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◆ The curtain falls.(劇終)
 (アーガマでの日々―
  「炎ジュン」の瞳に映る、エルレーン)
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「…!」
小さな電子音が、小さめの部屋に鳴り響く。
それは、「炎ジュン」がアーガマに来てはじめて鳴った、緊急連絡用通信機の呼び出し音だった。
「炎ジュン」の自室にいた彼女は、その音を聞くや急いで通信機を取り出し、その画面に映った暗号メッセージを読み取ろうとする…
「…」
すぐに、それが何を意味しているのかわかった。
そのメッセージは、「炎ジュン」に「帰還せよ」と告げている。
それはすなわち、これ以上「炎ジュン」がアーガマにいることができない…
つまり、恐竜帝国によるアーガマへの攻撃が近く行われるということだ。
(…そうか…これでおしまい、か…)
沈痛な面持ちの彼女…「炎ジュン」は、深い深いため息をついた。
この楽しい日々が、いつまでも続くなどと夢想していたわけではない。
そういったわけではなかったが、それでもやはり…
この場から、いとおしい友人、エルレーンから離れなくてはならないという事実は、彼女の心を否応なく重くさせる。
(だが…)
彼女は立ち上がり、通信機をしまいこんだ。そして、自室の扉を開ける…
(去る前に…彼らに、会いに行こう。どうしても、伝えておきたいから…)

ミーティングルームには、やはりゲッターチームの面々…流竜馬、神隼人、車弁慶が集っていた。
彼らのほかには誰もいないようだ…
その方が、好都合だ。
「…あ、ジュンさん!」
いつのまにか入り口に立っていた「炎ジュン」に気づいたらしく、リーダーのリョウが彼女に笑顔で声をかけてきた。
軽く微笑み、彼らのほうに近づく「炎ジュン」…
と、彼らの前で、彼女の歩みはぴたっと止まる。
そして、じっと三人を見つめる「炎ジュン」…
涼しげな目をした長身の青年、神隼人。
氷のような冷静さと炎のような闘争心を併せ持った、思慮深い真・ゲッター2のパイロット。
やさしげな顔の、がっしりした身体の青年、車弁慶。
のんびりと自分のペースを崩さない、それでいて豪胆な真・ゲッター3のパイロット。
そして…あの子のオリジナル、あの子と同じ顔、同じ姿をした青年…流竜馬。
彼女のオリジナルでありながら、彼女とは違う瞳…
炎の燃えるような瞳を持つ、強い心、やさしい心を持ち合わせる正義漢、ゲッターチームのリーダーにして真・ゲッター1のパイロット。
彼女の瞳…黒いコンタクトレンズに隠された、金色の瞳が、ゲッターチームの三人を、エルレーンの「トモダチ」を見ている…
「どうかしたのかい?そんなところに突っ立ってないで…」
立ちつくしたまま、自分たちを見つめている「炎ジュン」に声をかけるハヤト。
だが、思いがけない「炎ジュン」の言葉がハヤトのセリフに割って入った。
「お前たちは、弱い」
「…?!」
あまりのことに、彼らは一瞬呆けたようになってしまった。
唐突に「弱い」と決め付けられ、思わず絶句してしまうゲッターチーム。
何故彼女が突然そんなことを言い出したのかわからず、あっけに取られたような表情で彼女をぽかんと見ている…
「な、何だって…?!」
今聞いたばかりのセリフの意味を問い返すベンケイ。
しかし、彼の問いには答えないまま、「炎ジュン」は淡々と言葉を継ぐ…
穏やかな笑みを浮かべたまま。
「…だが、同時に…とても、強い。
それに、何より素晴らしいのは…お前たちが、とても…やさしいということだ」
「…?!」
「じ、ジュン…?!…何言ってるんだ?!」
その言葉に、なおさら訳がわからなくなる三人。
…唐突なそのセリフの内容もそうだが、いつもの彼女とはまったく違う話し方…
いや、それどころか声色までも幾分低くなっているように感じる話し方をする「炎ジュン」に、強烈な違和感を感じる。
だが、彼らの目に映る「炎ジュン」は静かな微笑みをたたえたまま…ゲッターチームの三人を見ていた。
そして、ふっと目を閉じ…安堵したようにつぶやく。
「安心した。お前たちなら、きっと大丈夫だ…あの子を正しく導いてくれるだろう」
「…あ、『あの子』…?」
彼女が「あの子」という言葉で示しているのが、誰のことだか皆目分からない様子のベンケイ。
それはリョウもハヤトも同じだった…
すっかり困惑してしまっている。
そんな彼らを見つめる「炎ジュン」の表情が、そのときすうっ、と真剣なものになった。
そして、彼女は彼らの瞳をまっすぐに見つめ、こう言った。




「…私が育てたあの子を、どうか…守ってやってくれ。
あの子はとても強く、賢い。…だが、その反面…とても、もろい。
だから、戦いで…あの子が砕け散ってしまわないよう、
あの子がいつまでも…笑って暮らせるよう、守ってやってくれ…」




真剣な、どこまでも真剣な顔をしたまま、「炎ジュン」はそう言った…
まるで、大切な何かを託すかのように。
「あ、あのー…」
「さっきから何言ってるんだ?…ちっともわからねえぜ」
しかし、それを聞いた三人はその意味がまったくわからない…
いきなりやってきて、よくわからないことを自分たちに告げる、いつもと違う「炎ジュン」。
リョウたちは、彼女の言動に混乱するばかりだ…
「…」
そんな彼らの様子を見て、また「炎ジュン」は微笑った…
と、彼女はふいっと身をひるがえし、来た時同様に突然ミーティングルームを後にしようとしだす。
「ちょ、ちょっと!」
だが、その彼女の肩をリョウの右手がつかんで止めた。
「…」
「…ジュンさん!一体さっきから、どういうことだい?!…『あの子』って、一体…」
訳のわからないことを言いっ放しのまま、このままどこかに行かれたのでは納得がいかない。
先ほどの発言の意味を問いただそうとするリョウ…
…と、彼のほうを振り返った「炎ジュン」の表情が…ふっ、となごんだ。
彼女は、自分の左肩に置かれた彼の手をそっと右手で押しのけると、そのままその手を…リョウの頭の上に持っていった。
「…」
…そして、彼の黒髪をくしゃくしゃとかきなぜた。
それは、親が小さな子どもにするように…
「…?!」
突然、頭をなぜられたことに困惑するリョウ。
かあっとその顔が朱く染まる…驚きで、もともと大きめの瞳がもっと大きく見開かれる。
「な…あっ…?!」
「ふふ…」
真っ赤になったリョウの顔…それは、「あの子」と同じ顔…その表情の変化を見る「炎ジュン」。
彼女は、一瞬いとおしいものを見るような、やさしさにあふれた表情を浮かべた…
そして、混乱するリョウをその場において、ミーティングルームを後にする。
事の成り行きをあっけにとられたまま見守っていたハヤトとベンケイは、何も言えないままにその背中を見送った…

哨戒飛行に出る、と整備員に告げ、自らの搭乗機・ビューナスAに近づく「炎ジュン」。
いつこの時が来てもいいように、あらかじめエネルギーは満タン近くまで補充してもらっておいていた。
…後は、何喰わぬ顔をしてそれに乗り、ここを出ればいい。
そう心の中でひとりごちながら、格納庫を行く「炎ジュン」…
と、その視界にゲッタードラゴンの姿が入った。
ゲッターチームの、そして、エルレーンの愛機…
そんなことに思いを馳せながらそのそばを通り過ぎようとした、その時だった。
そのドラゴンの影から、一人の少女がひょいっと姿をあらわしたのだ。
「あれ?…ジュンさん、どこ行くの?」
「…!」
それは、エルレーン本人だった!
…どうやらゲッタードラゴンの調整作業でもしていたらしい。
彼女は自分を見るや否や、にこっと微笑いかけてきた。
その笑みに自らもあいまいな微笑を返しながらも、「炎ジュン」は内心困惑と苦い思いが広がるのを感じていた。
(…参ったな。…つらくなるから、会いたくはなかったのだが…)
しかし、目の前のエルレーンは、彼女のそんな思いなど気づくこともなく、快活に話し掛けてくる。
「ねえねえ、どこ行くの?」
「…ちょっと、哨戒飛行に行くだけよ」
「そうなんだ…気をつけてね!」
「え、ええ…」
「じゃあねジュンさん!いってらっしゃい!」
そう言いながら、笑って手をふってくるエルレーン…
そして、彼女はふっと身をひるがえし、また調整作業に戻ろうとした。
「…あ…」
が、エルレーンは自分の背中にかけられたその声に、またくるりと振り向いた。
…見ると、「炎ジュン」が…何か言いたそうな、そんな表情をして自分をじっと見つめていた。
弱々しく開かれた唇が、勝手に声を紡いだのだ…それは、彼女自身をも驚かせる。
「…?…なあに、ジュンさん?」
「…い、いや…」
何か用があるのかと、エルレーンが笑顔で近寄ってきた。
しかし、「炎ジュン」は弱々しく笑って首をふるのみ…
何とか自分の中にうずまくその思いを押さえつけようと、必死で。
そんな妙な態度を取る「炎ジュン」を、不思議そうな目で…きょとんとした顔で、エルレーンは見ている。
…と、「炎ジュン」と、エルレーンの視線がかちっとぶつかった。
すると、エルレーンはにこっ、とあどけない笑みを向けてきた…
透明な瞳が、笑いかけてくる。
「人間」の瞳が、笑いかけてくる。
昔どおりの、無邪気なかわいらしい笑顔。
かつて自分に向けられた、「ハ虫人」の自分に向けられた、
無垢で、真摯で、ひたむきで、
哀しみ、焦燥、苦悩、煩悶を抱え込み、それでも自分に向けてまっすぐに突き刺さる―それは、「人間」の、エルレーンの…!
それを見た瞬間。
必死になって支えてきた「炎ジュン」の自制は、音もなく砕け散ってしまった。
「…!」
「…きゃっ?!…じ、ジュンさん?!」
格納庫に小さくエルレーンの驚きの声が響く。
唐突に自分を抱きしめる両腕…
「炎ジュン」の腕の中にすっぽりと包み込まれ、ぎゅっと抱きしめられる。
いきなりそんなことをされたエルレーンは、戸惑いと恥ずかしさで頬を真っ赤に染める…
「…!!」
しかし「炎ジュン」は、困惑するエルレーンをなおさら強く抱きしめた。
いとおしむように。
そのあたたかさ、「人間」のあたたかさを、胸に刻み込むように。
抱きしめたエルレーンの身体は、昔と変わらないまま…
時には笑いながら戯れ、時には絶望に泣きながら自分に抱きついてきた、「人間」の少女の…
「ど、どうしたの、ジュンさん…?…ね、ねえ…」
エルレーンがそう問うても、「炎ジュン」は無言のまま。
何も言わないまま、彼女を抱擁しつづけた…
だから、エルレーンもやがて何も言わなくなり、戸惑いながらも…
抱きしめられたまま、じっと彼女の胸の中にいた。
それは数秒、いや、ひょっとしたら数十秒は続いたのだろうか。
しばらくの空白の後、エルレーンを抱きしめていた両腕が、そっと彼女を解放する…
不思議そうな、どこか困ったような顔をして自分を見つめるエルレーンに、「炎ジュン」は少し微笑んだ。
「…ごめんなさい、…ふふ…ちょっと…ね…」
「…?」
「…それじゃ…!」
そう言い残すなり、突然彼女はにこっ、と笑みを投げ、エルレーンから離れていく。
そして、あっけに取られたエルレーンをおいて、あっという間にビューナスAに乗り込んでしまった…
「!…あ、ま、待って、…ジュンさん!」
「…ビューナスA、出る!」
エルレーンの制止も、聞こえないふりをして。
ビューナスAのエンジンに火が入り、射出口へと向きを変える…
そして、次の瞬間。
「待って、ジュンさんッ…」
エルレーンの言葉を、爆音がかき消してしまった。
ビューナスAはジェットで射出口を潜り抜け、大空へと飛び立っていく…
後から起こる突風が、エルレーンの髪をもてあそんでいく。
「…」
射出口に近づき、青空を見つめるエルレーン…
だが、もうすでにその機影は見えなくなってしまっていた。
「エルレーン…」
その時、彼女の背後から呼び掛けてくる者がいた。
「あ、リョウ…」
ふりむくと、そこにはリョウ。
「こっちにジュンさんがこなかったかい?」
「…今、しょーかいひこーに、行ったところ…」
「…そうか」
「ジュンさんが…どうかしたの?」
「ああ…いや、何…さっき、なんか変なこといわれてさ、それで…」
そう、先ほどミーティングルームで、唐突に理解できないことを言われ…
しかも頭をなぜられるという子どものような扱いをされたリョウは、どうしてもその彼女の行動が気になって仕方なかった。
そのため、その真意を問いただすため彼女の後を追ってきたのだが…
「…リョウ、も…?」
「!…え?…それじゃ、エルレーンも?」
返された答えに、驚いたふうを見せるリョウ。
…先ほどの「炎ジュン」は、どこか変だった…
エルレーンも、彼女に何か奇妙なことを言われたのだろうか。
「…」無言のまま、こっくりと一回うなずくエルレーン。
そのまま、二人の間の会話は止まってしまう…
ビューナスAが飛び去った射出口…そしてそこから見える青空を見つめながら、エルレーンは先ほどの「炎ジュン」の抱擁の感触を思い起こしていた。
何故か、とても懐かしい感じがした。
…彼女にあんなふうにして、抱きしめられたことなど今までなかったはずなのに!
そう思う理由すらわからないまま、エルレーンは不可思議なその感触に戸惑っている…
「炎ジュン」の抱擁。
どこかひやりとした心地よい冷たさ。
何処でその感覚を味わったことがあると言うのだろう。
思い出せそうで思い出せない、でもたまらなく懐かしいその感覚…

「…!」
あの日から、閉ざされたままだった扉がきしむ音を立てて開く…
そこから入り込んできた光に思わず目をやるジュン。
その扉を開いたのは、やはり…「炎ジュン」、自分をここに閉じ込めた張本人だった。
「炎ジュン。…これで、13日…か。すまなかったな」
「…」
そんな詫びの言葉をつぶやきながら、自分に近寄ってくる「炎ジュン」。
彼女は、どこか申し訳なさそうな表情を浮かべ、自分に話し掛けてくる…
「その間、不自由はなかったか?」
「…訳がわからないわ。
あなた、私を…閉じ込めてたのよ。その相手を気遣ってどうするのよ」
「はは、そうだな…」
多少ぶっきらぼうに言い放つジュン。
投げつけられたセリフに、一瞬その「炎ジュン」はきょとんとしたような顔をして…そして、軽く声をあげて笑った。
…と、「炎ジュン」はふっと真顔になり、ジュンを見つめる。
自分に対して警戒を解いていないらしい彼女に向かって、穏やかな口調でこう言った。
「…だが、安心してくれ。今日で終わりだ。…帰ってくれて、かまわない」
「え…?!」
その言葉に、驚きのあまり思わず目を見開くジュン。
しかし、彼女の驚き、困惑をよそに、淡々とその「炎ジュン」は話を進めていく。
「外に、ビューナスAを止めてある。アーガマやアイアン・ギアーはここから少し離れた位置にあるが…追いつけない距離ではない。
エネルギーも十分に補充してもらってあるから、心配ない」
「あ、あなた…」
「…炎ジュン」
戸惑うジュンに向かい、彼女の名前を呼んで…「炎ジュン」は、にこっ、と笑った。
「ありがとう。あなたのおかげで、私は確信を得ることが出来た…」
「…?!」
唐突に礼を言われ…しかも、その相手は自分を監禁した人物だ…言葉を失ってしまったジュン。
しかし、「炎ジュン」はなおも感謝の言葉を続ける。
「この13日間、とても…楽しい時を、過ごすことが出来た…」
目を閉じ、かみしめるかのようにそう言う「炎ジュン」…
そのアーガマで過ごした13日間を、その短い日々を思い起こしているかのようだった。
「あなた…」
そんな相手の様子に、困惑しっぱなしのジュン…
「…こんなことまでしておきながら、心苦しいのだが…あなたに、頼みがある」
「え…?!」
「アーガマに帰還したら…これを、『エルレーン』という少女に渡してほしいのだ」
そう言いながら、彼女は何処からか細長い、少し大きめの…白い布に包まれた、何かをジュンに差し出す。
「エルレーンさんに、これを…?!」
「炎ジュン」の口から、思いもかけない人物の名前がでたことに驚くジュン。
彼女は、エルレーンの知り合いなのだろうか…?
「そうだ。…昔『約束』していたモノだ、と言えば、わかるだろうから…」
それを差し出されたジュンは、一瞬「これを本当にエルレーンに渡していいものだろうか」と逡巡した。
何しろ、彼女は真意の知れない…しかも、自分の姿をしてアーガマに潜入したのだ…相手なのだから。
しかし、一端の迷いの後、ジュンはそれを黙って受け取った…
その「炎ジュン」の態度はあまりに誠実で、何故か信用できる気がしたのだ。
包みを受け取ってもらえた「炎ジュン」は、ほっと安堵の笑みを浮かべる。
そして、ジュンの方を軽く叩き、外へ出るように促した。
「それではな、炎ジュン…気をつけて帰還するがいい」
「ね、ねえ!あなた、一体…」
シェルターから押し出されるようになりながらも、ジュンは彼女のほうをふりむいて必死に問い掛ける。
この不可思議な人物は一体誰なのか?
自分を閉じ込めておき、自分になりかわってアーガマに忍び込みながらも…その自分を殺さず、その間こうむらせた不自由を謝罪すらした。
彼女は一体、何者なのか…?!
「行くんだ。…急がねば、アーガマにおいていかれるぞ」
しかし、「炎ジュン」はその問いには答えることなく、自分をシェルターの外に押し出した。
見上げた空は、抜けるような青に染まっていた。
「あなた、一体何者なの?!どうして、こんなこと…」
「…あなたには、本当にすまないことをした。…だが、感謝している」
重ねてジュンに礼を言う「炎ジュン」…
自分を困惑しきった瞳で見つめるジュンを見つめて。
「それではな…もう、合間見えることもないだろうがな…」
最後にそう言って、「炎ジュン」は笑った…
自分と同じ顔をした女が、どこかさみしげな笑みを浮かべたのを、ジュンは半ばあっけに取られてみていた。
ジュンは、思わず彼女にもう一度問いかけようとした…
あなたは一体誰なのか、エルレーンさんの一体何なのか、と。
だが、彼女の唇から言葉が放たれる前に、音をたてて鉄の扉は閉まる。
その隙間から、穏やかな笑顔を見せた「炎ジュン」の姿が、最後に垣間見えた…
目の前で閉じた冷たい鉄の扉。
その扉は再び開く気配はない…
状況がよく把握できないまま、しばらくジュンはその場に立ちつくしていた。
…だが、そこにそのままいても仕方ないことを悟った彼女は、やがてゆっくりと…すぐそばにそびえたっていた自分の愛機、ビューナスAへと近づいていく。
ふりむいて、もう一度あのシェルターを見た。
土ぼこりにまみれる岩肌に光るその鉄の扉は、やはり固く閉ざされたままであった…


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