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◆ the last battle(1)
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青空を裂き、雲を裂き、早乙女研究所を目指し飛ぶ、巨大な影…
メカザウルス・ラル。
獰猛な肉食獣をサイボーグ化して造られたそのメカザウルスは、瞳をらんらんと輝かせ、空を切り裂きまっすぐに研究所へと飛んでいく…
その頭部、コックピット兼緊急脱出用ポッドとなっているその場所に…一人の少女がいた。
エルレーン。…恐竜帝国の造り出した「兵器」、流竜馬のクローン、No.39…
彼女の顔には迷いの色はもう見られなかった。エルレーンは前を向き、一路早乙女研究所を目指す…
「…ぐぅっ?!」
突如、びくん、と彼女が全身を貫く発作に身体を震わせる。
苦しさにゆがんだ唇から、真っ赤な血液が吐き出された。…それはコントロールパネルの上にしたたりおち、赤い水たまりをつくる。
彼女は、だが唇をぬぐうとまた気丈に顔を上げ、メカザウルスを操縦する。
「…メカザウルス・ラル…私の、メカザウルス…」
と、その顔にふっと憂いの色が浮かんだ。
そして、自分が今操縦しているメカザウルス…自分の専用機、メカザウルス・ラルに呼びかける。
「…ごめん、ね、ラル…私、あなたまで…巻き添えにしてしまう」
ぽつり、とその言葉がつぶやかれた。
だがその刹那、メカザウルス・ラルは突然大きな唸り声を上げ、身をぐっとそらせた。その振動がコックピットにも伝わる。
「…!」
まるでそれは…「気にするな」といっているようだった。
「…そうか、そうよね…あなたも、『兵器』だもん、ね…私と、同じ」
エルレーンは軽く笑んだ。メカザウルス・ラルになおも彼女は呼びかける…
「戦って死ねるなら、それが一番『兵器』として正しい…んだよね…ねえ、ラル…一緒に、行こう、ね、ルーガのところへ…」
そういいながら、エルレーンはまた視線を前に戻した。
そこには空、どこまでも青い空。
エルレーンは、その空を心から美しいと思った。
…だが、またあのことを…あの、忌まわしい、だがこれから自分が行うであろうたくらみのことを思い起こした途端…またかすかな哀しみが彼女の瞳に浮かんだ。
「…リョウと、一緒に…」

早乙女研究所、司令室。そこにはゲッターチームの面々がすでに待機していた…
ハヤトとムサシがエルレーンから直接襲撃のことを知らされてから、彼らはずっと研究所から離れなかったのだ。
そして、今日。彼女が予告した日…
ハヤト、ムサシ、ミチル、博士。誰の顔も硬い。とうとう来たその瞬間を、彼らはただ待つことしかできない…
そして、リョウ。彼は、その中の誰よりもうつろな目をしている。
目を伏せたまま立ち尽くし、ずっと考え込んだままでいる…いくら考えても答えの出ない問いを。
自分の分身、エルレーンは…今日、この研究所を破壊するため、ゲッターロボを破壊するため、
そして自分たちゲッターチームを殺すため、メカザウルス・ラルに乗ってやってくる。
エルレーンは、一体何を思っているのか。エルレーンが選んだ自分の「答え」とは、何なのか…?
信じたくない可能性…だが、もはやその可能性は否定しきれないほど高い…は、
彼女が自分たちを拒絶し、メカザウルス・ラルで自分たちに戦いを挑む、ということ。
ハヤトとムサシが聞いたように。
それでも、リョウはあきらめたくなかった。
何故、エルレーンを、あのいとおしい少女を、自分たちの手で殺さねばならないのか?!
それだけは絶対に嫌だ。
絶対にあきらめない。俺たちがエルレーンを救うんだ…!
いともすれば絶望に閉ざされそうな彼の心を支えているのは、その思い。
最後まであきらめない、「エルレーンを救う」という強い思い。
だが、そのリョウの思いとは裏腹に…ハヤトとムサシは、とうの昔に覚悟を決めていた。
それが、彼女との約束だった。
自分とゲッターロボで本気で戦え。そうでなければ、リョウを「連れて行く」…
そう彼女に言われたことは、リョウには言えないままでいた。
ただでさえ激しくショックを受け、動揺している様子もあらわなリョウに、これ以上負担をかけたくはなかった。
それに、恐竜帝国に「連れて行か」れるなどと告げるのは、単に彼に無用な心労を与えるだけだ。
だから、エルレーンと本気で戦うと決めた。リョウには何も言わないまま。
そのことにリョウ本人が…未だにエルレーンを救うことをあきらめていないらしいリョウが、どんなに怒り嘆くか、それを十分承知していながら…

「!」
レーダーを見ていた所員の顔に緊張が走る。
「しょ、所長!…メカザウルスです!…北北東の方角から、こちらにむかってまっすぐ飛来してきます…!」
「?!…何だと?!」
「…こ、このスピードだと…あ、あと、5分以内に研究所に到達します!」
「…!!」
とうとう来た。あの少女が、戦いを挑みにやって来た。
無言で顔を見合わせるゲッターチーム。早乙女博士も彼らを見つめ、促すように一回、しっかりとうなずいた…
ぱっと駆け出し、司令室から去るゲッターチーム。彼らの向かう先は格納庫…
ゲットマシン・イーグル号、ジャガー号、ベアー号、コマンドマシンのもとへ…
そして、その後姿を見送る博士。彼の目には、拭い去れない深い憂いが漂っている。
ふりむいた彼の目に映ったモニターには、ぐんぐんと研究所に近づくメカザウルス・ラルの様子が映っていた。
…夜空を見上げ、星の名を数えていたあの少女が…たった今司令室を後にしたゲッターチームと戦うためにやってくる。
避けられない戦いなのだ。早乙女博士も、そう覚悟した。
「!…は、博士!」
所員の悲痛な声。…レーダーに映るメカザウルス・ラルを示す光点は、もう研究所のすぐそばまで迫っていた。
「ゲッター線バリアを張るんだ…」
「は、はい!」
所員がバリア装置を作動させた瞬間だった。…青空の向こうにきらめく点のような影。
それは見る見るうちに、巨大な肉食獣の影と化した…メカザウルス・ラル!
その時、メカザウルス・ラルの両肩口から、ミサイルが一対だけ発射された…そのミサイルは研究所を護るバリアにあたり、真っ赤な火柱と化した。
「…!」
その振動が司令室に伝わる。
…すると、司令室のモニターに通信が割り込み回線で入ってきた…メカザウルス・ラルからの通信。
「…エルレーン君…!」
そこには、エルレーンの姿。何の感情も浮かべない、マネキンのような硬い表情。透明な瞳が、こちらをじっと見返している…
「…早乙女研究所に警告するわ」
その唇がなめらかに動いた。冷静な、冷静すぎる口調で彼女はそう告げた。
「ゲッターロボで、私と戦いなさい…さもなくば、研究所を破壊します」
「エルレーン君!」
博士がマイクを握りしめ、画面の向こうのエルレーンに向かって必死に呼びかける。
…だが、彼女の表情は変わらない。いつかみた、星空を見つめて無邪気な笑顔を浮かべる彼女は、もういない…
「…二度は言わない。ゲッターロボを出しなさい。…この、No.39と…メカザウルス・ラルが、お前たちを、焼き尽くす!」
エルレーンの口から、「No.39」という言葉が放たれた。
…愛しい友人にもらった名前「エルレーン」ではなく、あれほど嫌っていたナンバーを名乗る彼女。
「…博士!いかせてください!」
と、格納庫のジャガー号から通信が入る。ハヤトの声だ。
「そうです!…オイラたち、行かなきゃ…!」
ベアー号のムサシだ。
「…」
だが、イーグル号のリョウは無言のまま。無言のまま、操縦桿を握りしめ、沈痛な面持ちで目を伏せている…
「…よし、わかった…ゲットマシンを出撃させる」
博士はそう答えざるを得なかった。
それが、彼らと彼女を地獄の戦いに突き落とすと知っていても…
「エルレーン君…君の望みどおり、今からゲットマシンを出撃させる」
「…」
エルレーンは博士を見つめている。何も言わないまま…だが、とうとうあふれるような哀しみを押し隠すことができなくなった。
…能面のような表情が消え、哀しみが彼女の顔にあらわれる。
「呼ばないで…!…私の名前を、呼ばないで…!」
「…!」
「私は…『No.39』…!ゲッターロボを破壊し、ゲッターチームを抹殺するために造られた『兵器』…」
ゆっくりと首を振りながら、彼女はそうつぶやいた…苦悩がその言葉の端々からにじみ出る。
「…違うぜ、エルレーン!」
だが、突然響いたその声。
同時に、バリアが一瞬解除され、発射口からイーグル号、ジャガー号、ベアー号の三機のゲットマシンが飛び出した。コマンドマシンも同じく出撃する…
「!」
「俺たちは、『No.39』なんて奴は知らないぜ!…俺たちが知ってるのは、『エルレーン』だ!」
それは、ハヤトの声だった。モニター越しに見える、エルレーンに向かって彼は言う…彼の「トモダチ」に向かって。
「そうだ、ハヤトの言う通りだ!…『兵器』のお前なんて知らないよ!
オイラたちが知ってるのは、やさしい、『人間』の…『エルレーン』だよ!」
ベアー号のムサシも応じた。真剣な目で彼はエルレーンに向かって呼びかける。
「…エルレーンさん…!」
コマンドマシンのミチルも、彼女の名を呼んだ…彼女が本当に愛していた、自分の「名前」で。
「エルレーン…!」
イーグル号のリョウ。
そのうつろな瞳には、エルレーンが…モニターに映る、自分のクローンの姿が映っている。
メカザウルス・ラルに乗り、自分たちを殺そうとしている…いとおしい、自分の分身。
エルレーンは彼らが自分の名前を…「エルレーン」という自分の名前を呼んでくれるのを、胸が張り裂けそうな気持ちで聞いていた。
再び巻き起こるあのアンビバレンツ。愛しい人間たちへの思い…
だが、彼女はそれを無理やり押し込め、きっとモニター越しに彼らをにらみつける。
「…ゲッターチーム…!…さあ、はじめましょう…最後の、戦いを…!」
「ああ…!」
ハヤトとムサシが静かにうなずいた。その目には、決意。
「…!」
しかし、イーグル号のリョウだけは違っていた。
二人の返答に虚を突かれた彼は、思わずモニターに映る彼らに目をやった…
(…お前ら、まさか…?!)
だが、リョウの思考はそこで断ち切れた。
メカザウルス・ラルが大きく身を伸ばし、空気をびりびり震わせる、激しい唸り声を上げたのだ。
…まるで、今から戦いが始まる合図だ、とでも言うように…
「…いくよ、ゲッターチーム!」
エルレーンが同時にそう叫んだ。
そして、メカザウルス・ラルの操縦桿を引く…!
最後の戦いが、とうとうその幕を開けた…


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