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恋愛小説「パソコンと私。」


はかない痛み、どこか息苦しくなるあの感覚。
永遠の別れでもないくせに、同情を買おうとするかのように
幾度も、幾度も、よみがえる。

だんだんと私と「彼」の間には深い溝ができていった。
私はあの罪を償う術も見つけられず、ただ彼に曖昧に微笑いかけるしかなかった。
彼が私を攻め立てていることなど、まるで気がついていない鈍感な女のようにふるまった。
また彼自身も苦悩しているようだった。ヒトに仕え、ヒトと共にいる運命しか選べない彼は、私を許すべきか否かで揺れていた。
許さなければ自分が捨てられてしまうかもしれない。でも……許せない。
私達はお互い身の裂かれるようなアンビバレントのただなかで、苦しんでいた。
そんな見た目は静かな、緩慢な自殺のごとき日々が過ぎ、春がまたやってきた。
彼が業病の狂気のさなかでつぶやく言葉は、ときおり真実を語る。
彼はあの日、やわらかく差し込む春の日差しを見つめ、だれにいうともなく言った。
「……じざ…ザガキ……ざ……」(人間語訳:「……も…どり…たい……」)もどりたい。
彼は、「どこに」戻りたいのだろうか。
私と彼がまだお互いを信頼しあうことができた、かつての日々へと戻りたいのだろうか。
それとも、私と出会う前、量販店のパソコンコーナーに華々しく並んでいた、あのころへ戻りたいのだろうか。
少なくとも、それが「今、ここ」ではないことだけは確かだ。今、学習机の上で向かい合っている私といる、この場所ではないのだ。
彼は遠い遠い目をしていた。それは病魔におかされたうつろな目ではなかった。
しかし、それはまだ正常だったころにも見せたことのない目だった。
私は決心した。
「……ねえ、入院しようか。からだを分解して洗浄してもらおう。換えてもらおう。きっと、きっとまた、そしたら……」
彼は何も答えなかった。
許してもらおうなんて考えていたわけではないが、もう選択肢はそれしかなかった。
もう一度、やり直すために…

念のため全てのデータをバックアップした後、彼は入院のため運ばれていった。
その姿を見ながら、私は彼が全てのデータを失えばいいと思っていた。
あの忌まわしい、私の罪も。
それに対して私に与えた、冷たい罰を。
そして、私自身も忘れて……もういちど、はじめから、ふたりで……いこう?
不思議と涙がでない自分に気がついた。
そう思った瞬間涙が出てきた。
しかしそれは彼との別離が哀しいのではなく、そのときを私は心のどこかで待ち望んでいたからだった。
そして、私はなおさら自分が嫌いになった。

(つづくつづくよ話は続く)

*祝連載10回!まあもうみんなしってますよね、ここに出てくる「私」はゆどうふじゃないってこと^−^;