--------------------------------------------------
◆ the decisive Battle(1)
 <Kyrie eleison〜Recordare
 (主よ、憐れみたまえ〜思いだしたまえ)>
--------------------------------------------------
「行くぞッ、ハヤト、ベンケイッ!」
『おうッ!』
夕闇去りし後、その荒野には青白く冷たい空が拡がっていた。
濃い藍色から薄い水色までグラデーションを為す蒼…
その片隅、地平線からほどなく上ったところには、昇り始めた月が白い面を見せている。
アーガマの格納庫から、一気に飛び出すゲッタードラゴン!
そのまま、レーダーに映る…いや、もはや肉眼でもはっきりと見てとれる巨大な影に目を向ける。
真・ゲッター1…!
悪魔のごとき黒い翼をはためかせ空を切る邪神…その邪神は、ゲッタードラゴンより多少の距離を置いて、大地に降り立った。
開かれる通信回線。
そこに映るのは、自分と同じ顔、同じ姿をした…だが、違う魂を持つ、己のクローン!
「…きやがったな、ゲッターチーム!」
「No.0…!」
「さあ…今日こそは、死んでもらうぜ!…そうして、俺は『自由』になるんだから!」
「俺は言ったはずだ!…俺は、俺たちは、お前と戦いたくない!俺たちが戦ったって、何もならないんだ!」
闘志と殺意をむき出しにして挑んでくるNo.0に向かい、リョウは変わらない信念を再度繰り返す。
だが、その言葉は容易にNo.0のこころには届かない。
「…貴様ァ、まだそんな寝言を言ってやがるのか?!…俺も言ったはずだぜ、俺たちは貴様らを殺して、『自由』になるんだ、と!
だから、俺の望みは貴様らを殺す…それだけだ!」
「お前こそ、まだそんなことを言ってやがるのかッ!お前は、ガレリイ長官に利用されているだけなんだ!
お前が『自由』になるために、俺たちを殺す必要なんか何処にあるッてんだッ?!」
しかし、リョウも、一歩も引かない。
間髪いれず反論し、なおも自分たちとの戦いを回避するように求めてくる…!
執着とも言えそうなほどの乱暴な熱情を、その炎のような瞳にたたえて。
牧師のような非暴力、帝王のような頑迷さ。
その両者を有する、熱い感情…
リョウに気おされてしまったのか、No.0の表情に…かすかに、怯えの色が入り混じった。
「や、…やかましいッ!行くぞ、ゲッターチームッ!」
「待て、No.0ッ!俺の話は、まだ終わっちゃいないッ!」
「う、うるせぇえぇ!…お、お前と話すことなんか、何もないッ!…殺してやるッ、オリジナル…ゲッターチームッ!」
「!」
混乱のきざしがNo.0の口調に混ざり始める。
リョウの言葉を最後まで聞かず、真・ゲッター1がゲッタードラゴンに飛び掛ろうとした、その刹那だった…!
「お前に、話すことがなくったって!…俺たちだって、お前に話したいことがあるんだよッ、No.0ッ!」
ぴたり、と、巨人の動きが静止した。
鼓膜をふるわせるその声、今自分を呼んだ、その声の持ち主は…
「…?!…そ、その声…ま、まさか、ッ」
驚愕に目を見開くNo.0…
彼女のガラスのような瞳に、それが出撃する様がまざまざと映し出される!
「いよっしゃあああ!」
「No.0ォッ!」
アイアン・ギアー艦から、黒煙吹き上げ猛る最強のウォーカーマシン…ウォーカーギャリアが。
フリーデン艦から、四枚の羽のごときリフレクターを背負った真白き機動兵器…ガンダムエックス(GX-9900)が。
同時に飛び出す。
そして、ゲッタードラゴンの両隣に陣取る…!
「…!…じ、ジロン、…ガロードッ!」
通信機から伝わる彼女たちの声が、困惑するNo.0をさらなる混乱に落とし込む。
「アタイらもいるぞ、No.0ッ!」
「No.0…!」
「ち、チルに、ティファまでッ?!…お、お前ら、お前ら…」
少女の端正な顔が、どうしようもないやるせなさと驚愕、衝撃がまぜこぜになった感情でひずんだ。
「よ、よりにもよって、プリベンターの…パイロットだったのかッ?!」
「ああ、そうさ!」
「く…!」
「そんな嫌がるなよ、No.0ッ…だって、」
ガロードは大声で、はっきりと彼女にこう言った…!
「今日から、お前も!…俺たちの『仲間』になるんだからさあッ!」
「?!」
そのガロードのセリフに、思わず眉をひそめるNo.0。
その彼女に向かい、ガロードはなおも言い募る…
「No.0…その真・ゲッターから降りてくるんだ!」
「…?!」
「お前とゲッターチームが戦う必要なんて、ない!だから、こんな戦いなんかやめちまおうぜ?!…だから、降りてこいよ、No.0…ッ!」
「な…お、お前ら、正気かッ?!」
「ああ、正気だッ!」
「敵」である自分を説得しようとする、馬鹿で阿呆の流竜馬。
そのオリジナルとまったく同じことを言ってくるガロードたち…
困惑し続ける彼女に、ジロンが叫ぶ。
「No.0!お前がゲッターチームを殺そうとする限り、俺たちはお前を殺さなきゃならなくなる!
…だけど、俺たちはそんなのは嫌だ!…No.0!俺たちは、お前を…殺したくないんだ!」
「…!」
「No.0…お願い、そこから降りてきて…!」
「ティファ…!」
今度は、ティファ。
あの夜、自分の傷の手当てをしてくれた、やさしいあの少女…
その少女は今、真剣な表情で自分を見返してきている。決死の覚悟を、その瞳に秘めて。
「…この、ガンダムエックスには…サテライトキャノンシステムがあります。
私が、力を使えば…その真・ゲッターを、稼動不可能にも出来ます。…いくら、その機体が頑丈でも…」
ルナ・チタニウム合金で出来たキャノン砲が、月光を照り返し輝いた。
その背に負った四枚のリフレクターが、少しづつその硬質な光…そこに含まれるスーパーマイクロウェーブを吸い込み、エネルギーを溜め込み始めている。
「…」
「私は、こんな力…嫌いです。嫌い、だけど…」
きっ、と、強い意志をこめた瞳で、彼女はNo.0を見据える。
通信画面の向こう側にいる少女も、ティファから視線をはずさない…
「だけど、私は力を使います!サテライトキャノンで、真・ゲッターを撃ちます!…あなたが戦うことをやめないと言うのなら!」
「ティファ…ッ」
そして、厳しい口調で、はっきりと宣告する…!
それを聞くNo.0の唇が、一瞬悔しげにゆがんだ。
「そうして、あなたをそこから引きずり出します!」
「!」
「その、真・ゲッターが!その真・ゲッターがあるからいけないんです!その真・ゲッターが、あなたを狂わせている…!」
「…」
「…だって、あなたは…真・ゲッターに乗っていないときのあなたは、あの時、海岸であったあなたは、…とてもやさしい、女の子だった…!」
ティファの言葉に、ウォーカーギャリアのパイロットもすぐさま同意した。
「ティファの言うとおりだぜ、No.0」
「ジロン…」
「俺も、本当はお前にバズーカなんて向けたくないよ。…俺たちに、撃たせないでくれよ…お前のこと」
「…」
「出て来いよ、No.0…そうでないと、」
ジロンが、静かな口調で呼びかける。
「そうでないと、お前は…」
「…」
その先は、言わずともわかっていた。
途切れる会話。
No.0は無言のまま目を伏せ、何事かを考えているかのように見える。
だから、リョウたちもジロンたちも何も言わないまま…彼女の決断を、待っている。
プリベンターの「仲間」たちも、その時をじっと待っている…
月が、さらに高みを目指し昇っていく。
「…」
「No.0…」
十数秒、いや、ひょっとしたら、もっと長かったかもしれない…
その空白を、少女のつぶやき声が終わらせた。
「…話ってのは、それだけか…?」
「え…?!」
思わぬ言葉に、ジロンは息を呑んだ。
ばっと顔を上げたNo.0…その視線は鋭く、ジロンたちをにらみつけている!
「それで終わりなんだな、だったらもういいだろッ?!」
「な、No.0ッ…!」
やけっぱちになったかのような乱暴な口調でそう言い放つ少女。
そして、次にNo.0が叫んだのは…あの時とまったく同じセリフだった…!
「お、お前たちなんて、信用できないッ!」
「!」
「俺を騙したくせにッ、俺を…俺を、裏切ったくせにッ…!」
「な、No.0ッ!それは、それは違うッ!」
「何が違う?!一体何が違う?!」
「No.0…!」
「だったら、どうして何も知らないふりして俺に近づいた?!どうして俺のことを気にかけるふりなんかした?!
…どうして、俺に、…やさしくなんか、しやがったんだっ?!」
No.0はジロンたちを責め続ける。自分を騙すために、自分にやさしくした連中を。
今にもあふれかえりそうな哀しみを、必死にこらえながら。
今にも泣き出しそうな顔をしながら、せめてそう相手を責め続ける事で、彼らへの情を忘れ去らんとする…!
「違うッ、No.0ッ!」
「…!…き、聞きたくない!何も、聞かない!…信じない、信用できない、お前らなんてぇッ…!」
その不信と憎しみ交じりのセリフを最後に、No.0は一挙にゲッタードラゴンに向かっていった!
「どけよおおおおお、ジロン、ガロードォッ!」
「!」
そして、No.0の絶叫!
同時に邪神は地を蹴り舞い上がり、信じがたいスピードで空を舞う…!
「リョウさんッ!」
「…くうッ!」
ゲッタードラゴンのリョウが気づいた時には、少し遅かった。
ゲッタードラゴンの背後に回った真・ゲッター1、その脚が素早く地を這う。
ゲッター合金どうしが強烈な金属音を奏でた途端…ゲッタードラゴンのバランスは失われていた。
不意打ちの足払いをかけられたゲッタードラゴンは、たまらずよろめき…その巨体を支えきれず、もんどりうって地面に倒れ付した。
その衝撃に、その半分以下の全高しかないガンダムエックスとウォーカーギャリアは思わずそれぞれ後方へ飛び退ってしまった。
その隙を突き、すぐさま真・ゲッター1がゲッタードラゴンに再度近づく!
「な、No.0ッ!…お前、お前、…ッ!」
「お、お前らさえ、お前らさえ殺せば!…俺は、俺は…!」
尋常ではない目でリョウをねめつけ、No.0は震える声でぶつぶつとつぶやいている…
真・ゲッター1の手に、巨大な戦斧が握られた。己が兄弟の、首を刈らんと。
「…!…や、やっぱりダメよぉッ!ラグ、ブルメ、ダイク!今すぐ出て、あいつを…」
「余計なことすんな、エルチぃッ!」
顔を覆い、悲痛な声を上げるアイアン・ギアー艦艦長、エルチ・カーゴ…
彼女はその見込みのない状況を目にするに至り、彼らを救おうと、すぐさま「仲間」たちに出撃の命を飛ばす。
だが、ジロンの怒鳴り声がそれを阻もうとする!
「!…で、でも!」
「まだだァッ!まだ、決まっちゃいないッ!」
彼の雄たけびが、通信機のスピーカーを破らんばかりの勢いで鳴り渡る。
アーガマ艦艦長、ブライト・ノアもまた…この状況を看過できず、タイムリミットを告げんとする。
「げ、ゲッターチームッ!」
「待ってくださいッ!…まだ、見限らないでくださいッ!」
「し、しかし…!」
ジロン同様に、叫ぶリョウ。
その彼の無謀さに気おされながらも、ブライトはなおも彼らを止めようとした…
しかし、彼らをとどめんとするブライトの言葉は、そこで無理やり飲み込まれた。
…リョウの瞳の中には、驚くほどの気迫。
彼はらんらんとその炎のような瞳を輝かせ、いまだ冷酷な現実をねめつけているのだ…!
「くっそぅ、何でだよ、No.0ッ!」
ジロンは思い切りハンドルを回す。
ウォーカーギャリアが、大きなストライドで地を駆ける。
「う、うらああぁああああぁあァッッ!!」
「――!」
そうこうしている間にも、真・ゲッター1は…手にしたその巨大な戦斧、ゲッタートマホークを大きく振り上げ…ゲッタードラゴンの頭部に狙いをつけている。
そして、その刃の重みを一気に重力に従わせ、まっすぐゲッタードラゴン目がけて打ち下ろさんと…!
「…よいしょおッ!」
だが…その間隙に、緑の疾風が飛び込んだ!
「?!…じ、ジロン…ッ!」
「じ、ジロン君ッ?!」
ゲッタートマホーク、その刃の切っ先は…鮮やかなグリーンに塗装されたウォーカーマシン、その頭部すれすれで…ぴたり、と止められた。
うつぶせに倒れ付したゲッタードラゴン、その前面に…両手を大きく広げ、立ちはだかるモノ。
それは、ウォーカーギャリア…ジロンとチルの駆る、ウォーカーマシン!
「…どうした、No.0!何をためらってやがるんだッ!」
ジロンが大声で呼ばわる。
眼前にて動きを止めた戦斧、そしてその戦斧を握る真・ゲッター1をねめつけて。
「俺たちごと、ゲッタードラゴンをぶったぎればいいだろう…その斧でさあ!」
「…!」
その操者たる巫女、No.0をねめつけて…彼は、挑発的なセリフを連発する!
「そんなに、『自由』が欲しいってんなら!あんたの『お兄さん』を殺してまで、『自由』になりたいってんなら!
…赤の他人の俺たちなんて、もっとどうでもいいはずだろ?!」
「そんな…お、俺は…」
No.0の瞳が、困惑で震える。
かすかに首を横に振り、拒絶と否定の意を示す。
だが、ジロンはなおも彼女に怒鳴りつけるように促す。
「斬れよ!いいから、斬っちまえよ!」
「…〜〜ッッ!!」
トマホークを振り上げていた真・ゲッター1の右手が、だらりと力なく垂れ下がる。
刃の切っ先が、不服そうに月の光を照り返す。
邪神を駆る少女は…怯えたような顔で、ジロンを見ている。泣きそうな顔で、首を振る。
「No.0…ッ!」
「い、嫌だ…お、俺は、お前を…お前たちを…殺し、たくない…!」
動揺で定まらない呼吸の合間から、彼女がやっとの思いで吐き出したのは…そんな、悲痛な言葉だった。
「!」
「だって、だって…俺、…好き、だ…!…ジロンも、チルも、ティファも、ガロードも…俺にやさしくしてくれた、た、大切な…奴ら、だ…!」
「…」
「No.0ォッ!もう、やめようよォッ!」
「チル…!」
チルが叫ぶ。涙交じりの幼子の声が、戦場に響き渡る。
「アタイとの『約束』忘れたのか?!アタイらのアイアン・ギアーで、『チョコレートケーキ』食べさせたげるって『約束』したじゃないかあッ!」
「…!」
「もう、いいじゃんかよォッ…!どうして、どうして、あんたは…『ハ虫人』とかいう、トカゲたちとの『約束』まで律儀に守ってんのさあ…!
何で、そこまでして、リョウたちを殺そうとすんのさあッ…?!」
そのセリフの最後は、もはや泣き声以外の何物でもなかった…
ぽろぽろと大粒の涙を流しながら哀願するチル…
No.0のこころに、その声、その姿が染み渡っていく。
すぐさまそれは痛みへと変わり、No.0を責める。
「チル…ッ!…だ…だけど、俺は、お、俺は…」
だが、彼女の唇からこぼれ落ちてきたのは…自分ではどうしようもない、決定的な事実。
「俺…は…『No.0』…!…ゲッターロボを、破壊し…ゲッターチームを、殺すために…造られた、『兵器』…!」
No.0の声が、震えている。
しかし、それでも彼女は繰り返す…自分の精神に深く刻まれたあの使命、自分の存在意義。
まるで壊れた機械のように…
「そ、その、俺が…こ、今度こそ、今度こそ、『自由』に、なれる、チャンスなんだ…」
…だが、そのNo.0の独白を…ジロンの大声がかき消した。
「…『自由』、『自由』ってお前は言うけど!…そんなもん、どこにだってありゃあしないんだよ!」
「?!」
思わぬジロンのセリフに、言葉を失うNo.0。
そんな彼女目がけ、ジロンは畳み掛けるようになおも言う。
彼女の希望を打ち砕き、そして新たな希望を与えるための言葉を…!
「ああ、そうさNo.0ッ!…例え、お前がゲッターチームを殺しても!青空の下、この世界中のどこを探しても!
…No.0!お前は絶対に『自由』なんて見つけられないぜ!」
「え…?!」
「だって、俺たちは!…俺たちは、最初ッから、『自由』そのモノなんだから!!」
「!」
No.0の表情が、雷に打たれたかのように動かなくなった。
自分が今まで立っていた天地を逆転させるかのような、ジロンの唐突な言葉…
だが、ジロンは伊達や酔狂でそんな事をいっているわけではない。
彼の口から語られるのは、背負う信念。
彼が、彼らシビリアンという種が今まで負わされてきた理不尽な世界の掟を、その裏に潜む思惑を、まるで血を吐くかのような意気をこめて吐き捨てる。
「俺たちだってそうさ!
俺たちシビリアンは、『シュのホゾン』とかいうモンのために、イノセントに造られて…
その上、勝手な法律で縛られて、踊らされて、好き放題利用されてたんだ!」
「…ジロン…!」
「だけどな、No.0!そんなモン、イノセントの奴らの考えなんて、俺たち自身には何の関係もないんだ!
俺たちは、俺たちが生きたいように生きていく!
…それが『自由』じゃないのかッ、No.0ッ!」
「…!」
「お前だってそうさ、No.0!
…リョウたちを殺さなきゃ『自由』になれないなんていうのは、お前がお前自身で造り出した、マボロシに過ぎないんだッ!」
「…」
ジロンは叫ぶ。No.0に叫ぶ。「自由」とは何か、を…
それは、はじめから「人間」が持ち合わせているものなのだ、と。
自分で作り出した思い込みの壁を打ち砕く勇気を、そこから自ら歩み出、自分たちの手をつかもうとする勇気を出してくれ、と…!
「No.0…だから、」
ぐっ、と、ジロンの声のトーンが落ちた。
静かな、穏やかな声で…ジロンは、No.0に語りかける。
「だから、もう止めよう…?…真・ゲッターから降りて来るんだ。俺たちと一緒に行こうよ…!」
「…!」
No.0のガラスのような瞳が…混乱で曇り、そこには何も映らなくなった。

『――!』
がしゃああああん、という、派手な金属音が、恐竜帝国マシーンランド・メカザウルス格納庫内に響き渡った。
「ど、どうしたんだ?!」
「め、メカザウルス・ロウです!メカザウルス・ロウが…」
「ロウがどうした?!」
修理主任に向かい、腰が半分抜けかけた恐竜兵士が、恐怖で回らぬ舌を懸命に駆り立て、何とか異常を報告しようとする。
また、がしゃああああん、という音が、彼らの耳に突き刺さった。
『No.0…!』
それは、拘束具が床に落ちた音だった。
戦うための「兵器」、強力無比なる機械蜥蜴を縛っておくはずの道具…
だが、今ひとつの機械蜥蜴が、自らの力、自らの意思でそれを引きちぎったのだ。
「ロウが、勝手に稼動し始めたんです!」
「?!…な…何だと?!ありえん!…第一、アレは未だ破損状態にあるはずだ…あの『兵器』がどこぞで壊したせいで!」
「し、しかし!…現に、今…」
その時、否定する主任の視界に、信じられない光景が映る。
メカザウルス・ロウ。流竜馬のクローンのために製作された、カスタムタイプのメカザウルス…
だが、破損した箇所はいまだ修理されてもいない。
にもかかわらず、いや、搭乗者すらいないにもかかわらず、ロウは勝手に動いている…?!
『君は、今…一人で戦ってるんだね…<自由>になるために、…あいつらと、戦ってるんだね!』
ロウの双眼が赤く光る。
彼の強い意思を抱きこんで、赤い光を放つ。
「は、発射口のハッチを閉めろ!」
「もうやってます…あ、ああッ?!」
「!…ま、まずい!逃げろッ!…格納庫から、すぐに退避するんだあッ!」
メカザウルス・ロウは軽く頭を下げ、背中の二門の大砲の照準を…ハッチに向け、ぴたりと動きを止める。
その光景を見た「ハ虫人」たちが、慌ててその場から逃げ出そうと走り出す…
『待ってて…今、行くよ!…君のいる場所へ!』
そして、砲火。
マグマ炎熱弾を受けたハッチはたまらず砕け散り、そこから輝きあふれるマグマが、まるで滝のごとく流れ落ちてくる…
みるみるうちに、メカザウルス格納庫内に満ちていくマグマ。
高熱を持つマグマに触れしモノは、抗う事も出来ずその中に吸い込まれていく…
その火炎地獄の海の中、メカザウルス・ロウは立ち尽くし、ハッチを見上げている。
破られた扉の向こう、流れ落ちる溶岩の滝の向こうには、赤い空…マグマ層。
『そうして、君を助けてあげる!君を守ってあげる!…君の<敵>から、守ってあげる!』
ロウのジェットに火が入った。
その勢いで周囲のマグマが飛び散り、赤い雨となって派手に撒き散らされた。
メカザウルス・ロウが空に舞う。
そのまま彼は、まっすぐに赤い空へと飛び込んでいった…
『だって、僕は…君の、<トモダチ>なんだから――!』

マシーンランド・帝王の間。
No.0とゲッターチームの戦いを見ていたゴールたちの前に、突然一人の恐竜兵士が息せき切って駆け込んできた。
「た、大変です!」
「何じゃ、ゴール様の御前で騒々しい!しかも、今は…」
「め、メカザウルス・ロウが!メカザウルス・ロウが発進しました!」
バット将軍のとがめる言葉は、恐竜兵士の怯え声で為された報告で断ち切られた。
途端、その場に緊張と驚愕が走る…
「な、何?!…い、一体、誰が?!」
「い、いいえ…誰でもありません!ひとりでに、起動して…!」
「な…?!…お、お主ら、ボケておるのかッ?!メカザウルスがパイロットもなしに…」
「し、しかし!しかし、事実…!事実、ロウが、たった今!発射口のハッチをぶち破って、何処かに…!」
そんなはずはない、パイロットもなしに勝手にメカザウルスが起動するはずもない、と、そのありえぬ事実をのたまう兵士を責めるガレリイ長官。
が、兵士はただ事実を繰り返すだけ…
…その場にいた、暗黒大将軍とゴーゴン大公…ミケーネの要人二人。
ゴールたち同様に、帝王の間にてあの小娘の戦いを見守っていた彼ら…
そのやりとりを聞いていた彼らの顔に、かすかな笑みが浮かんだ。
「…」
「…のう、ゴーゴン大公よ」
「ええ…」
「たいした忠誠心だの、あの機械蜥蜴…」
「ええ、戦闘獣どもにも見習わせたいものですな」
「…」
「…ちょうど、いいではないですか…でしょう、暗黒大将軍」
「そうだな…だが、」
「ハ虫人」たちには聞こえぬように細心の注意を払いながら、ゴーゴン大公がつぶやく…
その意見に、暗黒大将軍も同意した。
モニターに移る、真・ゲッター1の姿…そして、その中にはあの少女が在る…に目をやりながら…
「小娘…お前は、まだ受け入れようとはせんのか、あ奴らを?…だが、それでは…」


back