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恋愛小説「パソコンと私。」


いつかは,いつかは訪れるだろうと思っていた。
だからその瞬間は唐突でも,残酷でもなかった。


私はいつもどうりに彼のスイッチを入れる。それはいつもと変わらない風景。
『ふいーーーーーん…』彼が目覚めだし、起動を急いでいる。それもまたいつもと同じ。
違うのは,私。私だけなのだ。
起動し終えた彼に私は無言で『マイコンピュータ』を開かせる。
『じじざっ、じがじーーっ(人間語訳:珍しいな,このコマンドをつかうなんて』そう,私は今までこのコマンドをあまりつかったことがなかった。彼が不思議がるのも無理はない。
これを起動するには理由があった。私は,彼との過去の清算をしなければならないのだ。
もともと彼とは一時的な関係,それだけの存在だったはずだ。新しいコンピューターが来るまでの。
処理も遅く,メモリも少なく,もはや使えないキカイでしかない彼は,いつもそれ以上を求める私をいらつかせてきたはずだ。
なのに…どうしたことだろう,この奇妙な感情は。
『コントロールパネル』を開き,『アプリケーションの追加と削除』をマウスでクリックする。かちっ,という音が,やけに寒々しく響く。
『ざぎざ…?(何だよ…?)』私はなぜか,今この場で感じるはずのない感情のほどばしりを感じていた。
私は機械をつかう人間であり,彼はそれに従属するキカイでしかない。私は今なしえようとしていることに罪悪感を感じる必要なんてないはずだ。
理性はそう私をさとす。感情がそれを無視する。
「おまえは彼を役立たずといって捨てようとしている、ほうり捨てようとしている!」
感情を沸き立たせあおっているのは、道徳なのだろうか。それとも…何らかの愛だというのか?
『「ホームページビルダー体験版」とそのすべてのコンポーネントを削除しますか?』
ディスプレーが命令に従い,そう表示している。私は数秒ためらった後,クリックした。
『じざーざーざっ、ざざざーざじーぎがざーーーー(ほんといいのかよ?これなくなったら困るんじゃねーの?あとで入れようったってダメなんだぜ?)』
ああ,今日の彼はいつもより饒舌だ。少ないメモリいっぱいに働かせて,必死で私にはなしかける。まるで自分のこれからの行く先を察知しているかのようではないか。
彼が話しかけている私は,もはや彼を捨て去り,新しいコンピューターを得ようというのに。
「うん、わかってるよ」何とか私ののどはそういう風な音を搾り出した。
そのようにして,私は彼との思い出,記憶,すべてのデータをごみ箱にドロップし,そして空にした。
ウィンドウズを終了させるとき,彼が言った。
『じーざざーーーーじっ、ざざーーーー(お休み。それじゃあまた明日)』その明日は,きっともう二度とない。
彼からすべてのケーブルをはずし,私は戸棚に彼とそのかけらをしまいこんだ。
これでいいのだとつぶやきながら。
しかし,彼は私をけして責めはしないのだ。何年,いや,何十年たった後,ここから彼を取り出してすべてのケーブルをつなげば,
彼はまるで昨日のことのように,また私に語りかける。
『ふいーーーーーん…じざざざっ、ざざぎじっ(よお,お帰り,今日はどうだった?)』と。


(つづいてしまうやも)

*これで四回目ですがこれはフィクションです!この中に出てくる「私」とはゆどうふのことじゃないんですよう(^^;;)