「と、ともかく、エルシオンがこいつを動かしてた様子からすると、もう単純なロジックを超えてる。
あの子の感情に反応していたようにすら思えるぜ…まるで、『人間』みたいによ」
「…」
エルレーンは、無言のままそれを聞く…
二人の視線が、自然に上向いていった。
そこには、メカザウルス・ロウ。その瞳に今は光はなく、ただうろ暗い闇があるだけ。
しばし、機械蜥蜴に目をやっていたアストナージ…
やがて、苦笑しながらエルレーンにあえて明るくこう言ってきた。
「…ま、ともかく、もうちょっと頑張ってみるわ。とりあえず、起動に成功させないとな。武装とかはその後でいいだろ?」
「うん…!」
「アストナージさん、真・ゲッターはどうなんですか?」
と、そこにリョウの声が割り込んできた。
すると、先ほどよりは幾分希望と自信に満ちた表情になったアストナージ、彼が嬉々として喋りだす。
「ああ、そいつもなかなか面白かったぜ。…ほら、ゲッターロボってのは三人乗りだろ?
だけどな、あの真・ゲッターは、真・ゲッター1、真・ゲッター2、真・ゲッター3、どれに合体しても一人で操縦が可能になってたんだ」
「え…で、でも、早乙女博士は、そんなもの…」
戸惑うリョウ。
それも当然だ…ゲッターロボというのは、三機のゲットマシンが合体して為るモノ。
それ故、各ゲットマシンにそれぞれ一人のパイロットがいなくてはならないはずなのだが…
が、アストナージがリョウの言葉を遮って説明を続ける。
「あの子はちゃんと一人で合体・分離までやってたろ?恐竜帝国がつけたんだろうか…真・イーグル号に、それらしき装置がついてたぜ。
…真・ゲッターはお前たち三人が乗るから、そいつははずしておいたよ。
今は、ゲッターロボGのドラゴン号につけてある」
「わあ、それじゃあ…私、ゲッターロボGで戦えるんだ!」
隣で聞いていたエルレーンも、そのニュースにぱっと顔をほころばせた。
「ああ、まだ本格的なテストはしてないが、多分大丈夫だ。
ドラゴン、ライガー、ポセイドン、どの形態でも一人で動かせるぜ。せっかくの装置だ、使わせてもらおうぜ」
「…☆」
しかし、アストナージの顔がにわかに真剣になった。
リョウの方に向き直り、真面目な口調でこう告げる。
「ただ、真・ゲッターのほうはもうちょい調べさせてもらうぜ。
…何しろ、あんなことしでかしてくれた機体なんだからな…まだ何が隠されてるんだか、わかったもんじゃない」
「…」
リョウは、一瞬困ったような表情を浮かべたが…仕方なく、うなずいた。
確かに、あの時…真・ゲッター1は、自らの意思で動いたのだ。動かすべきパイロットはその中にいなかったはずの、真・ゲッターが。
今度、自分たちが乗った時に…また、あのような事が起きるのか。自分たち「人間」は、これを扱いきれるのか…?!
「俺たちが乗る分には、真・ゲッターにまったくの危険はない」などと軽々しく言えるほど、リョウはあの事態を軽んじていたわけではなかった。
ゲッターチームのリーダーとして、彼は真・ゲッターの危険性を誰より重く認識していた…
「と、ともかく、…それじゃあアストナージさん、お願いします」
「ああ、まかせとけって!」
アストナージとそんな短い会話を交わし、リョウはその場から離れる。
それを見たエルレーンも、彼についていこうとするが…その前に。
そびえ立つ機械蜥蜴に近づき、彼の鋼鉄の尾にそっと寄り添った。
「ロウ…」
その手でやさしく尾をなぜる。冷たい、金属の感触。
「痛いよね?ごめんね。…でもねえ、アストナージさんがすぐに直してくれるからね。
私も、ロウのこと直してあげるよ…だから、早くご機嫌、直してね…!」
それだけやさしくささやき、彼の顔を見上げ…エルレーンは穏やかに微笑んだ。
そしていとおしげな目でしばしロウを見つめた後、彼女は急いでリョウの後を追っていった…
『…』
空白。
が、その時だった。
ほんの一瞬、機械蜥蜴の両の瞳が、かすかに…ぼんやりと、赤い焔を燃え立たせた。
『…<え・る・し・お・ん>…』
「…?」
格納庫内の空気を震わせていった何かに気づき、アストナージは顔を上げる。
だが、辺りを見回してみても、相変わらずそこにはメカが立ち並ぶばかり…
「…気の、せいか…」
小さくそれだけつぶやき、彼はすぐに修理作業に戻っていった。

「…」
期待を打ち砕かれた重苦しさ。それが鉄也の脚にからみつく。
ずるずるとその脚を引きずるようにして、鉄也はアーガマの廊下を自室へとむけて歩いていた。
また、今回も駄目だった。
状況が状況だから、と却下された。
余裕があれば、という条件付で、「検討しておく」との返事だけ…
毎度毎度同じ返事をもらって帰る。
徒労に終わった説得と主張に、苛立ちを覚えながら。
「よっ!暗い顔してどうしたんだい、鉄也さん?」
「…甲児君か」
床ばかり見つめて歩く鉄也の背中に、呆れるくらいに明るい呼び声が飛んできた…
振り向くと、そこにはマジンガーZのパイロット…兜甲児の姿があった。
彼は鉄也の重く浮かぬ顔を見るなり、何事かを察知したらしく…軽く、眉をひそめた。
「また…例の件かい?」
「ああ…」
そう、鉄也は今先ほどまでブリッジに行って、ブライト艦長に自分の考えを伝えてきたのだ。
今までこの「未来」の世界に飛ばされてから、プリベンターは数個の機械獣製造プラントを発見していた。
しかもその全てが稼動中であったため、機械獣は自分たちにむけて牙をむいてきたのだが…
そのことに強い不審感を抱いた鉄也は、今までに幾度もブライト艦長たちプリベンターの上層部に進言してきたのだ。
もっと詳しく調べる必要がある、と。
まだ稼動しているプラントがあるのならばそれを見つけ破壊せねばならないし、それを動かしているであろう張本人を見つけなければならない、と。
しかし、艦長の答えは常に同じ…「NO」だ。
今は、一刻も早くシビリアンの長、アーサー・ランクと月の女王、ディアナ・ソレルによる講和によって、イノセント・ムーンレィス間の争いを止める必要がある、と。
そうして、後顧の憂いを立つのが目的である鉄也の進言はいつも退けられてきた。
今日も、また…
鉄也はそのことに軽い憤りを覚え、深いため息をついている…
だが、むしろプリベンター内メンバーの意見は、そのほとんどが鉄也の主張と反している。
それは、同じマジンガーを駆る「仲間」である、甲児であってもそうだった。
異様なまでに機械獣プラントの殲滅にこだわる鉄也を見ていると、「今はそれどころじゃないのに」と忠告したくなるほどだった。
暗い面持ちの鉄也に、甲児は困ったような目線を向けた。
そして、思わずそれを口に出してしまう―
「鉄也さん、気持ちはわかるけど…今は、他にやる事があるんだ。だから、そっちのほうに専念しようぜ」
「!…甲児君、君って奴は…!」
かあっ、と鉄也の表情に怒りが浮かぶ。
機械獣…ドクター・ヘルの操りし邪悪な鋼鉄の獣(けだもの)。
本来ならば、あのプラントの調査を最も望むべきなのは、ドクター・ヘルを打ち砕く使命を持つ甲児だろう…
にもかかわらず、知ったような口調でそんな事を言ってくる甲児に対し、鉄也ははっきりと苛立ちと憤りを表にあらわして対抗した。
それを見た甲児は、慌てたような口調でいいわけめいた事を口にする…
「そ、そりゃあ、俺だって…あのプラントのことは気になってる。だけど、今は…」
「ふん…この世界の『人間』でもないくせに、そんなに首を突っ込んでいいのかい?」
だが、鉄也は…まさに「吐き捨てる」と呼ぶのがぴったりな口調で、そう言い放った。
「?!…て、鉄也さん?!」
「…」
急に声を荒げた鉄也に、甲児は困惑の色を隠しきれない…
そのまま、嫌な空白。
どちらとも目をあわさず、ただただ二人の間を奇妙な静寂が埋めていく…
だが、十数秒もしたころだろうか。
「…すまなかった。気が、立ってたんだ…今のは、忘れてくれ」
「…」
平坦な口調で一気にそう言いきり、そのまま鉄也は甲児の顔を見ないまま…再び廊下を歩き始めた。
甲児も何も言えないまま…その背をただ、見送った。
鉄也が廊下の曲がり角へと消えていった瞬間…甲児の全身から、途端に何かが抜け落ちる。
ようやくそこで甲児も理解する、今自分はとてつもない緊張を強いられていたのだ、と。
…あの人の前で。

どうしてなんだ。
剣鉄也は、もう幾度も幾度もその言葉ばかりを頭の中で反芻し続けていた。
俺は間違っていない、決して間違っていないじゃないか、と。
機械獣のプラント…しかも、稼動状態にあるモノ…が、今までに多数発見されているというのに。
多数、ということは、すなわち。それが、ただの偶然ではないということを示しているではないか。
つまり…そのプラント群を、自ら動かしている者がいる。利用しようとしている者がいる、ということだ。
そして、そいつらは、おそらく…地下勢力だろう。
地上の「人間」、シビリアンたちがあれを動かすだけの余力を残しているとは思えない。
現に、彼らの勢力が俺たちを襲う時には、必ずウォーカーマシンやランドシップを持ち出してくる。
では、月の「人間」…ディアナカウンターかと言えば、そうでもあるまい。
あのようなプラントを発掘し、悠々と操れるだけの科学力を持つ集団…
それは、恐竜帝国。
そして、もしくは。
俺の、最大の「敵」…ミケーネ帝国の奴らかもしれない…!
いいや、きっとそうだ…
あいつらがそう簡単にくたばるものか、奴らは地面の底でのうのうと生きながらえていたに違いない!
そして、今…あのプラントで機械獣や戦闘獣を量産して、一気に地上に躍り出るつもりなんだ!
もしそうだったとしたら、叩くのは今しかないというのに!
相手の準備が整わないうちに、プラントを潰して潰して戦力を削いで、奴らをおびき寄せて一網打尽にする。
ぼやぼやしてたんじゃ遅いのに…!
こうしてる間にも、奴らは着々と地上侵略の準備を進めているのかもしれない。
…「未来」の世界の「人間」どもの争いなんて、もともと俺たちがかかわる問題じゃないだろうに!
俺はミケーネの奴らと戦うためにグレートに乗ってるんだ!
俺のカンがじりじりいっているんだ、今すぐ奴らを叩いておかないといずれは大変なことに
「鉄也!」
「?!」
思わず、びくっとなってしまった。
背中にぶつかってきた声に振り向くと…そこには、自分のパートナーパイロットである炎ジュンの姿があった。
「あ…ああ、ジュン…か」
「どうしたの?ぼーっとして」
「いや…何でもない」
少しだけ心配げな風になったジュンを見るなり、鉄也は何も考えすらしないで、そう答え返した。
「そろそろ哨戒の時間よ。甲児君もさやかさんももう格納庫に行ってるわ。私たちも行きましょ」
「ああ…」
ジュンに伴われ、鉄也はその足を格納庫へと向ける…
もやもやと自分の中にたゆたう、じとっと皮膚の内側に張り付くような霧のごとく不快な気分を抱えたまま…

「…んーと、こっちも大丈夫そうだなあ」
「こちら鉄也、こっちも問題ない」
同じく哨戒任務中の甲児から、のんきな通信が入ってきた。
それに短く返答を返し、鉄也は彼らと合流するため、グレートマジンガーの機首をマジンガーZのいる方角へと向けた。
ビューナスAを駆るジュンもそれに続いた。
甲児が乗るマジンガーZ、さやかの乗るダイアナンAがすぐに視界の中に現れてくる。
「ふう…よかったぁ、何にも出てこなくって!」
「はは、さやかさ〜ん、大丈夫だって!機械獣でも出てきたら、その瞬間にブレストファイアーでバーベキューにしてやるからよう!」
「…」
おどけた調子でそういってのける甲児に、くすくすとさやかがおかしそうに笑った…
その、緊張感のない空気。
鉄也は何も言わぬまま、ただその視線をぼうっとレーダー機器に落としている。
が、その時だった。
そのレーダーのスクリーンに…自分たちからそう遠く離れていない地点に、突如機影が現れた。
微弱ながらもレーダーはその反応を示し続ける。
「それじゃ、帰還しま」
「…?…待ってくれ」
ジュンの促しを、鉄也の低い声が阻んだ。
「?…どうした、鉄也さん?」
「今、レーダーに妙な反応が…」
鉄也は顔を上げ、その方向にふと目をやってみる…
甲児たちのレーダーにもその反応は弱々しいながらも現れたらしく、彼らもその正体を確かめんと目を凝らした。
…そして、それは確かにそこに在った。
「!」
「あ…あれは?!」
それは、実に奇妙な光景だった。
荒野にまばらに生えた草や低木…それらが大きく身をしならせくねるほどの強風が、今ここには吹き渡っている。
しかし、その影は…びゅうびゅうと吹くその風の中揺らぎすらせず静止し、いつの間にかそこに在った。
まるで、なにかのモニュメントのごとくたたずむ…黒く、細長い影。
しかも、それは存外大きい。
ちょっとした建物ぐらいの高さはあるのではないだろうか…
そのモニュメントは、十字架のごとくに、黒い腕(かいな)を大きく横に張り出させている。
まるで、それは…マントでも羽織ったような人が、大きく両手を広げているかのようだ。
レーダーに現れた機影は、この物体なのか―
それをはっきりと理解する前に、逆に相手が動いた。
「…!」
吹き渡る風の音が、変わった。
低いうなり声、もしくは怨嗟の声、もしくは哄笑…どれにしても不気味な音色。
その影から、低い地響きを思われるかのような笑い声がとどろいてきたのだ…!

「くっくっく…ふははははは…!」
響き渡る。荒野の疾風に混ざりこみ、こだまを為して甲児たちを包むかのように、その笑い声が響き渡る。
そして、彼らは…甲児たちは、その声をよく知っていた!
「ま…まさか、」
「そんな…あ、あいつは、確かに死んだはずじゃなかったの?!」
「そ、そんな…ほ、本当に、あいつだって言うのかよッ?!」
ジュンの驚愕の叫び。さやかの悲痛な声。甲児の喉が混乱の言葉を搾り出す。
それに答えるかのように、影が…動いた。
鉄也の瞳が、かっと見開かれた―
「ふふ…その通りだよ、兜甲児…!」
「!」
影は顔を備えていた。青い顔、生気の感じられない瞳が一対。
そして、禍々しく開かれた口からは、まさしくあの宿敵の言葉が放たれる!
「我が名は、ダンテ…!暗黒大将軍様の御下命を受け、再びこの世に舞い戻った!」
「?!」
悪霊型戦闘獣・ダンテ。それが、彼奴の「名前」だった。
高い知性を持ち、人語を解しすらする戦闘獣…
かつてもマジンガーチームは、この黒き襤褸(ぼろ)をまとった死神を思わせる機械に大変な苦戦を強いられた。
しかし、その苦闘の果てに、彼らはダンテを確かに滅ぼしたはずだ…!
にもかかわらず、この「未来」の世界に、何故ダンテが再び姿をあらわしたのか?!
だが、甲児たちを驚かせたのは、それだけが原因ではなかった。
「な、何ィッ?!あ…暗黒大将軍だとッ?!」
「あいつもこの時代まで生きのびていたって言うのッ?!」
思わぬ不倶戴天の「敵」の名に動揺する甲児たち。
何と言うことだろう、こんな「未来」の世界にすら、奴らは存命していたのだ…
地上進出を狙うミケーネ帝国の戦士、あの暗黒大将軍が!
「ははは…そう、恐竜帝国とともに、貴様ら『人間』どもを滅ぼさんがため、そしてこの地上を取り戻すためになァッ!」
「…!」
鉄也の心臓が、どくん、と強い拍動を打った。
そして、どくどくと急に早く脈打ちだす。身体中に酸素と血液を送り込む。
送り込まれた血液は身体と精神を沸き立たせ、じわじわとくすぶる熱を生む。
鉄也は、乾いてしまった唇を、なめて湿した。
いつの間にか、口内がからからに乾いてしまっていた。
だが、それにもかかわらず…こころの中、あの霧が音もなく消失していくのを、鉄也は快い実感とともに見送った。
自分でも異常だと思った。だが、それを押し殺しはしなかった。
何故なら、それこそはまさに自分が待ち望んでいたものだから…!
「な…!」
「き、恐竜帝国と手を組んだってのか、ミケーネは…?!」
「ふん…だが、我らの宿敵はあくまでマジンガーチーム、貴様らだ!」
「!」
甲児たちの困惑の言葉に、ダンテは鋭い宣戦布告を投げつけた!
「兜甲児、そして剣鉄也よ!貴様らの首は、このダンテが今度こそ討ち取ってみせるッ!」
「…ふん…」
だが、鉄也は…鉄也は、軽く鼻で笑う。
そして、ダンテをねめつける。
「俺の首を取るだと…?笑わせるなダンテ、貴様は…」
鉄也の喉を、熱い吐息が焼いた。
まるで邪龍の吐くブレスのごとく、その吐息は彼の声帯を通り抜け、恐ろしい挑発の言葉に変わる…!
「貴様は結局、この俺に再び首を刈り取られるためにこの世に帰ってきたんだよおぉ…!」
その声は、何処か震えていた。
それは武者震いなどではなく…愉悦混じりの興奮を強く帯びていた。
だから、その言葉の響きに不審を感じた甲児たち三人は、思わず鉄也が映るモニターに目をやってしまう…
「…?!」
「え…」
ジュンたちのその瞳が、驚きで見開かれた。
「て、鉄也さん…」
「…何だ、甲児君。今は悠長な事を…」
「ち、違う…て、鉄也さん、あんた、何で、」
ごくん、と、甲児の喉が鳴った。
恐怖と、困惑とで。
「…何で、そんな…笑ってるんだ…?!」
「…」
甲児のそのセリフで、ようやく鉄也も気づく。
自分が、今…笑みを浮かべていたのだ、ということに。
その笑みは壮絶で歪んだモノだったのだろう、自分を見つめてくる甲児の目にはどこか恐れめいたものが混じっている。
さやかも、ジュンも。
「ああ…」
かなりの自制をきかせて、いつの間にか薄い笑みのカタチにひずんでいた唇を戻す。
「気のせいじゃないのか、甲児君…」
それだけ短く言って、鉄也はすぐさま視線をモニターからダンテへと移しかえる。
だが、油断すればまたその頬がゆるんでしまいそうになる。
それを対面上、必死にこらえながら…鉄也は、真剣な表情を作り続けたままでいた。
しかし、その真顔の仮面の下に今熱く荒れ狂っているのは、たった一つの感情…
それは、まぎれもない歓喜そのものだった。
その場にそぐわない異常なその歓喜に全身をうち震わせながら、鉄也はぎらぎらした目でダンテを見つめている…

ほら俺の思ったとおりだミケーネがあらわれた
ああ畜生やっぱりそうじゃないか俺は正しかったんだ
そうだ貴様らミケーネと戦う事が俺の使命なんだからな
この未来の世界でも生きのびてやがったとはなしぶとい奴らだ
ああ畜生これで俺は戦える俺の本来の『敵』とミケーネ帝国の奴らと
戦って戦うんだグレートの力を見せつけてやる戦って戦って戦って戦って戦って




鉄也の唇が、また勝手に薄い笑みのカタチにひずんだ。





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