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恋愛小説「パソコンと私。」


二人を引き裂くものは、何も時間の流れだけではない。
ときに強大なる不運が二人の運命を翻弄する。
それは、どこまでも「ロマンチック(小説的)」なものにみえるのだろうな?

「ごめんね、ごめんね…」
私はまるでキズのあるレコードのように、そのフレイズのみをさっきから繰り返しつぶやいていた。
目の前にたたずむ「彼」は電源をきられ意識を失い、そのディスプレイを暗転させたまま私を見ている。
それは、まぎれもなく私のミスであり、油断だった。
そう、私は「彼」と秋に出すレポートの原稿を『ワード』で作成していたのだ。まさか、それがあんなことになろうとは…
「………じざざ、ざ(人間語訳:……もうすこし、だな)」
「そうだね。これできっとばっちり単位ゲットだぜ、だよぉ」
「じじ…ざっざびがー(おいおい、まだできてないんだぞ?)」
なかなか好調にレポートを進めていた私はとても機嫌よく、また彼も重い作業ながらいつもに増して軽快に単語を漢字変換していた。
そんな時、台所から聞きなれたアラーム。電子レンヂの音だ。
「あ、牛乳できた。とってくるね」ちょっと休憩したいと思っていた私は、これ幸いにと電子レンヂのそばへ行きホットミルクを取り出した。
猫舌の私にぴったりの、ぬるめの温度。やわらかい感触。
その感触を手のひらで楽しみながら彼のもとに戻ろうとした、その時。
「ねえねえ、ちょっ…」言葉が途切れた。
私の足に、彼の電源コードが絡みついた。
あっと思ったときはもう遅かった。
バランスを失い前のめりに倒れていく私のからだ。
とっさに私は彼のいる机から少しでも遠くはなれようと身をよじった。もしぶつかれば、彼は無傷ではすまないだろう。
きゅんと血管が収縮する。筋肉が躍動する。(彼を守りたい)ちっ、という痛みが左肩口に走る。
私は、ゆっくりと机の端をかすめからだが床に倒れ付していくのを感じていた。
危機を回避したとほっとしたその瞬間、私は別の悪夢に気づいた……
白いホットミルク。まっしろい、あたたかい、やわらかい液体…
私の手から離れたそれは、彼のからだにふりそそいだ。
彼がそれを見上げた瞬間…私は反射的に彼の電源スイッチに手を伸ばした。
それがもう0.1秒でも早かったなら。
「ぢ…(あ…)」彼が意識を失うのと、彼にとっては凶器である液体が彼を犯すのと、どちらが早かっただろう。
ひゅううううん、という彼の断末魔にも似た呼吸音を聞きながら、私は自分の犯した罪の重さに打ち震えていた。

(ここでつづかなかったらだめでしょー。)

*八回目になりました。これは現実の出来事からネタをとってるのですが、でもこんなんじゃないっすよ、わたし^−^;