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◆ Funeral march(葬送行進曲)
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その勢を決めたのは、何だったのだろうか。
兵力だったのか。士気だったのか。時だったのだろうか。
だが、何にせよ―
始めはまったく互角のように思えていた戦いも、やがて均衡を崩し始める。
そうなれば、じりじりと体勢は変わっていく…
一機。また一機。
機械蜥蜴たちが堕ち、砕け、燃え、膝をつく…
「怯むなあッ!進め、進めえッ!」
バット将軍の叱咤が、戦場を駆け巡る。
メカザウルス隊は、退却することなく戦い続ける。
「我らが潰えれば、『大気改造計画』は為らぬ!」
バット将軍の意志は、恐竜帝国軍人のそれとまったく同じ。
メカザウルス隊は、屈服することなく戦い続ける。
「我らが同胞のため!我らが子どもたちのため!我らは潰えてはならぬのだあッ!」
プリベンターの、「人間」のロボットに、一太刀を刻み付けて。
あるいは、道連れに。
あるいは、捨て身で。
メカザウルス隊は、躊躇することなく戦い続け、そして―砕けていく。
「…畜生ッ!」
豹馬の唇から吐き捨てられたのは、罵倒の言葉。
「何だよ!何だよ!ちっくしょうッ!」
彼は、何度も繰り返す。
罵倒の言葉を繰り返す。
目の前でまた、力尽きたメカザウルスを砕く、無数の銃弾。
「だからって!何でお前らは俺たちを消そうとするんだよ!何で俺たちを皆殺しにしようとするんだよッ!」
絶叫する彼の言葉に、だが誰も「答え」を返さない。
その虚空の空白から、聞こえてきたのは―いつか聞いた、誰かの言葉。


『あれは…あれは、<人間>の造った、火花、だ』

『あんなにキレイな緑を!あんなに豊かな地上を焼き払う、その毒で汚しつくす…
自分勝手な、自分勝手な<人間>の…!』

『そうして自らのために、自らのためだけに他者を滅ぼすのだろう、<同族殺し>よ!』

『あの人たちはね、私たちが嫌いだけど…それ以上に、私たちのことが、…怖い、の』

『そう…怖くて、怖くて、仕方ない。…だから、信じられない、信用できない』


「だから…だから、殺すのかよ!」
豹馬はうめく。
痛いほど握りしめた操縦桿に、彼の熱が伝わる。
「だからって、殺すのかよ!」
それは、幼い怒りなのかもしれない。
無知で、無分別で、無思慮な青二才が吐き散らす、薄甘い怒りなのかもしれない。
「畜生、それじゃ…」
彼自身も幾多もの戦いをくぐりぬけてきた。
多くの「敵」たちを斬り伏せながら、踏みつけながら、殺しながら。
だから、それは彼の奥底に埋まる、埋まり続ける炎だったのかもしれない。
「それじゃ、お前ら『ハ虫人』も!…俺たち『人間』と、何も変わりゃあしねえじゃねえか…ッ!!」
「何故、戦わなければならないのか」という、血を吐くような問い。
その「答え」がわかりきっていながら、問い続けねばならない問い。
「愛する者を守るため」―
ああ、あいつらも俺たちも結局はそうだ、そうなんだ
そうして…他の奴らを殺すんだ、
自分とその「仲間」を守ろうと戦う相手を、「敵」と呼んで
自分とその「仲間」を守るために、守るためだけに!
「う…ぐああああああッ?!」
突如。
通信機のスピーカーを震わす、苦痛おびただしい悲鳴。
断末魔の悲鳴。
―その声を、彼は聞いた事があった。
確かに、聞いた事があった!
「…!」
視線を走らせれば、そこには…幾多ものミサイルに被弾し、炎上する機械蜥蜴…メカザウルス・ギラ!
そうだその姿には確かに見覚えがある
あの時だあの戦いの時
自分たちコン・バトラーVと交戦しそしてともに核ミサイルを止めるために戦った
そうだあのメカザウルス、メカザウルス・ギラ
その中にいた異形の、「ハ虫人」の戦士
思わずその男の「名前」を呼ぼうとして―
凍りつく。


その「ハ虫人」の「名前」を、「名前」すら知らない事に。


自分の「名前」を呼んだ、「ヒョウマ」と呼んだあの異形の戦士の「名前」を、自分は知らない
「名前」すら知らない―!


そうして、そのまま、凍てついてしまった豹馬の前で―
メカザウルス・ギラは爆散する。
希望も、意志も、あの男のいのちも、もろともに。


「ち…」


葵豹馬は、叫ぶ事しかできなかった。
ただ、叫ぶ事しかできなかった―


「畜生おおぉおぉぉぉぉぉぉおッッ!!」


「ば、バット将軍ッ!」
「部隊の損害は?!」
母艦、メカザウルス・グダ。
バット将軍の激に、悲鳴のような返答が返ってくる―
「め、メカザウルス隊はほぼ全滅!グダ搭載のジェット戦闘機隊も、もはや…!」
「ぐう…ッ!」
「い、如何致しましょう?!」
「…決まっておるッ!」
だが。それでも。
老将の瞳は、今だ朽ちてはいない!
「奴らと戦う!最後の、最後の、最後まで!」
そして誇らかに高らかに彼は吼える―
それはまさに、龍の咆哮!
「…」
その咆哮を耳にしながら…ダイターン3は、波嵐万丈は、静かに目を伏せた。
(どうやら、退く気はないらしいな…背水の陣、という訳か)
彼のダイターン3の巨大なボディには、あちこちに無数の傷。
恐竜帝国軍がいのち賭けで、もしくはいのちと引き換えに刻んだ傷―
「!」
「く、くたばれえええええッ!!」
刹那。
思いもしない方向から、「ハ虫人」の絶叫。
そして後方から一気に迫り来る機械蜥蜴の鋭い爪!
「ぐっ?!」
衝撃とともに、コックピットに警告音が鳴り響く。
ダイターンの背を襲った「敵」の爪は、その機構の奥深くまで貫こうと、さらに力を込め―
「ダイターン・ザンバー!」
「―!」
だが。
万丈は、すぐさまにダイターン・ザンバーを手にし、大きく身を翻す。
その勢いで、背後に在るメカザウルスを吹き飛ばし―
斬撃。
メカザウルス内のパイロットが悲鳴をあげる寸前に、そのままそれは爆発した。
(僕たちも退けない。君たちも退けない。退くことは―できない)
負った傷の数だけ、罪を背負い。
斬った「敵」の数だけ、咎を受ける。
(…だから!)
万丈の瞳が、「敵」の母艦を射る。
(せめて、正々堂々と戦う!全力で戦う!偉大なる戦士たちに敬意を表して!)
そして、放つのは無敵鋼人が必殺技…
太陽の光の下に、蒼空の下に!
「喰らえ、恐竜帝国―!」
「な、なにいッ?!」
飛翔した強大な影が、降り注ぐ陽光の中で舞う…
見上げるバット将軍の目を、眩しい光が灼く!
「日輪の力を借りて!今、必殺のッ!」
身長120m、重量800トンの巨体が、太陽の中で見得を切る。
眩く輝くは、背負いし思いの重さなのか―!
「…サン・アタァァァァァァックッッ!!」
太陽を背負い、人々の思いを背負った男が、鷹のように舞い降りる!
急降下する巨人は、己の重量を加速度に乗せ、まっすぐにメカザウルス・グダに突き刺さっていく―!
その蹴りは、鋼鉄の龍を打ち砕く!
「ぐ、ぐおおおおおおおッ!!」
バット将軍の雄たけび。
強烈無比のキックが、容赦なくメカザウルス・グダの機構を破壊していく―
砕かれる龍の破片が、燃え上がりながらはじけ飛んでいく!
「ぐ…う…!」
しかし。
万丈は、我が目を疑った。
―メカザウルス・グダは、まだ死んではいない。
一撃必殺のサン・アタックを受けても、今だ龍の意志は潰えない…!
「わ、わしは、まだ、死なんぞ…ッ!」
今の攻撃で負傷したか、蒼い血が額から流れ落ちている。
龍の血が流れ落ちる。
それでも、龍騎士(ドラゴン・ナイト)は退きはしない。退きはしないのだ。
「き、貴様ら『人間』どもを地獄に叩き込むまで、死にはせんッ!」
その蒼い血に、猛る血に、彼の背負う者の思いを全て溶け込ませて。
恐竜帝国の「未来」を、誇りを、希望を、全て溶け込ませて。
老将はそれでも進軍し続けようとする、戦い続けようとする。
彼の部下たちが、当然のごとくそうしたように。
そうだ、彼らの行進は終わらないのだ―
「ば…」
かすれた声が、漏れた。
「馬ッ鹿野郎…」
睨みつける表馬の目には、うっすらと光る何かがあった、
ああ、畜生―
あいつは、それでも止まろうとしないのか。
それでも、戦い続けようとするのか。
この不毛な行進を、傷つけながら傷つきながら殺しながら死にながら続くこの葬送行進曲を、何処までも続けようとするのか!
「このおッ、馬鹿野郎ッ!」
「ひ、豹馬!」
叫ぶ豹馬。
猛る彼の目は、まるで半ば自暴自棄になっているかのようで。
「健一!あれ、やるぞッ!」
「あれをか?!」
「そうだ、今だッ!」
彼は、ボルテスVの剛健一に、鋭く叫んだ。
「行くぞおッ!」
「おおッ!」
「ダブル長電磁ロボの必殺技、見せてやるぜッ!」
そして、構える…
放つは、超電磁ロボットの合体技―!
「みんな、やるぜ!超電磁スピンだ!」
「おお!」
「了解!」
「わかったわ!」
「はい!」
豹馬の声に、四人が和する―
そして、超電磁ロボコン・バトラーVの全身を、超電磁エネルギーのほの紅い光が満たしていく…!
「超電磁・タ・ツ・マ・キィィィィッ!!」
頭部のアンテナに凝縮された超電磁エネルギーを操り、それを竜巻(トルネード)へと変えていく…
「超電磁・ボォォォォォォルッ!」
超電磁マシーンボルテスVの握る長剣が、凄まじい超電磁エネルギーできらめき輝く!
球状に変形したエネルギーが、やがてその剣先に発生する…
豹馬と健一が、同時にそれを解き放つ!
メカザウルス・グダを一挙に襲う、強烈な竜巻と電磁球…!
「?!」
「ぎゃっ!」
叩きつけられた衝撃に、ブリッジが揺れる。
悲鳴をあげる恐竜兵士たち―
衝撃から立ち上がったバット将軍は奇妙な感覚を覚えた。
―メカザウルス・グダが…何かに包み込まれている。
それが、先ほどあのロボットが放った奇妙な光球だと気づくのに、時間はかからなかった。
そして…二体の超電磁ロボットが、空間を切り裂く!
「超電磁・スピィィィンッ!」
「天空剣!Vの字斬りィィィッッ!!」
鋭く回転し、自らを凶悪な切削錐(ドリル)と化したコン・バトラーVが、槍となって突っ込んでいく!
まったく同じ呼吸で、ボルテスVの天空剣が、メカザウルス・グダにVの文字を刻み込む!
メカザウルス・グダのエンジンを、ボディを、全てずたずたに引き裂いて―!
「く…くくく…」
その勢いのまま、天を駆け抜けていく二体のロボットを見ながら、バット将軍は…微笑していた。
哀切と無念、そして何処かすがすがしさすら感じさせる笑みだった。
(さすがは我が宿敵どもよ…ついにわしは貴様らに勝てなんだか)
戦い抜き、敗れた。
そして、死ぬ。
それは、戦士として本望だと、彼には思えた。
(だが…これで恐竜帝国が滅びるわけではない!)
まだ、こちら側には切り札が在る。
まだ、我々は負けたわけではない。
まだ、我々は滅びたわけではない!
(わしらとの戦闘で消耗した貴様らは、ゴール様直属の恐竜大隊に打ち勝つことは出来ぬ…!)
薄い笑みが、老将の口元に浮かんだ。
おそらくは、願わくば、
帝王自ら率いる本隊が、弱った「人間」どもを踏み潰してくれるだろう。
だから、自分がここで倒れ朽ち果てる事には、意味があるのだ。
決して、自分の死は、無意味ではない…と。
そう信じながら、胸を張って旅立てる。
「―!」
くわっ、と、目を見開く。
彼の龍眼に映った最期の光景は、果たして何だったのか―



「…恐竜帝国にいッ、栄光あれえッ!!」



がかっ、と、白光が貫く。
メカザウルス・グダに、無数の亀裂。
その全てが黒煙を、赤炎を噴き、そして―
限界に達したその瞬間、内部から炸裂する…!



そしてばらばらと大地に落ちていく破片、破片、破片



老将軍の行進は、ようやく―終わった。
違う事無き死を、エンドマークにして。




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