A War Tales of the General named "El-raine"〜とある戦記〜(24)




ざわめき。
中央都市・洛陽が広場…回廊に続く大門の前に、私は立っている。
ざわめき。
私の前には、ずらずらと立ち居並ぶ兵士たちの列。

そして―
私の背後には。

金色の鎧を纏ったこの国の長、袁紹様。

「この者は、我が威光に心酔し従者となったが―」

袁紹様の声が、空に散っていく。

「我が指導の賜物により目覚ましい成長を見せ、戦場で大きな功績を挙げた」

私みたいな小娘には勿体無いばかりの言葉に、顔が赤らむのを感じた。
そう、この袁紹軍にて―
私は、私なりに、
我が身命を賭け、戦ってきた。
…袁紹様の下で。

だが、その次に続く言葉は…心底に、私を驚愕させた。

「よって、その所為を賞し!この者を我等が袁家の一員に加えたいと思う!」
「…?!」

兵たちの歓声。賞賛の声。
だが、それらはまったく私の耳に入らない。
高ぶる心音だけが、私を包んでいる。
二の句もろくにつげずにいた私は、きっと途方にくれたような情けない顔をしていたのだろう。
そんな私を見て、袁紹様は。

「礼などはよい」

そう、何処か照れた様に笑って。
その後で、俄かに表情を険しくし、私に告げるのだ…

「これからは名族として、誇り高く励むのだぞ!」
「…!」

胸を衝かれ、半ば呆然と見返す私を。
私を見つめ、袁紹様は…また、言った。

力強い微笑が、私を刺す。
私は、それをじっと見ている。


私は―


強大な、壮大な軍隊を統べる、我が主君―
だがしかし、その果て無き栄光の中に、
彼の人は、私を望んでくれたのだ。

その思いがけぬ格別の厚誼に、驚き喜びながらも。
私は、その場に立ち尽くしていた。

嗚呼。
だが、不思議だ―
何故だろう、何故私は、こんなにも。
こんなにも、こころがざわついているのだろう。
まるで、この暖かい歓待の空気、
この袁紹様の私に対する優しい信頼、
その全てに対して、おののいているように。

おののいているように。
罪の意識で。
全てを、袁紹様を、
振り捨てて去らねばならない、その罪深さで。

そうだ。
私は、「この世界」を旅立たねばならないのだ。
それは焦燥じみた確信であり、
得体の知れない必然のように思える。
こんなにも素晴らしい、そして私を必要としてくれる、「この世界」。
「この世界」を捨てて、私は往かねばならない。


―往こう。


私を深く信頼してくれた、
私を重く取り立ててくれた、
黄金に輝ける貴き宝剣使い殿に、別れを告げることなく。

往こう。
新たなる、戦い渦巻く混乱の世界へと。
それが、おそらくは我が使命。

往こう。
全てのいとしい者たちに、別れを告げることなく。




再び平和を取り戻した、「この世界」を愛するが故に―





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