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◆ 「偉大な勇者」〜勇者はマジンガー
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そこは、闇だった。
何もない、闇だった。
「…」
その中に、剣鉄也は浮かんでいた。
闇に捕らわれて、浮かんでいた。
音もない闇の世界はねっとりと彼を押し包み、外界からの接触を絶つ。
が…その闇の向こう側から、何者かが叫ぶ声が響き渡ってきた。

「…つや…」
「てつ…ッ!」

…。
何だろう…何か、周りがうるさい…
うるさい、静かにしろよ…
俺を、静かに眠らせてくれ。
この闇は心地いい。何も見えない、何も聞こえない、何も感じない、何もない。
何もない。
ああ、もう…何もない、何も考えない。
眠らせてくれ。
俺は、もう…何もかも、どうでもいいんだ。
そう、…どうでもいいんだ、俺なんて…


「…鉄也ァッ!」
「鉄也君!」
「馬ッ鹿野郎、鉄也ッ!」

…?!
あ…あ、ああ…?
誰だ、俺の「名前」を呼ぶのは…?
お前ら、どうして、俺の「名前」を呼ぶんだ?


「鉄也ッ!」
「おい、しっかりしてくれ、鉄也君ッ!」
「鉄也ぁ〜ッ!」

何で、俺の「名前」なんか呼ぶんだ?
俺なんて、どうでもいいだろうに。
俺なんて、必要じゃないんだろうに。
俺なんて、何も…!


「鉄也、聞いてるのかよッ?!」
「鉄也ァ!」
「起きろよッ、鉄也君ッ!」

…何で、何で、お前ら…
俺を、そんなに必死になって呼ぶんだよ?!
何で、そんなに必死に…!
どうして、俺を呼ぶんだ?!


「鉄也さんッ!」
「…鉄也…ッ!」
「鉄也君、しっかり…!」



…!!



その時だった。
鉄也の中に、電撃が走った。



「鉄也ァッ!」
「ねえ、がんばって、鉄也君ッ!」
「鉄也…!」



…そうか、そうなのか…?!



お前らは、俺の「名前」を呼んでくれる!
俺を、必要としてくれているから!
そうして、この闇から俺を呼び覚まそうとしている!
そうか、俺は…!!




鉄也の周りの闇が、ぐにゃり、と歪んだ。
それはぐらぐらとひずみ、どろどろと溶けて薄まっていく。
鉄也にまとわりつくそれらが、だんだんと消えていく…
鉄也が消していく、鉄也の覚醒が消していく。
己のこころの中に巣くっていた、その闇を…!



俺は、こいつらのために…そして、この世の平和のために戦っているんじゃなかったのか?!
そして、それこそが、所長が俺に望んでいたことだったはず…!
そう、俺は…「剣鉄也」は!
大切な「仲間」のために戦う、「戦闘のプロ」だったはずだッ!
そうだ、俺はグレートマジンガーのパイロット…






そのために生きてきた、「偉大な勇者」の操縦者なんだッ!!





「う…」
ブレーンコンドルの中から、それは鳴り渡った…
「…う、うおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!」
唐突な絶叫。
あまりの強烈なその叫びに、誰もが思わずグレートマジンガーをかえりみる。
それはケモノの叫び声にも似て、聞く者のこころをざわめかせた。
だが、「人形」は叫ばない―
叫ぶのは「イキモノ」だ、己の意思持つ「イキモノ」の、それは闘志の表明だ―!
「鉄也…!」
ジュンの瞳が、グレートを射た。
彼女は直感した。確信した。
彼女の網膜に映る「偉大な勇者」、その中で…彼が、再び目覚めようとしていると!




「…お、おれは…」
鉄也の黒い瞳に、強い意志の瞬きが燃える。
「俺は…ミケーネ帝国と、戦うために、選ばれた、戦士…」
右手が、絡みつく思念を振りほどくかのように、しっかりと操縦桿を握る。
「その、俺に、ぬくもりを、教えてくれた、所長、を…」
左手が、自分の中の弱さを振り切るかのように、もう一方の操縦桿を掴む。
「…かなしませるような、まねはできない…ッッ!!」
大きく、口を開く。息を吸い込む。叫ぶために。
そして、鉄也の喉が―空気を激しく震わせる。
「俺は…負けるわけにはいかない!俺はそのために厳しい訓練を受けてきたんだ!」
空を裂く。鉄也は吼えた。力の限り。
「強大な『敵』でも!自分の弱いこころでも…俺は!」
「偉大な勇者」が、再び―その輝きと誇りを取り戻す!
「必ず、勝ってみせるッ!!」




その刹那、一瞬…鉄也の瞳が、星辰の炸裂のごとく強き光を放った―!




「な、にッ…?!」
ぱしいっ、という、小さな乾いた音とともに、ダンテの手の内にあるリングが…それは、鉄也を縛っていたモノ…かすかな火花を散らした。
と、同時に、グレートマジンガーが地面にゆっくりと崩れ落ちていった…
まるで、糸の切れた操り「人形」のように。
「!」
「て、鉄也さん…!」
「鉄也!」
「鉄也君…!」
リョウたちが、口々に彼の「名前」を呼ぶ。
しかし、グレートマジンガーは、しばらくそのまま動かずにいる…
だが、その内部から…やがて、彼の、彼自身の言葉が流れてきた。
「お…」
鉄也の喉から、乾いた声が漏れた。
「おれは、いったい…」
茫然自失、といったていの鉄也。
だが、そこには…もう、あの操り「人形」の空疎な狂気はない…
彼は確かに正気に戻ったのだ!
喜ぶ「仲間」たちの声が、次々にグレートマジンガーの通信機を鳴らす。
「よっしゃあ、やぁっとマトモになりやがったなッ!」
「まったく、苦労かけさせる奴だぜ!」
「…あ…」
「君は、ダンテの奴に操られてたんだよ」
「?!…な、何…?!」
鉄也がまわりを見回すと…そこは、紛れもなく戦場だった。
視界の中には、「仲間」たちの姿がある…真・ゲッター1、コン・バトラーV、ライディーン、ボルテスV…
そして、ビューナスA、ゲッタードラゴン…!
彼らの周りには、大小さまざまの鉄屑が無数に散らばっていた。
彼らは、ガレリイ長官ご自慢のメカザウルスどもを…苦労したものの、何とか全て破壊することに成功したのだ。
鉄也は理解した。
自分が今まで在った状況を…
「…みんな、すまなかった…俺は、もう大丈夫だ!」
と、その時、鉄也を呼ぶ嬉しげな声が、天空から降ってきた。
それは、甲児の声だった。
「鉄也さんッ!畜生ッ、やっと正気に戻ったんだな!」
「!…甲児君?!マジンガーは…」
その甲児の声は、何故か…マジンガーから離脱したのか、ホバーパイルダーから響いてきていた。
いぶかしく思い、問いかけた鉄也は、だが…突如、はっと口をつぐむ。
彼の視線の走った先に、その「答え」そのものを見たからだ―
「…!!」
戦場の片隅に、それは在った。
そこには、「鉄(くろがね)の城」の…実に無残な姿があった。
片足をもぎ取られ、右腕は粉砕され、そして…そのどてっ腹には、巨大な穴がぽっかりと口をあけていた。
甲児の何より誇りとしていた相棒・マジンガーZの、完膚なきまでに打ちのめされた姿。
その理由、そうなった経緯は、すぐさま鉄也の脳裏にひらめいた―
強烈な罪悪感を伴って。
「そ…うか、俺が…俺が、奴に操られている間に…ッ!」
鉄也の唇が、無念そうに歪む…
だが、次の瞬間。
ホバーパイルダーの通信機を、鉄也の鋭い声が貫いた。
「…〜〜ッッ!!甲児君ッ!」
「!…何だ、鉄也さんッ?!」
「君はマジンカイザーの操縦者だった。そうだろう?」
「そ、そうだけど?!それが何か…」
「…今から、」
わけのわからないことを言い出す鉄也に、困惑する甲児。
だが、彼の様子などお構いなしに、鉄也は低く強い声色を持って、こう言い放った。
鉄也の瞳は、一切揺らがなかった。
「今から、俺が…カイザーを抑える!そのうちに、君はカイザーパイルダーに入り込むんだ!」
「?!」
「カイザーパイルダーを直接操作すれば、ダンテのコントロールも不能になるはず…マジンカイザーを奪うんだ、甲児君ッ!」
「で…でも、ッ!」
甲児は当然のことながら惑った。
かつてその操縦者であった誰よりも甲児は知っているのだ…このマジンカイザーの恐ろしさを、身をもって。
当たり前だ、それではまるで…魔神皇帝を身体を張って止めようとする鉄也は、まるで自ら死にに行くようなものではないか!
「でも、それじゃ、鉄也さんが!」
「…俺のことなんて、どうでもいい!俺が…」
鉄也が、ぎりっ、と歯噛みした。
「俺が間抜けだったせいで、俺はダンテの言うなりになってしまった!そのせいで、君のマジンガーが破壊されてしまった…だから!」
一切の反論も許さないような、それでいてとてつもなく自己犠牲的な、悲壮な決意を持って。
鉄也は、それを己の義務とした…
己の醜い嫉妬心のせいで、マジンガーZを屠られてしまったという、己が愚かさのために。
そして…己の誇りのために!
「だから、これは俺がやらなきゃならないんだ…俺は、」



俺は、「偉大な勇者」…グレートマジンガーの操縦者なんだからッ!!



「!」
「鉄也!」
「鉄也君ッ?!」
皆の驚愕が、一斉に悲鳴となってほとばしり出た。
「偉大な勇者」の蛮行を止めることの出来た者は、その場に誰もいなかった―
グレートマジンガーは、大地を大きく蹴り、飛んだ。悪魔の眼前目がけて。
そして、着地するや否や、その黒い腕(かいな)を大きく拡げ、その悪魔を捕らえた…己の腕の中に!
瞬間、突然の鉄也の行動が理解できないでいた「仲間」たちの頭にも、彼が一体何をしようとしているのがひらめいた…
鉄也は、命がけで時間を稼ごうとしている。
マジンカイザーを力ずくで押さえ込もうとしているのだ…
自分よりも遥かに頑強で破壊力の高い魔神・マジンカイザーを!
「う…うおおぉぉぉぉおぉぉおぉぉぉぉぉおおおぉぉおぉぉおおお!!」
「な…?!ば、馬鹿めが!そのまま消し炭に変えてくれるわッ!」
グレートの唐突な行動に瞬時面喰らったダンテであったが、すぐさまその表情が陰湿な笑みに捻じ曲がる。
しゃらん、とリングを大きく鳴らし、グレートに両腕を押さえ込まれた皇帝に指令を送る…!
…マジンカイザーの瞳が、不気味な黄色い光を放った。
がきり、ぐきゃりと、超合金ニューZがきしむ音。
カイザーは、グレートマジンガーに捕らわれた両腕を解放せんと、強大な力をその豪腕に送り込む。
しかし、グレートは必死でとどまる、鉄也は決してマジンカイザーを締めつめるグレートの腕をゆるめようとはしない!
だが、次の瞬間。
鉄也の眼前、ブレーンコンドルのキャノピーの前に広がる光景が、ぱあっと光の洪水と変わった…
そのまがまがしいほどに美しいその光の狂宴、それが魔神皇帝の必殺技、全てを灰に変える地獄の火炎・ファイヤーブラスターであることに気づくのには、そうそう時間は要らなかった。
強烈な熱は、グレートマジンガーにじりじりとダメージを与えていく。
ブレーンコンドルの中にも、その凶悪なまでの熱が入り込んでくる。
このブレーンコンドルのキャノピー、そこに小さなひびの一つでも入れば…それが最期、自分もまた一瞬で気化させられてしまうだろう。
鉄也の額から、決して暑さのせいだけではない汗が伝わり落ちた。
「て、鉄也さんッ!」
「馬鹿野郎、何をぼさっとしている?!今のうちに、カイザーパイルダーに…!」
「!…あ、ああッ!」
焦り混じりの鉄也の声に、泡を喰っていた甲児も我に返る…
そして、己の為すべき事を為すため、操縦桿を引き上げた。
ホバーパイルダーが空高く舞い上がる。
だが、グレートマジンガーを焼き尽くさんと猛るダンテは、その行動に気づくことが出来なかった。
「も、燃え尽きろォッ、グレートマジンガーめえッ!!」
「…ううっ、ぐ…うおおぉおおおぉぉおおおおおおおぉおぉぉおおおッ!!」
鉄也の絶叫。刻一刻と、決定的な破滅の瞬間が近寄ってきているのがはっきりわかる。
それでも、鉄也は一歩も退かない。彼は、自分の全てを賭けて、魔神皇帝に立ち向かう!
…ダンテが嫌らしい、勝ち誇った笑いを顔面いっぱいに貼り付けた。
この反吐の出る「偉大な勇者」を屠る、その最後の一撃を喰らわせんと…
「?!」
しかし、その瞬間だった。
陽光をはじいて、赤き鋼鉄が…ホバーパイルダーが、マジンカイザーの頭部・カイザーパイルダーの上空で停止したのを、彼は見た。
そして、そこから素早く何かがカイザーパイルダーの上に落ちてくる。
それはパイルダーの側面に張り付き、何らかの操作を行っている…?!
その正体、その意図を感じ取ったダンテは、彼を振り落とさんと慌ててマジンカイザーを動かそうとした。
…だが、その前に甲児はキャノピーを開き、パイルダーの中に入り込んでしまった。
「…!」
操縦席に滑り込み、すぐさまキャノピーを再び閉じる。
熱気から再び隔絶されたそこは、あの時と…かつて、自分がこの皇帝を駆っていた時と寸分変わらぬ、鋼鉄のコックピット。
だが、シートにゆったりと身を沈めその感慨に浸る余裕など、今の彼にはない。
(マジンカイザー…お前は、マジンガーのプロトタイプ、おじいちゃんの造った最強の魔神…)
操縦系統をこのコックピットに切り替えるため、甲児は機器を操作する。
指が踊る。迷うことなく、彼の手は確実にそのステップを踏む…
(…お前に、こころがあるのなら!そして、俺の声を聞いているのなら!)
そして、操縦桿を握る。
邪悪な魔物から、再びこの永劫の皇帝を取り戻すために…
甲児は叫んだ。祖父が造りし「魔神皇帝」、その「名前」を。
「目覚めろ、マジンカイザー!」
ぶうん、という、低い機械音が、それに応えた。
すると、瞬く間に、甲児の周りで沈黙していた機械群に光がともる…
いのちの息吹を吹き込まれたかのごとく燐光を放つ、まるでイキモノのように!
それを確認した甲児の瞳には、確信。
彼は、己の強い信念を…もう一度、己の中で繰り返した。
(人の頭脳を…人のこころを加えた時に、お前は…魔神ではなく、マジンガーになるはずなんだからッ!!)



そして。
魔神は、応えた。
それを駆る資格を持つ、唯一の青年の呼びかけに―!




「…な、何?!こ、この力は…」
「!」
グレートを攻めていたダンテの眉が、驚きでぴくり、と動いた。
見る見るうちに、マジンカイザーの胸から放たれていた業火…ファイヤーブラスターの勢いが失せていく。
そして、あっという間に消え去ってしまった。
「…やったな、甲児君…」
それを見届けた鉄也は、グレートマジンガーの拘束から、それを解き放った。
途端、グレートは、がしゃり、という音を立てて片膝をついてしまう。
ファイヤーブラスターを受けたグレートの全身は、確かに溶解しはじめていた…
もう少し長く攻撃を受け続けていれば、鉄也自身のいのちすら危なかっただろう。
すると、解放された魔神皇帝は…それ以上、グレートを攻撃するそぶりすら見せない。
そう、魔神皇帝は、もはや…再び兜甲児のモノになったのだ!
「ぐ、く…な、何故だ、コントロールが効かぬとは、ッ?!」
「な…何じゃと?!そんな馬鹿な!わしの造った装置が、まさか…!」
ダンテの動揺。ガレリイ長官の驚愕。
しかし、もはや彼らの動転も意に介さず、魔神皇帝は…本来あるべき姿に戻っていた。
邪悪なる者の意思に従う魔神ではなく…人のこころをくわえた、マジンガーに!
そして、皇帝は、振り向きざま―高貴なる自らを薄汚い復讐の道具に用いた愚者に、その拳を向ける。
「…ターボスマッシャーパーンチッ!」
「ぐ、ぐぎゃあああッ!!」
甲児の叫びとともに、カイザーの右腕が空を舞う!
ダンテは、勢いよくかっ飛んできたその鋼鉄の拳を避けることすら出来ず…横っ面を思いっきり吹き飛ばされ、無様によろめいた。
そんなダンテに目もくれず…カイザーは、片膝をついて動きを止めているグレートに駆け寄り、助け起こした。
「…!」
「大丈夫かッ、鉄也さんッ?!」
「ああ…グレートも、何とかまだ動けるようだ」
「そうか、よおし…!」
甲児の呼びかけに、鉄也も薄く笑んで、答えた。
その表情には、もはや陰りは見られない。
いつもの、闘志にあふれる表情…そう、いつもの鉄也の表情に戻っている。
「ダンテ!…もう、俺は!貴様の思い通りにはならんッ!」
「ぬ、ぬうう…!ば、馬鹿めが!そのまま、あの永久の闇の中におれば…何も、苦しむこともなかったものを!」
「ふん、ほざけ…俺は、ようやく気づいたんだ!」
鉄也は言い放った。力を込めて。
「俺が本当にやるべきことは何か、ってことを!俺が何のために戦っているのか、ってことを…!」
ダンテに向かって。
…そして、己の中にあった、己自身の弱さに向かって!
「…だから、俺には…そんな腐った安らぎなど、もう必要ないッ!」
「…!」
「年貢の納め時だ、戦闘獣ダンテ!」
鉄也の宣言。甲児も、それに応じる。
「やってやろうぜ、鉄也さんッ!俺たち二人で、ダンテの野郎を…!」
「ああ、わかっている!…ゆくぞ、甲児君ッ!」
二体の魔神が、同時に…飛んだ。
ダンテの顔が、恐怖と動揺で歪んだ。
己の目の前に…巨大な影が二つ、姿を為した。
「ファイヤーブラスターッ!」
「ブレストバーーーーーンッ!」
両者の熱射板が、同時に眩(まばゆ)き光を放った―




『ダブル・バーニングファイアーーーーーーーッッ!!』




「…うお、あ…」
壮絶な炎はもはや、一片の闇すら消し去る灼熱の太陽のごとく巻き上がる。
その太陽の光の中、ダンテの表情が醜く歪んだ―
邪悪なる魍魎、ダンテは…悪霊型戦闘獣・ダンテは、断末魔の叫びすらろくに上げることが出来ぬまま、その紅蓮の中で滅した。
「…〜〜ッッ!」
恐竜ジェット機内のガレリイ長官…彼の目にも、その光景ははっきりと映った。
二体の魔神の吹き上げる紅蓮の火炎流が、黒き影を飲み込み喰らいつくし―そして、その前に立ちふさがる全ての物体を気化させていく、その様を。
怖気たってくる生命の危機感より先に、あまりの強大なその力の氾濫がガレリイの精神を麻痺させてしまう。
…が、炎の中に消えた黒き影…戦闘獣ダンテ、彼はもはや生きてはおらぬだろう、という当然の推測がガレリイの頭脳に生じたと同時に、彼はようやく己のすべきことを悟った。
「…!」
エルレーンが気づいた時には、もう遅かった。
あさっての方向に向かって飛びすさっていく恐竜ジェット機の姿は、みるみるうちに小さくなっていく…
彼女の表情が軽く苦みばしったものになる。また、彼奴を取り逃がしてしまったことに…
…だが。
彼女の視線が、再び彼らの姿を捉えると…エルレーンの顔にも、再び微笑がよみがえってきた。
そこには、二体の魔神が在った。
メカザウルスたちの残骸、そして頼もしい「仲間」たちに囲まれ、並んでそびえ立っている…
「魔神皇帝」…そして、「偉大な勇者」。
大地を踏みしめ雄々しく立つその姿、太陽光をはじき返す硬質なきらめき放つその姿は、まさに「鉄の城」―
この世の平和を、「人間」たちを守る勇者たちが、同じ太陽を見つめ、祝福の光を浴びている。
…まるで、「兄弟」のように…


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