ドイツ語アルファベットで30のお題
〜マジンガー三悪編〜


"Z"--der Zwietracht(争い)

「何いッ!もう一回言ってみろ、ラオダメイアッ!」
「ふふん、何度でも言ってやろうエンデュミオン!…お前は、度し難い馬鹿男だ!」
「な、何だと…お前ッ、それが自分の夫に対する言葉かあッ?!」
「はん!…やれやれ、私の目もどうかなってしまっていたらしいな、お前のような阿呆を自分の伴侶に選んでしまうとは!」
「な…?!」
「まったく、何て失策だ!」
「な、あ…い、言わせておけば、ッ!」
「言ったがどうした!馬鹿男!」
「そ、それはこっちのセリフだ、この馬鹿女!」
「何だとッ?!」
「ああそうだ!俺のほうこそ失敗だったよ、じゃじゃ馬通り越してとんでもないこんな凶馬を自分の妻にしてしまったんだからな!」
「ぐ…?!」
「がさつでわがままで乱暴で!何かと言えばすぐに口答えするかわいくない女をな!」
「よ、よ、よ…よくもそんなことが言えたもんだなあッ?!」
「ああ言ったさ!言ったがどうした馬鹿女!」
「くそッ、馬鹿はどっちだ馬鹿男!」
「お前に決まってるだろうが馬鹿女!」
「それはお前のほうだろうが馬鹿男!」
「…〜〜ッッ!!馬鹿って言ったほうが馬鹿なんだぞ、この馬鹿女!」
「馬鹿って言ったほうが馬鹿って言ったほうが馬鹿なんだ、この馬鹿男め!」
「…馬鹿って言ったほうが馬鹿って言ったほうが馬鹿って言ったほうが馬鹿ッ!」
「馬鹿って言ったほうが馬鹿って言ったほうが馬鹿って言ったほうが馬鹿って言ったほうが馬鹿だ!」
「ば、馬鹿って言ったほうが馬鹿って言ったほうが馬鹿って言ったほうが馬鹿って言ったほうが馬鹿なんだ馬鹿女!」
「ほーら一回間違えたな!…馬ー鹿!」
「ぐ、ぐ、ぐ…!口の減らない…ッ!」
「!…ほう、何だその手は?やる気か?」
「ああッ、口で言っても聞かないんなら、身体でわからせてやるッ!」
「よかろう!かかってこぉいッ!」
「…くそッ、何処の世界にそんな猛々しい妻がいるもんかよッ?!」
「はんッ、少なくともここにいるだろうがあッ!」

「く…う!」
「このお!」
「?!くッ…!…よ、よくもおッ!」
「痛ッ?!や、やりやがったなッ?!」
「やったがどうした!顔を殴ってくるなんて…跡が残ったらどうしてくれるんだ!」
「ええい、うるさぁ〜いッ!じゃあ顔が駄目なら!」
「…!!」
「うりゃああッ!!」
「?!…き、きゃああんッ?!」
「?!…な、何て声上げてんだ、お前?!」
「ば、馬鹿ぁッ…ど、何処をつかんでるんだ、エンデュミオンの馬鹿ッ!」
「!…ち、ちいッ!」
「何を考えているんだ、この馬鹿男ッ!」
「ふ、ふんッ!…そ、そんなところにそんなモノをくっつけているほうが悪いんだ!」
「な、何ぃ?!」
「お、女は哀れだな!そんなでっかくて重いモノを二つも胸にくっつけてちゃあ、邪魔で身体がうまく動くまい!」
「…〜〜ッッ!!い、言わせておけばあッ!き、貴様だって、おとといの夜は、喜んで顔を埋めておったくせにッ!」
「?!な、ああああ?!お、お前、何てこと口に出すんだ?!」
「もういい!貴様には金輪際触らせてもやらんし顔も埋めさせてやらんッ!」
「…は、はんッ!そんなのこっちからお断りだ!やーい乳牛乳牛」
「…!!…たああッ!!」
「?!ぎ、ぎゃあああッ?!」
「ふんッ…!」
「ぐ、が、あ…ぐ、くく、ッ…」
「ふん…哀れなものよの、男というものは…そんな弱点をぶら下げておったのでは、おちおち油断も出来ぬなあ…?!」
「ら、ラオダメイア…ぐ、うう、お、お前、な、何てえげつないことを…」
「…ふっ…動けぬか。まことに哀れよの」
「い、言わせておけば…き、貴様だって、おとといの夜は、喜んでこの」
「?!…うわーーーーーーーーーーーっ!うわーーーーーーーーーーーーーッ!!」
「…なことまでしたくせに!」
「き、き、き、き、貴様ッ!な、何てことを口にするんだッ?!」
「も、もういい…貴様には金輪際触らせてもやらんし入れ」
「うわーーーーーーーーーーーーーーーーッ!うわーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
「や、やかましいッ!」
「ばばば、馬鹿男!そそそ、そんなこと口にするんじゃないッ!ひ、人に聞かれたら…」
「うるさい、○○○○大好き女」
「うわーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!ああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
「ううう、うるさい!黙れ馬鹿女!」
「ああああああ、ああ…おおお、お前って奴はああッ!」
「ふん、事実だろうが…現に、おとといの夜も」
「うわああああああっ!お、おとといの夜のことはもう忘れろおッ!」
「お、お前が最初に持ち出したんだろうが!」
「ぐ、く…ッ!」
「く…う、ッ、…とお…」
「…」
「くそ…やっと痛みがひいたか」
「…」
「お前なあ…本気でここ狙うのやめろ。死ぬかと思ったぞ」
「…すまなかった。少し、やりすぎた」
「…ほう?やけに殊勝だな」
「…」
「…ふん、よかろう。さっきのは取り消してやる」
「?…『さっきの』とは、何だ?」
「え?…ああ、『金輪際触らせてもやらんし入れ』」
「うわーーーーーーーーーーーーーーーーッ!うわーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
「や、やかましいって言ってるだろッ!」
「おおおおおお、お前って奴は!お前って奴は、本当に…ッ!」
「ふん…真っ赤だぞ、ラオダメイア」
「…」
「すねるなよ。…思い出したのか?」
「!…ま、また、そういうことを言う…ッ!」
「ふふ…かわいいな、ラオダメイア」
「!」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…ん」
「…ごめん、な。…少し、言い過ぎた」
「いや、…私も。すまなかった、エンデュミオン」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…やっぱり、」
「ん?」
「私も、取り消す」
「何を?」
「…さっきの、あの…」
「…」
「!」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…いいよ、…わかってる、から」
「…」








「ねーえ、父様、母様ぁ」
「わわわ、ダメですよアルタイア様!」
アルタイアが両親を探しその部屋に入ろうとしたところを、慌てた様子の侍女が押しとどめた。
きょとん、とするアルタイアに、今度はぐっと声のトーンを落として彼女はこう言う。
「あ、あの…ご主人様と奥様、どうもケンカをされているようでして…今は行かないほうがいいかと」
「…えー?」
なおさら、ぽかあんとした表情になったアルタイア、むしろ侍女の説明に興味を引かれたのか、ひょいっ、と部屋の中を覗き込んでみた。
「あああ、アルタイア様!」
「…」
侍女の動転。
しかし、アルタイアは…不思議そうに首をかしげ、彼女のほうを振り向き…こんな風に言ってきた。
「…うそー」
「…え?」
「父様と母様、いつもどおり、なかよしなの…ほらぁ」
にこにこしながらそう指を指すアルタイア。
その指し示す先に、ちらりと視線を走らせた侍女の目に映ったもの…






それは、さきほどの乱闘ぶりは何処へ行ったのか…
お互い、ぴったりと肩を寄せ合い、仲睦まじく語らいあう、恋人同士のようなラオダメイアとエンデュミオンの姿だった。







マジンガー三悪ショートストーリーズ・"The invincible Couple(「無敵の二人」)"より。
その後の物語、これはその一つ。