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◆ お仕事、お仕事っ!
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(ナバロン砲、ゲッターナバロン砲…)
自室のベッドの上に身体を丸めて座り込んだエルレーン。
先ほどの出撃から帰還し、それからずっと自室で待機していた
(もちろんガレリイ長官やバット将軍に、メカザウルス・ラルを持ち出して無断出撃をしたことについて叱責を受けた…
とはいえ、キャプテン・ルーガもとりなしてくれたし、何よりテキサスマックという予想外の敵が出現したため、
結果的にはその行動が彼女を守ったことになるので、とがめはそれ以上受けなかったが…)。
キャプテン・ルーガはゲッターナバロン砲対策を練る緊急会議に出席している。
…そこまで深刻に受け止めざるを得ないほどすごい兵器なのだ、あの「ナバロン砲」という武器は…
(…あのナバロン砲は…メカザウルス・ライアを撃った…ルーガを、撃った…!!)
エルレーンの表情が険しくなる。
下手をすれば、メカザウルス・ライアの両腕だけではなく、その本体すらやられていたかもしれない…
(…壊さ、なきゃ…ルーガを撃った、あの武器を、壊さなきゃ…!)
ばっと彼女はベッドから飛び降り、その下に大事にしまっておいた服を取り出した…
以前、「人間」の街で買ってもらった、リョウと同じ服を。

「ゲッターナバロン砲だと?!あの恐ろしい砲台が再び?!」
「メカザウルス・ライアの両腕を一撃で溶解させるとは…」
「あの武器は捨て置けん。ただちに破壊しなくては!」
キャプテン・ルーガの報告により、早乙女研究所に恐るべき兵器・ゲッターナバロン砲が再び生まれたことを知らされた恐竜帝国のキャプテンたちは緊急会議を開いていた。
メカザウルスの中でも強固な外皮を誇るメカザウルス・ライアの装甲すら飴細工のように溶かし、焼ききってしまったゲッターナバロン砲。
このままでは、いかなるメカザウルスであれ、ゲッターロボと戦う前にあの砲台によって破壊されてしまう!
「…だ、だが、どうやって?」
「また数人キャプテンを犠牲にするわけにも…」
「だからといって、研究所ごとメカザウルスで攻撃しようにも、その前にナバロン砲でやられるだろうよ」
「ああ。…しかも、先ほどの戦闘時、発射角度からして…研究所から打たれたものではないようだ。
あの広い山の中、どこかに隠してあるのかもしれん」
「…」
そして黙りこくるキャプテンたち。
会議はそこで堂々めぐりを繰り返すばかりだ。
研究所を破壊するためには、ナバロン砲を破壊せねばならない。
だがゲッター線の塊のようなナバロン砲を誰が解体できるというのだろう。
そんなことをすれば、解体しきる前にゲッター線障害でその兵士が死んでしまう…前回、数名のキャプテンがそのために無残に殉死したのだ…
だが、研究所ごと破壊しようと思えば、ナバロン砲で焼き尽くされる…
「…ええい!いつまでたってもそこで終わってしまうではないか!」
上座に鎮座した帝王ゴールがイライラした様子で怒鳴りつけた。
「ですが、現実問題として…」
バット将軍が意見を言いかけたとき、唐突に壁にある通信機がブザーを鳴らす。
「…エエイ、なんだ?!」
バット将軍が通信モニターのスイッチを入れると、そこに映ったのは…
「え、エルレーン?!」
キャプテン・ルーガが思わず椅子から立ち上がる。
「ルーガ!私、ちょっと出かけてくる!…2、3日帰らないから!」
「は、はぁ?!」
「…ゲッターナバロン砲を、壊しにいくの!」
「?!」
会議場にいる全員が驚きのあまりモニターをあっけに取られた表情で見つめた。
「へ、兵器風情が…?!」
「フン、増長しやがって、サルどもの仲間のくせに…」
キャプテンたちの間に動揺と嘲りの色が浮かぶ。
「お、お前、ナバロン砲を壊しに行くだと?!」
バット将軍が戸惑い気味に怒鳴る。
「そう!…ゲッター線を使ったナバロン砲にハ虫人は触れない、そうよねバット将軍!」
「あ…ああ」
「だったら、『人間』の身体の、私だったらやれる!」
「ま、まてNo.39!お前一人で勝手に…」
「一人のほうが都合がいいのっ。…このカオが役に立つんだから」
そういって自分の顔を人差し指でぴっと指し、モニター越しにウインクするエルレーン。
バット将軍はキャプテン・ルーガの上官に当たるので、彼女にとっても上官なのだが、
その態度はとてもそんなことを認識しているようには思えないほど「おちゃめ」なものだった。
「リョウと同じカオの私なら、早乙女研究所にも簡単に入れる…きっとすぐ見つかるわ!」
「し、しかし…きゃ、キャプテン・ルーガ!…な、なんとかいってやってくれ!」
もはや自分には手におえないと思ったのか、バット将軍はキャプテン・ルーガに下駄を預ける。
「…エルレーン、定時連絡だけはきちんとするように」
「きゃ、キャプテン・ルーガ?!」
だがバット将軍の意図とは裏腹に、キャプテン・ルーガもエルレーンに出撃許可を与えてしまった。いともあっさりと。
「はーい☆」
笑顔で答えるエルレーン。
「…我々ハ虫人が出撃するより、遥かに事は容易に進むでしょう」
「…よかろう、やらせてみるがいい」
帝王ゴールも、しばらくその成り行きをじっと見ていたが、とうとう最後に自らも許可を出した。
「…」
帝王ゴールにまでそういわれては、もはや何もいえないバット将軍。
腑に落ちないといった顔で黙り込んでしまった。
「はーい!…それじゃ、出撃します!」と同時に彼女の乗った恐竜ジェット機は加速上昇を始め、モニターの通信が切られた。
「…ふん、どうせ失敗するに決まっているさ」
「そうだな。所詮は『人間』よ…」
それぞれのキャプテンが勝手なことを言い合っている中で、キャプテン・ルーガだけはエルレーンの成功を信じていた。
『エルレーン。お前なら…上手くやれるはずだ。…がんばれ…』

それはよく晴れた昼下がりだった。ゲッターチームの面々は、いつものように司令室に集まっていた。
「博士、俺はちょっと倉庫に行ってきます」
リョウがそう博士に告げる。
「倉庫に?何か用があるのかね」
「ええ。整備用パーツを取りに行きたいんです。イーグル号のエンジンを調整しておきたいんです」
「…そうだな。今のうちにやっておいたほうがいいだろう」
「ええ。…ほら、行くぞムサシ」
「おお!……って、何でオイラまで〜?」
「文句いうな。力仕事といったら、お前だろ?」
悪びれない様子でリョウが笑って言う。
「ちぇ〜。まあいいけどさー」
「頼んだよ、ムサシ君、リョウ君」
「はい」小さくうなずきを返して、二人は司令室を出て行った。
「…あら、ハヤト君は行かないの?」
「…ムサシがいれば、十分だぜ」
「…まあ、そうね」
ちょっと考えてミチルが言う。
その時、何か忘れ物でもしたのか、リョウが司令室前の廊下を通り過ぎた。
手には、いつのまにかバインダーのようなものを持っている。
「あら?どうしたのリョウ君?忘れ物?」
ミチルの声に無言で笑って手を振るリョウ。そのまま彼は廊下を歩いて去っていく。
「……?」
ふと、その後姿を見送っていたハヤトの表情に曇りが浮かぶ。
「…どうしたんだね、ハヤト君?」
「…いや…気のせいです」
「…?まあいい。ミチル。コマンドマシンの整備のほうは?」
「とっくに済ませてますわ、お父様」
「ほう、それはいい。それでは…」
その時、司令室にリョウとムサシが現れた。
「…博士、倉庫のカギを貸していただくのを忘れてました」
「あら?さっき忘れ物取りに行ったんじゃなかったの?」
「…忘れ物?…何のことだい、ミチルさん?」
「え?さっきそこを通りがかったじゃない」
「ここに?リョウはオイラとずっと一緒にいたけど」
「…え…じゃあ…さっき…?」
「…!!エルレーン!エルレーンだあいつ!」
さっき感じた違和感の原因に気づいたハヤトが叫ぶ。
「!!…い、いかん!」
早乙女博士が慌てて指令室を駆けだす。その後に続くゲッターチーム。
自分の書斎に入った早乙女博士が見たものは…書類が散乱し、引出しが無造作に開けられている…明らかに、荒らされた形跡!
「な、何ということだ!け、研究所内に入られるとは!」
「い、急いであいつを捕まえるんだ!」
「手分けして探しましょう!」
「俺はこっち!ハヤトはそっちだ!」
「わかった!」
事態のまずさをはっきりと認識したゲッターチームは、それぞれ分かれて研究所内に散らばっていった。

…そのころ、研究所内の一室にいたエルレーンにも、ようやく事態を察知した研究所の面々が忙しく出入りする音が聞こえていた。
『…そろそろ、行かなきゃ、ね』
手にしたバインダーから書類だけをはずし、丸めてズボンのポケットに突っ込む。
そう、彼女は、今日はいつものバトルスーツを着ていない。着ているのは、リョウと同じトレーナーとズボン。
だから、ミチルやハヤトも分からなかったのだ。
「…さあ、行こうっ」
きっと気合をいれると、そこにはあどけなさすら見える女の子ではなく、りりしい表情をした「リョウ」そのものがいた。
ドアを開くと、一人の研究所員が廊下を走ってきた。
「そっちはどうですか!」
エルレーンがまるでリョウのように力強い口調で言った。
「だめだ!見つからん!」
彼は疑うことなくその「リョウ」に返事をし、急いで廊下を走りぬけていく。
…もし、一瞬でも振り返りさえすれば、その「リョウ」が不敵に笑うのが見られたのに…

「はぁ、はぁ…そっちはどうだ?!」
通路ではちあわせたハヤトに、息をはずませたリョウが聞く。
「……」
無言で首をふるハヤト。
「今度は、俺はこっちにいってみる!」
「俺はこっちだ!」
再び二手に分かれてエルレーンを探し出す。
そこにムサシがやってきた。
「おーい、いたかー?!」
「今探してる!ムサシも別のところを探すんだ!」
「わかった!」
ハヤトの返事を聞くや否や、ムサシはすぐに別の通路へと駆けだす。
「あっ!」
その通路の途中で、今度はリョウとはちあわせした。
「…ムサシ!こっちは俺がもう探した!」
「いなかったのか?!そ、それじゃ今度は上にいってみるぜ!」
リョウの返事を聞いたムサシは、すぐそばにある階段をどたどたとかけあがっていった。
…だが、その「リョウ」は、別の通路へ行くわけでもなく、さっき「探した」といった通路を駆けていく。
「リョウ」が、にやっと笑った。

「ミチルさん!そっちは?」
「だめ!見当たらない!」
ムサシたちが一階を探していたころ、リョウとミチルは二階を探していた。
そこに、階段をあがってムサシがやってくる。
「…あ、あれ?り、リョウ、お前いつの間に上にあがってきてたんだ?」
「…はあ?俺はずっと二階を…!!」
「む、ムサシ君のバカッ!そ、それがエルレーンさんなんじゃないのっ?!」
「ええっ?!…ああっ!!」
ようやく悟ったムサシ。
「下だな?!行くぞ!」
三人は慌てて階段を降りていった。

「ハヤト!俺は二階に行くぞ!」
「リョウ」が背中越しに呼びかけるのをハヤトは聞いた。
振り返ると、階段の踊り場から呼びかけている「リョウ」の姿が見える。
「…ああ!わかった!」
「ムサシたちは?!」
「上を探しているはずだ!」
「…わかった!」
それだけ言って「リョウ」は上階へ姿を消した。
それから5分もたたないうちに、先ほど「リョウ」が上っていった階段とは違う階段から、ムサシたちが慌てた様子で降りてきた。
だが、その中には…「リョウ」の姿!
「貴様!エルレーン?!」
瞬時に、リョウの隣にたつムサシとミチルがぎくりとする。
「?!なッ…ち、違う!お、俺はリョウだ!」
「何いってやがる!リョウはさっき上の階にいったはずだ!」
「…だ、だからそいつがエルレーンなんだよ!」
「?!…くッ…でも…」
ハヤトがくちごもる。
「お、お前、り…リョウだよな?!」
ムサシが半信半疑といった風に問いかける。
「あ、当たり前だ!」
「証拠は?!」
「?!」
「あなたがリョウ君だって言うなら、その証拠を見せてよ!」
「み、ミチルさん…」
無理難題を言われて戸惑うリョウ。
「し…証拠…っていわれても…」
「…」
固唾を飲んで見守る三人。いつでも飛びかかれるように、身構えている。
「…!!」
リョウは何かを思いついたようだ。
「…さあ、いってみろよ!」
ハヤトが強い口調で、半ば脅すかのように促す。
「…ムサシはベッドのマットレスの下にエロ本を隠してて、ハヤトは…机と壁の隙間に隠してる!」
「な、何よそれ?!」
「…」
無言の二人。
「…リョウだ。確かに…」
ハヤトはそんな理由で納得した様子だ。
「は、ハヤト君?!」
思わずあきれてしまうミチル。
「で、でも、なんでそれをっ」
なぜか、いたたまれない様子のムサシ。
「このあいだ部屋の掃除してるときに見つけたんだ」
「…くそー、寮帰ったらまた別のところに隠さなきゃ」
「…ハヤト君、ムサシ君、サイテー」
そんな会話を端で聞いていたミチルが一言冷たく言い放った。
「…ら、らちがあかない!もう手分けして探すのはやめだ!みんないっしょに行動しよう!」
「でも、そんな悠長なことやってたら逃げられちゃう!」
4人がもめにもめていた、その時だった。
ガチャァアァァン!
ガラスが砕ける鋭い音が、遥か上方で聞こえた!
「?!」
その音に皆気をとられる。その音を聞きつけ、早乙女博士たちもその場に走ってくる。
砕かれたのは正面玄関の真上、3階のガラス窓…そして、そこから黒い人影がまっすぐに落ちていく!
「!!そ、外だ!」
人影はしなやかに立木に飛びうつり、あっという間に地面に降り立った!
一瞬の間の後、静けさを切り裂く激しいエンジン音が鳴り響く。
木々の間から現れた黒い影は…高速ホバーバイクに乗った、「リョウ」…いや、「エルレーン」!
「エルレーン!」
リョウの怒気を含んだ声。
「やっほー、リョウ!こんにちわ」
リョウと同じ服装はしていても、口調はいまやまったくもとのエルレーンのものだ。
「博士の書斎から何を盗んだ?!」
「…うふふ、ヒミツ…☆」
「…!!」
「…ねえねえ、ミチルさん!」
唐突にエルレーンはミチルに声をかける。
いきなり名前を呼ばれたミチルは目を白黒させている。
「私の服、変じゃ…ない、よね?…だって、『人間』の…リョウと同じ服だもん!」
そういいながら、軽く両手を広げて見せるエルレーン。
「あ、ああ?!」
ちょっと前に自分が言ったことを、この女(ひと)はまともに受け止めたのだ、しかもこんな形で…!
思わずミチルはすっとんきょうな声をあげた…そのセリフの意味がわからないゲッターチームが、いぶかしげな顔で自分を見ているのがわかる。
「それにしても」
いたずらっこのような表情をしたエルレーンが言う。
「自分のところのメインパイロットと敵とがわからないなんて…」
「…むむ…」
早乙女博士は黙りこんだままだ。
「研究所の人たちはともかく、ハヤト君やムサシ君まで私とリョウの区別がつかないとは、ね。
…そんなんで本当に大丈夫なの?ゲッターチームって」
「…!!」
まったく返す言葉もない二人。
「きゃははははは!…それじゃあね!バイバーイ!」
そういい残すとエルレーンはホバーバイクのアクセルを全開にする。
「ま、待て!」
リョウのその声も、激しいエンジン音でかき消された。
バイクの姿は見る見るうちに小さくなり、そして空に溶けていった。
「…まったく…やられたな、完璧に…」
早乙女博士がその後ろ姿を呆然と見つめながらつぶやいた…

「…博士、一体…盗まれたものは…」
リョウがエルレーンに荒らされた書斎を片付けながら、博士に問い掛ける。
「…ゲッターロボの設計書は…他の場所に隠してあったから、無事だったよ…
だが、あるファイルがバインダーごとなくなっていた」
沈痛な面持ちで答える博士。
「そ、それは何の」
「…」
大きくため息をつき、博士が言った。
「…文次君に渡した…ゲッターナバロン砲の資料の…オリジナルだ」
「!!」衝撃が走る。
「な、ナバロン砲ですって?!」
「ゲッター線を利用するため、彼ら恐竜帝国には使えない代物だろう…だが」
「ゲッターナバロン砲が文次のところにあることが…ばれちまった、ってことか…」
「じゃあ、あの文次のやつが狙われちまうじゃねえかよ!」
ムサシが悲痛な声をあげる。
「…おそらく…次に狙われるのは…彼だろう」
「…何とかしなきゃ」
だが、どうすればいいかの考えは、誰からもでてこないままだった。


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