Now you are in the Website Frau Yudouhu's "Gag and I."
TOPそれはそれはもうごたまぜな小説のお部屋>Who Wants to Be a Millionaire?(富を掴むのは誰の手か?)(2)


Who Wants to Be a Millionaire?(富を掴むのは誰の手か?)(2)


じゃああああーーーーん、じゃああああーーーーん。
けたたましいベル音を叩き鳴らす黒電話。
「…はいはい、っと!」
その音を聞きつけた青年が、急いで受話器を手に取ろうとする。
「はい、兜です!」
がちゃっ、と受話器を取り上げ応答した途端、受話口からいつもの馬鹿でかい大声が流れ出てきて彼をげんなりさせる。
『かかかか、か〜ぶとぉぉ〜〜!!』
「…なんだ、ボスか!こんなメシ時に何の用だ?」
受話器を幾分遠ざけるように持ちながら(そうしないと、ボスの大声で鼓膜が破れそうだ)、兜甲児は呆れ口調で悪態じみた返事を返す。
何事かあったのか、ボスの動揺っぷりは電話越しにでもはっきりわかる。
『たた、大変なんだわよ!』
「だぁから、何がだよ?!」
『テレビ!テレビつけろ!テレビ!』
「テレビ…?」
聞き返すも、ボスはテレビテレビ、と連呼するばかりでちっとも要領を得ない。
仕方なく、甲児は居間にいる弟・シローに呼びかけた。
「おーい、シロー!ちょっとテレビつけてくれないか?!」
「あっ、うん…わかった!」
シローの声が、山彦のように返ってくる。
そこで改めて、ボスに内容を問いかけようとする甲児…
「それで?ボス、一体何が…」
その時だった。




「あああああああああーーーーーーーーーーーーーッッ!!」
「…?!」
居間から響き渡った甲高い声は、まちがいなくシローの叫び声!
受話器を握りしめる甲児の表情が、驚きと緊張で瞬時にぎゅっ、と強張った—




「世界征服」の夢をかなえるため、機械獣を造る資金を狙うドクター・ヘルさん!
第5問までを軽くクリアし、見事10万円に到達!
ライフラインを全て残したままで次に望むのは、15万円への問題!
このまま快調に行くと思われたのだが…?!





「それでは、参ります」
「…!」
舞台は、再びセンターシート。
1000万を目指すドクター・ヘルの道程は、ようやく1/3を迎える…
司会・ものみんたが、静かな低い声で新たな問題を読み上げる。
「次のうち、『普通自動車』の運転免許証に記載されていないものはどれ?
A:氏名 B:住所 C:電話番号 D:生年月日」
その問題を聞き終えた途端だった。
今まで自信満々で解答を続けてきたドクター・ヘル…
その表情に、初めて焦りの影が射す。
「ぬ…!」
思わず喉を鳴らしたのは、果たして動揺の声なのか。
それを耳ざとく聞きつけたものが、やはり静かに揺さぶりをかけにくる。
「おや?どうしましたか、ヘルさん。初めて表情が変わりましたね」
「ぬ、ぬうう…」
もう一回息をつくと、さらにその動揺の色がはっきりと彼の顔に見える。
カメラが舐め上げるようにして映し出す彼の表情は、確かに硬くなっている…
「…わ、ワシは…」
かすれ声が、彼の口から漏れる。
「…め、『めんきょ』とやらをとった事がないんじゃ…!」
「ほほう、そうですか…じゃ、日本の免許証もご覧になった事がない?」
「う、うむ…」
何と、意外。
意外なことに、世界征服をたくらむ悪の大科学者、ドクター・ヘルは…今まで、運転免許証をとった事がないと言うのだ!
そりゃあ大科学者だからして、車の運転など見ればすぐに理解するだろうから、必要なかったのかもしれないが…
こんな考えもつかないところでその知識が問われるとは、人生はわからないものである。
「うーむ、快進撃もここまでですか…案外早かったですねえ」
「…」
「さあ、どうなさいますか?己のカンを信じるか、それとも…」
「それとも…」の後に省略された言葉は、明らかだ。
世界征服を志すような大志ある者が、こんな6問目などで砕けてはいけない。
自分が出来ないことならば—
「て…」
—他人を、使えばいい。
「テレフォン、を使わせてくれ!」
「…はい、テレフォンですね?」
にやり、と、ものみんたが笑んだ。
「それでは、テレフォン・ブレーンの皆様につなぎましょう」
そう言うと、ドクター・ヘルの眼前にあるモニター画面が切り替わる…
同時に、視聴者にも理解できるように、そのモニター画面に送られてくる画像が表示された。
「…!」
「あっ、ヘル様ー!」
「ヘル様ー!」
と、そこには先ほどのご陽気な面々(と、薄暗いひとり)。
スタジオに中継がつながった事を知った彼らは、またもや口々にヘルの名を呼び、手を振っている(しつこいが、薄暗いひとり以外)。
「さあ、テレフォン・ブレーンの皆様、出番ですよ〜!」
「今何万円までいきましたか?!」
「え〜と、今ね〜…」
お決まりのテレフォン・ブレーンの質問…鉄十字兵の問いに、ものはまたもやにやり、と含み笑いをして…
「ドクター・ヘルさん、15万円です」
『え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッ?!』
それを聞いた鉄十字兵と鉄仮面兵たちは、同時に不満めいた声をあげた。
「いくらなんでも早すぎですよ、ドクター・ヘル!」
「もうちょっと自力でがんばれなかったんすか?!」
「う、う、う、うるさい!わからなかったんだから、仕方なかろうに!」
「ショボッ!ヘル様、ショボッ!」
「ややや、やかましいッ!」
口々にぶーぶー己の主君のふがいなさをあげつらう鉄仮面兵たちに、ドクター・ヘルが真っ赤な顔をして言い返す。
いくらなんでも、こんなに早く力尽きる事はないだろう、と…
そのぎゃんぎゃんやかましいやりとり、そしてその隣でブロッケン伯爵がため息をついている様子が、全国のお茶の間に放映された。
「えー、よろしいですか?皆さん」
…が、ものの声に、彼らははっと振り返る。
いよいよ、出番だ。
「では、今から30秒間で、ヘルさんはテレフォン・ブレーンの皆様に問題の答えを聞くことができます」
30秒間。
非常に短いこの時間で、問題を伝えなくてはいけない…
テレフォン・ブレーンは問題を文字で見ることは出来ず、電話で聞く事しか出来ない。
そのために、問題・答えを伝え終わっている時には10秒は軽く過ぎてしまう。
「制限時間は、30秒です」
そこから調べるにしても、答えを教えるところまでたどり着けるか—
きわどい。
非常にきわどい勝負なのだ。
重い緊張が、スタジオを埋め尽くす。
そして—
「…では、どうぞ」
運命の30秒が、解き放たれる。
鳴り響き始める、時を刻む秒針の効果音。
かっ、こっ、
「…いいか、よく聞け!…次のうち、『普通自動車』の運転免許証に記載されていないものはどれ?」
かっ、こっ。
「えっ?何だって?」
「免許?」
かっ、こっ、
「A:氏名 B:住所 C:電話番号 D:生年月日!…さあ、どれだ?!」
かっ、こっ。
「めんきょ?」
「免許ねえ…日本のなんて知らねえよ」
かっ、こっ、
「A:氏名、B:住所、C:電話番号、D:生年月日…無いのって、どれだっけ?」
かっ、こっ。
「お、おい!何とか調べるなりしろ!後15秒しかないんだぞ?!」
「うーん…」
「見たことある気はするんですけどぉ」
かっ、こっ、
鉄仮面たちも鉄十字も、まったく答えが考え付かないようだ。
だがこれからネットを使って調べるにしても答えまでたどり着けるのか嗚呼—
ドクター・ヘルの額を冷や汗が流れ落ちる、
もはやこれまでか、と彼があきらめかけた、その瞬間だった。
「…Cだ」
「えっ?」
かっ、こっ。
「Cの、『電話番号』だ」
秒針の音を割って、面倒くさそうに…今まで黙りこくっていたデュラハンが、もう一度吐き出した。
「ぶ、ブロッケン様!」
「一度以前に見たことがあるが、電話番号の欄はなかったように思う」
「ほほほ本当かブロッケン!」
「…おそらく」
そう言って問い返すドクター・ヘルに、ブロッケンは穏やかにうなずいた。
「よ、よし!信じる!」
光明を得たドクター・ヘルの表情が、ぱあっ、と明るくなる—
かっ、こっ。
後、3秒。
その残った3秒の合間、彼が告げた言葉はブロッケン伯爵に届いたのか…
きっと、届いたのだろう。
「わしは貴様を信じるぞ!」
「…」
だから、最後…30秒の時が告げられ、回線が断ち切られるその最後、かすかにデュラハンが微笑んだ画像が映し出された。
そして、再びセンターシート。
「…さあ、どうやら一応お答えは得られたようですが?」
「うむ!…Cの、『電話番号』だ!」
ものみんたの呼びかけに、自信を持ってヘルは答えた。
「ファイナル・アンサー?」
「…ファイナル・アンサーッ!」
当然、それは最後の答え。
キーフレーズ「ファイナル・アンサー」が、高らかにスタジオに響き渡る—
何処かより、地面を揺るがす音が聞こえてきた。
「…」
「…」
向かい合う二人。
視線すら外さずに。
「……」
「……」
鳴り渡るドラムロール。
早鐘のごとく鳴り渡る、まるでそれは心臓の鼓動のように。
「………」
「………〜〜ッッ!!」
ものみんたは無表情のままドクター・ヘルを見据え、
ドクター・ヘルはその視線を真っ向から受け止め—
鳴る鳴る鳴り続けるドラムロール、そして—!
「………………………正解ッ!」
「…!!」
ものみんたが、破顔一笑する!
それを見たドクター・ヘルの表情にも、ようやく安堵が拡がった…!
「…いやあ、よかったですね〜」
「う、うむ…寿命が縮まった」
「テレフォンだと、なかなか正解までたどり着かないことが多いんですがね〜」
「部下に感謝ですわい」
「そうですか〜」
にこやかに談笑する二人。
その下に、視聴者向けの「STUDY!」と書かれたテロップが入れられ、日本の免許証が解説入りで表示された。
だが、これとてまだ6問目。
油断など…できるはずもない。
「では、7問目です」
「うむ!」
「大相撲本場所で毎年3月に行われる場所はどこ?
A:大阪場所 B:九州場所 C:名古屋場所 D:両国場所」
「これは簡単じゃな。Aの『大阪場所』じゃ」
「あらま、早かったですね〜。ファイナル・アンサー?」
「ファイナル・アンサー!」
「…正解ッ!」
だが…これまた意外。
外国人のヘルには厳しいだろう日本の国技・相撲の問題を、彼はあっさり解いてみせた。
驚き顔のものが、感服した様子で問いかける。
「いや、本当に早かったですね。お詳しいんですか、相撲?」
「うむ、毎場所欠かさずに見ておる」
「そうなんですか?応援席の部下の方」
と、あしゅらに話題を振るもの。
映し出されたあしゅらは、うれしそうに笑みながらこう答えた。
「はい、もうヘル様は非常な相撲ファンでして…」
「ほうほう」
「ええ、この間お気に入りの琴欧洲(ことおうしゅう)があまり良くない成績だった時の荒れようはもう…」
「あら、それは大変!」
「…」
あしゅらの言葉に、どっ、とスタジオが沸く。
当のドクター・ヘルも、少し照れたような顔でうつむいている。
現在午後八時十四分。ある意味でものすごいお宝映像が、お茶の間に放映され続けていた。
「それでは、第8問!」
さらに、ものはネクスト・ステージへとヘルをいざなう。
「次のうち、古代ギリシアの哲学者ソクラテスの弟子は誰?
A:ピタゴラス B:プラトン C:アリストテレス D:ホメロス」
「B!」
しかし、これはヘルにとっては楽勝の問題。
あっさりと、解答までたどり着く。
「ファイナル・アンサー?」
「ファイナル・アンサーッ!」
「…その通りッ!」
ものが宣言した途端、ファンファーレがスタジオを埋め尽くした—!
「…50万円到達です!」
「…!」
一つの大きい山までたどり着いたドクター・ヘル。
しかし、まだまだその表情からは闘志が消えてはいない!
「もちろん、まだまだ続けますよね?!」
「当たり前じゃ!まだまだいくぞ!」
「それでは参ります…第9問目!」




ドクターヘルさんの挑戦は、まだまだ続くッ!