Now you are in the Website Frau Yudouhu's "Gag and I."
TOPそれはそれはもうごたまぜな小説のお部屋冷たい悔恨


冷たい悔恨


早乙女博士は、見つめている。
真っ直ぐに、見つめている。
窓にはめ込まれたガラスの向こう、浅間山の山頂を見ている―


深夜。
早乙女研究所・司令室。
もう、その場所には誰もいない―早乙女博士以外。
彼が見つめているのは、浅間山の山頂。
数時間前に、彼の「娘」がそのいのちを散らした場所。


数日前。
五年前、行方知れずとなっていた娘・ミユキが、姿を消した時と同じく突然にあらわれた。
あまりに唐突だったので、うれしさを感じるより先に唖然としてしまったほどだ…
雪がしんしんと降りそそぐあの夜、別荘で休暇を過ごしていた私たち家族の前に現れた、身寄りのない女の子。
親を捜索したが見つからず、彼女は私たちの養子となることになった―
私の子どもたち、達人やミチル、元気ともすぐ仲良くなった。
そのうち、私にとって、血のつながりのあるなしなどすらどうでもよくなっていった…
こんなかわいらしい子供たちが、自分たちには四人もいる。
なんて素晴らしいことだろう、と。
そして、穏やかな目をしたその愛らしい子に、私は「ミユキ」と名前をつけた。
美しい雪の降る夜に、出会った女の子―「美雪」、と。


だが。
私たちが名を与えるまでもなく、彼女は名前を持っていたのだ。
恐竜王女ゴーラ。
それが、あの子の本当の名前だった。
あの子は、恐竜帝国から送り込まれたスパイだったのだ…
何のために?
知れている。
私の研究、ゲッター線研究のためだ―


五年前姿を消したミユキは、ゲッターロボの原型として設計したゲッタークイーンの設計図を持ち出していた。
…そして、今日。
彼女はそのゲッタークイーンに乗り、私たちの前に姿を再びあらわした。
どす黒い、皆既日食の空を背景に。
彼女は言った。私に、言ったのだ。
あのやさしい、おとなしい、兄弟思いのミユキの声で言ったのだ。


「―ミユキは死んだわ!…それもたった今、皆既日食と同時にね!」


そして、ゲッターロボと戦い、死んでいった。
最後には、もう一体あらわれたメカザウルスの凶刃から、ゲッターをかばって。
―彼女の絶叫が、私の心臓を貫いた。
そして、彼女は言った。私に、言ったのだ。
あのやさしい、おとなしい、兄弟思いのミユキの声で言ったのだ。


「早乙女のお父様、お父様を裏切ったミユキを許して…」


彼女の、最期の言葉。
私の「娘」の、最期の言葉。
その身体に冷たい血の流れる、「ハ虫人」の、「娘」の、
遺言ですらない、悔恨に満ちた―!


「…さよなら、『お父様』―!」


妻は、電話口で泣いていた。
五年ぶりに帰ってきたはずの彼女が、敵の姦計にかかり命を落とした。
それだけ、言った。
和子は、電話口で泣いていた。
ショックで震える泣き声以外、受話器から伝わってくるものは何もなかった
だが、彼女のことを詳細に伝えることなど出来なかった―
誰が伝えられる?「娘」を亡くして絶望している「母親」に、
あなたの「娘」は「ハ虫人」でしたよ、と!!


そして、
私は、思った。
これは、私の罪なのだ、と。


あの時も、思った。
達人が、試作型ゲッターロボの1号機に乗った達人が、目の前で…メカザウルスに破壊された時も。
そのメカザウルスを送り込んできた帝王ゴールに、「ゲッター線研究を即刻止めよ」と告げられた時も。


もし、私が―
もし私が、ゲッター線の研究などしていなければ、
ゲッター線などにかかわっていなければ、こんなことにはならなかったのか?!


その答えは、すでに明白だ。
純然たる"YES"だ。


嗚呼。
とどのつまり、結局は…私から、はじまっていたのだ。
他ならぬ、この私から。


そのことがわかっていながら、私は研究を放棄しなかった…
するわけにはいかなかった。
それは人類の未来を託す夢であり、
研究所員たちの夢であり、
達人の夢であり、
そして何より、私自身が己の半生を賭けてきた夢だった。


だがその夢は、ひとのいのちよりも大切だったのか―?


―私が、彼らを罵れようか。
あたたかい血の流れぬ、冷血であると。
私は、彼らを罵ることはできない。
息子を失い、娘を失い、
そしてもう一人の息子を幾度もなく死の危険にさらし、もう一人の娘を戦場に送り出し、
その上に、前途ある三人の若者をも同じく血みどろの戦いへと放り出し―
それが、冷血でなくて何だろうか?


そう、だから。
冷血な私の抱えるその悔恨も、冷え冷えとしていて凍えるようだ。
凍えるような冷たい悔恨を背に縛り付け、私は往かねばならない。
贖罪。そうかもしれない。
独善。そうかもしれない。
どちらとも言えない。そのくせに、この道を外れることをためらう。


このまま、私は進み続けるしかない。
達人とミユキの魂を背負ったまま。
達人とミユキの面影を背負ったまま。






冷たい悔恨を背負ったまま。







早乙女博士について…少しばかり、思うこと

早乙女博士は…原作版だと、竜馬をさらう(!)ために殺し屋を派遣した挙句に動物用の麻酔注射打たせるとか、トカゲに取り付かれた息子(達人)を火炎放射器で焼いちゃうようなすげえ人なんですが、基本的に不肖・ゆどうふが扱っているのは70'TV版なので、こっちの博士はそんなことありません(笑)
トレードマークはヒゲと下駄、時折「ズボンをはき忘れる」こともあるらしい(笑)お方です(リョウ「博士…また、忘れましたね?」)。

ですが、TV版の博士も…敵との戦いで、「家族」との悲劇的な離別を余儀なくされた一人です。
彼と妻・和子さんの間には、全部で四人の子どもがいます。
長男・達人。長女・ミユキ。次女・ミチル。そして次男の元気です。
しかし、彼らの子どものうち、二人は恐竜帝国との戦いの中でいのちを落としました。
それも、たった一つの理由で…
つまりは彼がゲッター線の研究をしていた、それだけの理由で。

長男である達人(たつひと)は、もともと父親のゲッター線研究を手伝っていました。
その一方で、浅間学園サッカー部のコーチをしており、そのつながりから後のゲッターチームメンバー・リョウ(流竜馬)が研究所に出入りするようになったようです。
ですが、その死はあまりに突然でした。
プロトタイプのゲッターロボに乗り込み、合体訓練を行っていたまさにその時(予断ですが、つまり初代のゲッターチームは彼ら達人たちであり、リョウたちは二代目と言うことになります)。
突如あらわれた奇妙な機械化された恐竜…メカザウルスに襲われ、プロトタイプゲッターは爆発四散したのです。
搭乗していた達人たちごと…
息子が殺害される現場をモニター越しに見ていた早乙女博士の胸中は如何ばかりか。
しかも、その上に―研究所に間断なく入ってきた通信、恐竜帝国帝王ゴールからの通信が、彼をさらに打ちのめします。
ゲッター計画を止めよ、と…

ですが、この時。
すでに、「本当のゲッターロボ」は別に完成していたのです。
すなわち…攻撃能力を持たせたゲッターロボ。
そのゲッターロボを駆るのがリョウ・ハヤト・ムサシなのですが…
これを建造した時点で、早乙女博士はある程度の予想していたことになります。
宇宙に飛び出すゲッター計画…だが、それを妨害する試みが、攻撃を加えてくる勢力があるかもしれない、と。
それがまさか地底の底の「ハ虫人」だとは思わなかったでしょうが…

そして、長女・ミユキですが、彼女は早乙女博士の血のつながった子ではありません。
大雪の降る夜、その雪の降りしきる中、何処からか博士たちの前に現れたひとりぼっちの女の子。
その子の親を捜索しても見つからず、博士夫妻が養子にしたのです。
彼女の正体は、恐竜王女ゴーラ。帝王ゴールの、実の娘。
彼の命で、早乙女研究所に潜入するために送り込まれたスパイだったのです(これは上記の設定を根底からひっくり返すので、個人的には頭を抱えてしまいますが^−^;)。
彼女は五年前、ゲッターロボの設計のもととなった「ゲッターQ(クイーン)」の設計図を奪い、姿を消してしまいます。
ですが、博士たちの下で「娘」として暮らした日々が、ミユキに罪悪感を生じさせないはずもなく…
ゲッターQに乗り、人の皮をはぎ捨てゴーラとなった彼女は、こう言い放ちます。
ゴーラ(ミユキ)「ミユキは死んだわ!それもたった今、皆既日食と同時にね!」
はじめから生きのびる気もなく、ゲッター1の猛攻を立ち尽くし受けるだけのゲッターQ。
そしてその最後には、救援のために送り込まれたメカザウルス・ギンからゲッター1をかばい、マグマの中に消えていくのです。
涙を流しながら、彼女はこうつぶやく…
ゴーラ(ミユキ)「ゴールお父様、お父様を裏切ったゴーラを許して…
早乙女のお父様、お父様を裏切ったミユキを許して…」

そしてようやく、早乙女博士もそのことを悟るのです…
早乙女博士「ミユキ…?!」
ゴーラ(ミユキ)「さよなら、お父様…!」
その言葉を残し、ゲッターQはメカザウルス・ギンを巻き添えに谷へと落ちていった…!
ゴール「ゴーラァアァアァ!!」
早乙女博士「ミユキィイイィィ!」
ミユキ。おそらく漢字で書くならば、「美雪」。
美しい雪の降る夜にあらわれた女の子は、どうしようもないアンビバレンツを抱えたまま、早乙女博士の目の前で散ったのです―


達人とミユキ。二人も子どもを失った早乙女博士の胸中は、察するに余りあります。
結局は、彼のライフワーク…ゲッター計画に絡んでの死。
彼がゲッター線研究を捨てられないのは、もはや必然なのかもしれません。