A War Tales of the General named "El-raine"〜とある戦記〜(36)
コネタ・副将スキル「激怒」は、一体どのようにして主の無双ゲージを回復せしめるのか?
「激怒」。
それは、将たちに付き従う副将たちが身につけることの出来る特技の一種であり、
必殺の一撃たる「無双乱舞」を放つのに必要な気力・無双ゲージを一瞬にして全回復するという有用かつ驚くべき技である。
では、この技は、一体どのようにして戦友の戦意を高揚させるのだろうか?
孫権軍が衛将軍・エルレーンの副将、鉄甲鬼。
彼もまた、この技の使い手の一人である。
ある一例として、彼の副将スキル「激怒」がどのように発動されるかを見ていただくこととしよう。
「おらおらあぁ!この程度かよぉ、孫権軍!」
「ぐ、くう…ッ!」
力任せに殴りかかる、その一対の双戟―驚天動地の強撃の重さ!
何とか己が宝剣・真覇道剣にてそれらを受け流すも、その攻撃は腕力に劣る女将軍の腕に耐え難い鈍痛を残す。
副将・鉄甲鬼の眼前で―
(ま…ままま、まずいです!)
主君エルレーンは、今危機にあった。
とある戦場、曹操軍との不安定な国境を接するこの場所では、両軍の小競り合いが絶えない。
今日も勢力を広げんと侵入してきた敵将たち、彼らを払うために出撃した彼女であったが…
だがしかし、敵もまた兵(つわもの)。
雑兵は軽く打ち払えても、同様に修練を積み戦いの中に生きるその将はそうはいかない。
少女の表情は、いつの間にか焦燥に蒼ざめている。
一撃、また一撃。
己の豪腕に物を言わせ振りかざす双戟の連撃が、着実に一歩一歩彼女を追い詰めていく…!
(こ、このままじゃ、エルレーン様が…!)
群がる兵卒たちの相手に追われ、彼女の救援にも入れない。
エルレーンは、最早相手の攻撃を受けるので精一杯の様子。
このままでは、間違いなく力押しで打ち負け、やられてしまう―!
「…〜〜ッッ!!」
それは、ならない。
そうさせては、ならない。
彼女に再び活力を、敵に抗う気迫と胆力を!
それが出来る技を彼は知っている、
知っている、嗚呼―
少しばかりの犠牲と引き換えにせねばならない、その技を。
鉄甲鬼は、意を決して―あらん限りの声で、叫んだ。
「え、エルレーン様ぁ!」
「?!な、何ッ、鉄甲鬼!…い、今、ちょっと、まずい、んだけどッ?!」
「あ、あのぉ…!!」
突然背後から呼びかけられるも、敵将と刃交えている最中の彼女には、そちらを振り向く一瞬の余裕などない。
泣きべそをかいているような顔をしながら、彼は続けた―
「きき急に思い出したんですけど!この間車弁慶殿が!」
ごくり、と息を呑む。
心の中で、心の中だけで、彼はその男に謝罪した。
「…え、エルレーン様が!
『あれほどがさつではねっかえりで、
敵将に会えば逃げ回る臆病で根性なしの小娘で、
その上おまけに胸も尻も大層貧弱ときたら
まあ嫁の貰い手もあるはずがないなはっはっは』とか言ってましたーッ!」
間。
戦場の空気が、一瞬、止まり。
ぴゅううーーー、と吹いていく、風の音も何処か寂しく。
「…」
衛将軍殿は、無表情。
色のない無表情の中に、透明な瞳が揺らぎすらせず氷結し。
「え、何…」
瞬時にして異常な様子に陥った敵の様子に、双戟使いの男は一瞬困惑した、
が―
その一刹那。
「うがああああああああああーーーーーーーーッッ!!」
「ぎゃーーーーッ?!ひ、瀕死じゃないのに真・無双乱舞ーーーーッッ?!」
まさしく雷撃を全身から放たんばかりの鮮烈なそれは真・無双乱舞!
逆鱗に触れられた傷つきやすい乙女心は、今炸裂する邪悪な火薬弾と化した。
とばっちりを受ける可哀想な敵将が、情け容赦もない斬撃の嵐の中で悲痛な絶叫をあげる―
「あ、あわわ…!」
そう、「激怒」した今の彼女は、既に修羅。
悪鬼と成り果てた己が主君を目の当たりにして、鉄甲鬼は…
強大なケモノを前にした野ウサギのように、がたがたと恐怖に全身を震わせているのだった。
「…」
「!」
がらり、と。
開いた扉に、偃月刀使いの車弁慶が目をやった。
入ってきたのは、衛将軍殿と副将・鉄甲鬼…
あれから、あの将はいうまでもなく、敵と言う敵、兵と言う兵を完膚なきまでに(それはそれはもう徹底的に)叩きのめしたエルレーン。
後に残っていたのは、その凄まじい八つ当たりの犠牲となった悲惨な犠牲者たちの群ればかり。
何しろ「な、何もここまでやらずとも…」と、味方側の兵卒どもが震えながら呟きあっていたほどだ。
修羅場と変わり果てたその戦場を後に、彼らは街へと戻ってきた…
が―
真の悪夢は、ここから始まるのだ。
「よくぞ戻ってきた、エルレーン…」
彼らの帰還に、立ち上がり拱手し、出迎える偃月刀使い。
だが、衛将軍殿の様子が何かおかしいことに、迂闊にも彼は気づかなかった―
彼女には似合わぬ、異様な無表情。
車弁慶を見据える、その透明な瞳。
ぎりっ、と。
凍りついた瞳が、彼を、射た。
「…よくも、ッ」
「?」
瞬間。
その瞳の中に、どす黒い怒りの火焔が―燃え上がった。
「よくもぉ、ぬけぬけとーーーーッ!!」
「?!い゛っ、があッ?!」
絶叫と悲鳴!
怒鳴りつけるや否や衛将軍殿がその無辜なる偃月刀使いに与えた成敗は、
息の根も止まるような鋭い下腹部への射すごとき一蹴!
哀れ、真に潔白たるはずの彼は、理由もわからず私刑を加えられ、
「ぐッ、うう…ッ?!」
苦痛に表情をゆがめ、たまらずにその場にうずくまる。
必死に呼吸を整え、痛みを逃そうとしながら、
きっ、と、怒りに燃えた真っ直ぐな瞳でエルレーンを見上げ、異を唱えんとするも―
「いッ、いきなり何なんだ?!俺が一体何を…」
「やかましいッ!!」
「う、うぎゃあああーーーーーーーッッ?!」
…そこから先は、最早描写することすらはばかられる。
それは、文字通り阿鼻叫喚の地獄絵図。
部屋中に、耳をふさぎたくなるような痛ましい偃月刀使いの叫び声が響き渡る…
そして、
主を救うためとはいえ、この酸鼻極まる悪夢を作り出したその張本人は、と言うと―
「あ、あわわわ…!ごごご、ごめんなさいごめんなさい…!」
果たせるかな、そこから少し離れた安全な物陰から。
小声でその無実たる友に幾度も幾度も詫びながら、半泣き顔でその有様を見守っているのだった。
結論:
副将スキル「激怒」の使い手の周りには、そのせいで泣いている者がいるはずだ。
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