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青春Fire!〜知力・体力・チームワーク!〜(8)


「残念なことだ、じぃつぅにざんねぇんなことだッ!」
そう言って派手に嘆いてみせるハチマキの司会者・河豚澤朗のセリフは、どこか演技めいて見えた。
「まさか、1チームもこの壁を越えられないとは…!」
そう。
ブロックを組み上げて俳句にするという先ほどのクイズは、まさかの全チーム失敗という苦い結果に終わったのだ。
俺たち浅間学園チームも、10個まではうまく組んだのだが…結局は、そこで崩れ落ちてしまった。
つまり、まだ何処のチームも準々決勝進出を果たしていない。
「しかし!この第二回戦は、まだ終わってはいない!」
だから、続きがあるのだ―
河豚澤の口から放たれた、次なるクイズの内容は。
「次のバトルは…『知っTELつもり!テレホンウォーズ』だーッ!」
『…?!』
そのタイトルを聞いた会場内の参加チームに、わずかなどよめきが上がる。
明らかに、スタンダードなクイズではない。それを予感させるようなタイトル。
続いて説明された、そのクイズの概要はこうだ―
解答者は、参加チーム「ではない」。
参加チームは、自分の家にこのスタジオ内から電話をかける。
そして、家族の誰でもいいが、その電話に出た人物がクイズに答えられれば、準々決勝進出となる―
要するに、他人頼みで運命が決まる、というわけだ。
そして、それを聞いた俺たちは―
「…」
「…」
「…」
「…ちょ、」
「…」
「ちょっと、どうすんだよ…」
「…」
思わず、黙り込んでしまっていた。
―しばしの、間。
最初に口を開いたのは、ベンケイだった。
「俺んち、今親父の仕事の関係で東京に引っ越してるんだよ」
ベンケイの父親は、国内線のパイロットだ。
主な勤務経路が変わったか何かで、住むところも便宜を図って変えた…ということだろうか。
「それがどうしたよ?」
「…いや、その、新しい家の電話番号、覚えてないや」
「…」
遠まわしだが、奴の言いたいこと、奴の主張はよくわかった。
「アドレス帳かどっかにメモした気はすんだけど、」
「そのアドレス帳が今ないからわからん、って言いたいのか」
「うん、そう」
神妙な顔でうなずくが、結局は「俺は出来ません」ということだ。
困り顔になったリョウが、次に―
「じゃ、じゃあ、ハヤ…」
「…」
よりにもよって、俺に振ってこようとした。
俺は、口を閉ざした。目線をそらした。
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…」
意地でも、何も言わなかった。
意地でも、そっぽを向いていた。
「…リョウ〜」
「ご、ごめん、ハヤト…」
そして、俺の無言に飲まれ、ベンケイにさとされ、とうとうリョウも引き下がった。
…ふん、当然だ。
母はとっくの昔に亡くし、父親とは疎遠。明日香姉さんはフランスだ。
俺に「家族に電話をかけろ」って言うほうが間違ってるぜ。
―そうなれば。
俄然、結論はひとつに決まってくる。
「…と、いうことは」
「…決まってるだろ」
「―!」
俺と、ベンケイの視線が一点に向いた―
視線の先には、リョウ。
刹那に俺たちの意図を悟って顔をこわばらせた、リョウ。
「い、嫌だ!それはダメだ!絶対ダメだ!」
リョウも相当に抵抗している。
必死に首を振り拒絶するのも、無理はない…
こいつの親父さん、超絶に頑固で頭固くて、迫力があって怖いのである。
リョウは今でもまったく頭が上がらないらしく、何か所要があって実家に電話をかける時はいつも、まさしく「悲壮」と言うしかない顔つきで電話と相対している。
俺も一度会ったことがあるが、確かに…あの親父さん相手に、悪ふざけは通用しなさそうだ。
下手にふざけでもしたら、その場で凄まじい雷が落ちて競うだし…
しかし、俺たちの中で実家に電話できそうなのは、リョウしかいないのである。
だから、俺たちはこう言うのだ。
「もうお前しかいないじゃん、リーダー!」
「そうだ、こういう時こそ立候補するのがリーダーってもんだぜ、リーダー!」
「で、でも!俺、親父に何て言えば…」
「えーそりゃ決まってるよ、『さて、ここで問題です!』だろ、リーダー」
「つべこべ言うな。お前しかいないんだから、お前がやれリーダー」
「…〜〜ッッ!!こ、こんな時ばっかり『リーダー』『リーダー』ってええええ…!」
そう、こいつは「リーダー」という言葉に弱いのだ。
自分がゲッターチームのリーダーだということを深く自負しているせいか、「リーダー」としての責任を問うと、割と何でもやってくれる。
まあ、普段からリーダー風を吹かしている報いというか、副作用というか、そんなもんだ。
しかし、自分が体よくうまく使われていることには当然気づいているわけで…
奴は真っ赤な顔をしながら、ぎりぎりと俺たちをにらみつけてくる―
おお、怖。


―と。
俺たちが大役のなすりあいをしている間に、ゲームはだいぶ進んでいた。
うまいこと家族にクイズを正答してもらい準々決勝に進んだチーム、残念ながら時間内に正解を引き出せなかったチームなど…
勝利と敗退の真っ二つに、チームの命運が分かれていく。
そして―
「それでは…神奈川県代表・私立百鬼帝国青龍学園!」
奴らの番が、やってきた。
ステージ中央に作られたテレフォンブースに、鉄甲鬼・自雷鬼・胡蝶鬼の三人が降りていく。
「さて、誰がかける?」
「はい!」
河豚澤の問いかけに、元気よく右手を上げたのは(小学一年生かお前は)、リーダーの鉄甲鬼だ。
あんまり勢いよく右手を振り上げたもんだから、肩からかけている赤いラジカセが一瞬跳ね上がったほどだ。
「えーと、君だね、霧伊君?」
「俺は両親を亡くしてるんで…日ごろ、お世話になっている先生にかけます!」
「!…わかりました」
―と。
笑顔のまま、思いもしないことを奴は言いやがった。
一瞬、それを聞いた河豚澤の顔に動揺が走ったが…すぐさま彼はそれを消し去った。
本当は家族相手でなければならないだろうが、そんな状況じゃ無理強いも出来まい。
そのあたりの融通を利かせて、ゴーサインを出したのだろう。
その様子を自分たちのブースから見下ろしながら―
俺は、ふと思った。愚にもつかないことを。
そうか。
あいつも、親を亡くしてるのか…と。
そりゃ、鬼だろうがなんだろうが、そういう奴もいるだろう。当たり前だ。
だが、俺はその時、ふとそう感じたのだ。
…奇妙な、共感だった。


「では、テレフォン・ターイム!」


だが。
そんな俺の感傷は、次の瞬間ぶちぎれた。
受話器を握り、電話番号をプッシュする鉄甲鬼…
仕込まれた集音器から入る、増幅された通話音がスタジオにしばらく響き―
数回、鳴って、
ぶちっ、と、途切れた。
その代わりに割り込むのは、老人の声―


『…はい、どちらさんじゃ?』
「あ、グラー博士!お久しぶりです!」



「?!」
「ぐ…」
俺もリョウもベンケイも、一瞬真っ白になった。
あまりに、びっくりしすぎて。
…グラー博士、グラー博士って。
そりゃ百鬼の要人、百鬼メカの開発者じゃねえか。
だが、その名前を聞いて驚いているのは、会場内で俺たちだけしかいないようだ。
他の奴等は、みんな普通にクイズの行く末を見守っているだけで。
いやそりゃ奴らの正体に気づいている、知っているのは俺たちだけなのだから、当然のことだけど。
しかし、俺たちの動揺と衝撃など一向に解するはずもなく、鉄甲鬼とグラーの会話はフレンドリーに進んでいく。
『ん〜?お主…』
「鉄甲鬼です、鉄甲鬼!」
『おお、鉄甲鬼か!久しいのー!』
「ええ、ろくに顔も出せずにすみません」
『いやいや、お前が忙しいのはようわかっとるからの…で、何用じゃ?』
「えーと、ちょっと質問がありまして…」
『質問?なんじゃ、言ってみい』
「…『問題です!』」
河豚澤に手渡された問題の書かれた小さなカードを、いきなり読み上げだす鉄甲鬼。
屈託なく、あくまで屈託なく。
「『いつまでも決着がつきそうにない話し合い。どんな線をたどる?』」
『…はあ?』
突然変な風に捻じ曲がった会話の方向に、グラー博士が困惑気味に上げるいぶかしげな声が大きく響いた。
しかし鉄甲鬼の奴は、あくまで屈託なく、答えを催促している。
「答えてください、博士!『いつまでも決着がつきそうにない話し合い。どんな線をたどる?』」
『…そりゃあ、「平行線」じゃろ?それがどうかしたか?』
グラーのジジイが、事情が飲み込めないままにそれでも鉄甲鬼の問いに答えた―その瞬間。


「FIREEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE!!」


河豚澤の雄たけびが、スタジオを貫く!
「…よし!」
「勝ち抜けたぜーーーー!」
満足そうにうなずく胡蝶鬼、飛び上がって喜ぶ自雷鬼。
準々決勝進出を勝ち取り浮かれる奴らに、電話の向こうでグラー博士が戸惑っている。
『?!な、何じゃ?!一体何なんじゃ、鉄甲鬼?!』
「いいえ何でもありません!ありがとうございました、グラー博士!」
『…お、おお…』
「それじゃ、失礼いたしまッす!」
そんなグラーに明るく礼を言い、受話器を置く―
ああ、やっぱりあいつらは…はじめから、勝ち抜くつもりだったんだ。
クイズを勝ち抜き喜び狂うあの有様からは、そうとしか感じられない。
俺は、改めてそれを確信していた。
「おめでとう、準々決勝進出だ!」
「やったーーーーーー!」
「…しかし、さっきの『テッコウキ』というのは?君のあだなかい?」
「あー、そんなもんです!」
河豚澤の質問も軽くかわし、笑顔で答える鉄甲鬼。
会場からの拍手を浴びながら、意気揚々と自分たちのブースに帰っていく―
「…」
「ほら見ろ、リョウ!あいつら勝ちぬけやがったぜ!」
「俺たちも準々決勝に行かないと、あいつらが何かしでかした時に止められないぞ!」
俺たち…長野県代表・浅間学園チームの番も近い。
俺とベンケイは、そんなことを言ってリーダーにハッパをかけ、元気付けた。
「…」
「がんばれ、リーダー!」
「期待してるぜ、リーダー!」
「…畜生」
…が、我らがリーダーはすっかりひねくれ、うつむいてそうつぶやくのみだった。


「さあ、次は!…長野県代表・私立浅間学園!」
「呼ばれたぞ!」
「行こうぜ、リーダー!」
「…」
そして。
とうとう、俺たちの番がやってくる。
俺たちに促され、本当に…不承不承、といった感じで、リョウも立ち上がる。
顔つきが異様にこわばっている、相当不安なんだろう…
しかし、仕方ない。がんばってもらおう。
「では、浅間学園チーム…誰がかける?」
「…僕が」
ステージ中央に下りると、問題カードを取り出しながら河豚澤が話しかけてきた。
リョウがうなずき、カードを受け取る。
「おお、リーダーの流君がかけるんだね?」
「はい…九州の、実家にかけます…」
受け答えする奴の顔には、心配してしまうほど覇気がない。
というより、青い。
こんなに暑いスポットライトの光と熱を浴びているにもかかわらず、緊張のあまり冷や汗をかいているらしい。
カメラに撮影されているからじゃなく…親父さんに電話でクイズをやってもらうなんていう、馬鹿げたことを仕掛けるのが怖くて。
おいおい、曲がりなりにもテレビ放映されるんだから、そんな仏頂面はよせよ…と言いたくなったが、あまりにかわいそうなのでやめておいた。
カードを受け取ったリョウは、二、三秒戸惑ったものの…意を決したか、受話器を取り上げた。
そして、実家の電話番号をプッシュする。
そのまま受話器を耳に当て、応答を待つ―
無機質な電子音だけが、スピーカーを通じて静まり返ったスタジオに響く。
俺とベンケイは、その様子をそばで見守っている…
「…」
『…はい』
「!」
その電子音が、断ち切れた。
かわりに響いたのは、低い男の声―
それを聞いた途端、リョウに更なる緊張が走る。
親父さんの声を聞いた途端、リョウは直立不動の体勢になった。
もう、おそらく反射なんだろう。
―これは、相当だな。
俺は、リョウがちょっとかわいそうになってきた。
『もしもし?どなたかな?』
「あ…ッ、お父さん、僕です」
『竜馬!珍しいな、どうかしたか?』
「いや、あの、用っていうか、その…」
『何だ、用もないのにかけてきたのか?』
「ち、違います!その、あの、」
『何なんだ!はっきり言わないか!』
「…!」
ああ、もう何だか雲行きが怪しくなってきた。
親父さんの声が、一向に要領を得ないリョウの受け答えに、軽い怒りを含んできている…
これは、相当だよな。
俺は、こころの中でリョウに手を合わせた。
―が。
「も…」
とうとう、思い切ったのか…
いや違う、「キレた」んだろうな。
リョウが、「キレた」。
かっ、と目を見開き、怒鳴りつけるような大声で言い放った。
「…も、『問題です』」
『何?何だと?!』
「『問題です』ッ!」
『?!』

負けじとばかりに響く、親父さんの大声。
さらにそれに覆いかぶせるように、リョウが大声でカードを読む。
やけくそみたいに。
…あーあ。
やっちゃった…
俺とベンケイは、どちらからともなくため息をついていた。
「『西郷隆盛が、「子孫のためには買わない」といったものは?』」
『何の話だ竜馬、お前…』
「お父さん、また今度説明しますから、今はこれに答えてください!」
『な…』
「『問題です!西郷隆盛が、「子孫のためには買わない」といったものは』何ですか!」
『…』

勢いのまま、問題文を怒号みたいな声で読み上げたリョウ―
電話の向こうの親父さんが、状況をつかめず言葉を失った。
そして。
居心地の悪い、無言の間。
「…」
『…』
「…」
『…』
否応なく高まる、スタジオ内の緊迫感。
受話器を持ったまま動かないリョウの背中を、俺たちはなすすべもなく見守る…
―そして。


『…「美田」だろう』
「!」
「ファイヤアアアアアアアアアアアアッッ!!」



河豚澤が―叫ぶ!
そして、俺たちも!
「オッケー!やったぜリョウ!やったぜ親父さん!」
「よしよし、いい感じじゃねえか!」
「…」
…が。
当のリョウは、立ち尽くしたまま、微妙な表情のまま、その勝利宣告を聞いていた。
受話器からは、問い詰める親父さんの声。
『一体どうしたんだ竜馬、それが…』
「お父さんありがとうございました、ま、…また今度説明しますから」
『…おい、竜馬?!』
「ごめんなさい今はちょっと急ぐんです!それじゃまた、それまでお元気でッ!」
親父さんの言葉もろくに聴かず、早口にそういい切るなり…電話を切りやがった。
…顔がさっきより、青くなっている。
もうきっと、この大会の後のことなんて考えたくないに違いない。
「…」
「準々決勝に見事勝ち抜けだ!おめでとう!」
「…ありがとうございます」
そんなリョウに、健闘を称える河豚澤が声をかける。
受け答えするも、「やっちゃった」ことに対する後悔と恐怖に沈むリョウの反応は鈍い。
「どうした流君〜、顔色悪いぞ?」
「…はあ」
「ははあ、さてはさっきの電話相手のお父さんが怖いとか?確かに威厳ありそうな声だったからね〜!」
「…」
そんなからかいめいたことを言って強烈に笑う河豚澤。
リョウは無言のまま、弱々しく笑っていた…
…悪いな、リョウ。
でもそのおかげで、奴らに追いつくことが出来た。
さすが俺たちゲッターチームの「リーダー」様だぜ!




マイオンスペシャル・第16回全国高等学校クイズ選手権
全国大会・第二回戦→準々決勝 43チーム→16チーム

=====準々決勝進出!!( )内はチームリーダー名=====

秋田県立明田高校(佐賀) 岩手県立森岡第一高校(千野)
石川県国立沢金大学教育学部付属高校(大田)
栃木県立鉄橋高校(松木) 神奈川県私立百鬼帝国青龍学園(霧伊)
長野県私立浅間学園(流) 三重県立伊勢島高校(伊豆)
滋賀県立石達山高校(川村) 大阪府立小手前高校(川吉)
和歌山県私立近々大学付属河山高校(辻北)
広島県立十五日市高校(上田)
山口県立狩日高校(森藤) 岡山県立岡山東城高校(松本)
愛媛県立東条高校(田富士) 佐賀県立佐賀西南高校(村下)
鹿児島県私立マ・メール高校(村松)