--------------------------------------------------
◆ 大爆発!くたばれ恐竜帝国(2)
--------------------------------------------------
一旦ゲッターチームは早乙女研究所に引き上げた。
マグマコーティングを再び塗布しなおすためだ…
ミチルの乗るコマンドマシンも、ゲッター線エネルギー残量が少なくなったため、やむなく研究所に帰還、エネルギー補給が行われていた。
…そして、その作業全てが完了するのに、数時間が費やされた…
その作業が終わるや否や、再びゲッターチームは出撃した。
はやる気持ちを何とか抑えながら。
コマンドマシンのゲッター線ソナーは、すぐに恐竜帝国マシーンランドを再発見した…
それは、東京湾から少し離れた、海底深くに停止しているようだ。
ゲットマシンは再びゲッター2に合体、ドリルで海中に突き進む…
ドリルは水をかき、やがて水底に触れ、泥を掘り下げて真下へ進む。
数分後…ゲッター2のドリルがマグマ層を隔てる岩盤を、とうとう刺し貫いた。
そしてそこから一挙に赤いマグマの世界が広がる!
「うー…あちい!こればっかりは本当参るよなー」
ムサシがまたまたそんな文句をいっている。
「ムサシ、お前ちょっとは我慢しろって!」
敵の本拠地突撃だというのに、どこか能天気なムサシに対し、リョウが少し怒ったようにそう言う。
「へへー、でも今回はだいじょぶ!」
だが、なぜかそこで笑って応じるムサシ。
「何がだ?」
「…ほら!」
…そう言ってムサシが取り出したものは、…「祭」の文字も鮮やかなウチワだった。
彼はそれで自分をぱたぱたとあおぎ、にやっと笑ってみせる…
そのさすがの能天気さ加減に、思わずリョウもハヤトも笑ってしまった…
…と、その時だった。揺らめくマグマの向こうに、黒い影が見えた…
そう、それはまさしく恐竜帝国マシーンランドだった!
「!…見つけたぜ、マシーンランド…!」
一気にテンションが上がるゲッターチーム。
ゲッター2を駆るハヤトは操縦桿をしっかりと握りなおした…!
「よぅしハヤト、思いっきりやっちまえ!」
「おお!」
おたけびと同時に、ゲッター2は全速力でマシーンランドに突進していく!
マグマの海を泳ぎ、マシーンランドへ近づくゲッター2のドリルが狙うは…マシーンランドの表面に見える、うごめくパイプ状の部分!
…ハヤトの脳裏に、エルレーンが言っていたかつての言葉がよみがえる…
『マシーンランドは、堅い装甲でおおわれてる…だけど、ね』
『周りにあるパイプ…あそこはね、メカザウルスの発射口になってるんだけど…自由に向きを変えられるようになってるんだ』
『…だから、ね、…そのぶん、壊れやすくもなってるの…よく、修理してたもの…だから…』
「…狙うなら、ここだァッ!」
そして、とうとうドリルの先端が一本のパイプの根元に触れる!
…しばらくドリルは空転していたかのように見えたが…やがて、そこには小さな穴が開き、そしてその穴は一挙に広がった!
穴からマグマが内部に流れ込む…小さな爆発が起こるのが見えた。
「うおおおおおおおぉぉっっ!!」
ゲッター2はそのまま身体をマシーンランドに這わせるようにし、次々とパイプの根元を狙って突き進む!
パイプはまるでかみそりでそられるかのようにもげ、取れた部分からまわりのマグマが流入していく…
装甲が弱い部分であるパイプ部分を狙っているとはいえ、あまりにたやすく砕けていくのでちょっと拍子抜けするくらいだ…
「いいぞぉハヤト!行け行けぇっ!」
ムサシがその光景に思わず歓喜する。
そんな言葉でハヤトをさらにけしかける…
その応援に応じるかのように、思いっきりハヤトは操縦桿を前に倒す!
その動きに連動してゲッター2はさらに勢いを増し、猛スピードでマグマの海をマシーンランドの表面にそって休むことなく、取りまくように泳ぎ行く。
パイプをその強靭なドリルで破壊しながら。
…そして、数回ほどその周囲をまわり…大半のパイプ部分を破壊した後、一旦ゲッター2はその動きを止めた。
「どうだァッ!」
勝ち誇ったハヤトの声。
彼は、見事に破壊され、小さな爆発を外壁のあちこちで繰り返すマシーンランドの姿を見ながら、にやっと笑ってそう言った…
「?!…お、おい、ハヤト!…あいつ、逃げてくぜ?!」
だが、ムサシのその言葉で彼ははっと我にかえった。
…見ると、マシーンランドの姿は少しずつ小さくなっていく一方だ…
明らかに、自分たちから離れていっている!
「追うんだハヤト!」
「ああ!」
リョウの命令にすぐさま返事を返し、ゲッター2は逃げるマシーンランドの後を追いはじめた…!
マグマの海を突っ切っていくマシーンランド…
だが、それは明らかに浮上しつづけているように見える。
「あいつ…地上に出るつもりなのか?!」
「ちょうどいい!…ゲッタービームでとどめを刺してやるぜ!」
リョウが猛る。
このマグマの海では、ゲッターロボの最強武器・ゲッタービームを発射できるゲッター1にはチェンジできないが、地上なら話は別だ。
それを好機と捉えたゲッターチームは、マシーンランドを必死で追尾する。
…やがて、マシーンランドは地表とマグマ層を隔てる岩盤に差し掛かる…
と、マシーンランドはその硬い装甲で岩を力任せに砕き、地表に向けて進んでいく…!
その後を追うゲッター2。
だが、マシーンランドの先回りをすべく、岩盤の別の場所からドリルで突き進んでいく。
…いくらか掘り進んだとき、眼前にぱあっと蒼の世界が開けた。
マグマ層から脱出し、海中へと出たゲッター2は合体を解除し、三機のゲットマシンの姿に戻る。
ちょうど、その時だった。
鈍い地響きとともに、海底面が激しく揺らぐ。
そこからめきめきとひび割れが生まれ、無数の細かな泡が立ち上っていく…
そして、とうとうそれが姿をあらわした…!
巨大な恐竜帝国の移動基地、恐竜帝国マシーンランド!
マシーンランドはそのまま浮上を続け、すぐに海面に浮かびでた。
先ほどのゲッター2の攻撃のせいで、周囲を覆うパイプ部分はあらかた破壊され尽くし、そこから無残な切り口がのぞく。
「リョウ君、マシーンランドを…ゲッタービームで破壊するんだ!」
そこに、早乙女博士からの通信が入る。
「はい、博士!…チェーンジ・ゲッター1ッ!スイッチ・オンッッ!!」
その指令に従い、ゲッタービームを発射できる唯一の形態、自らの操縦する空戦用形態ゲッター1にゲットマシンを合体させるリョウ。
「…ミチル、リョウ君にゲッター線チャージャーを!」
「ええ!」
ミチルが博士の命令に答え、コマンドマシンから中心部にすりガラスのような丸い半透明の物体がはめ込まれた装置を投下した。
ゲッター1はそれをキャッチし、ゲッタービームの発射口がある胸部に取り付ける。
「このチャージャーで…普段の十倍のパワーのビームを放てるはずだ!…それなら、このマシーンランドも…!」
「行くぞ、ハヤト、ムサシ!」
『おお!』
猛るリョウに、ハヤトとムサシが同時に応じた…
…そして、リョウは絶叫とともにゲッターロボ最強の武器を解き放った…!
「…ゲッタァァアァ・ビィィイイィイィイムッッ!!」
胸部中央の発射口が丸く口をあける。
そして、そこからすべてを焼き尽くす強力なエネルギーが放たれる…
そのエネルギーは、ゲッター線チャージャーによって一旦そこにためられ、そこでさらなる変化を起こし…邪悪なるモノを滅ぼす朱い光に変わった!
そしてその光は直進し、マシーンランドの破壊された切り口の一つにぶち当たる…
だが、予想以上にその装甲は硬いようだ。
一旦破壊されたとはいえ、内部での隔壁を閉ざされたのか…ゲッター線チャージャーでパワーアップされたゲッタービームの攻撃にも、それは静かに耐えている…
「うおおぉおおおぉぉっっ!」
「ま…まだかァッ?!」
「な…なんて頑丈なんだ!」
「…負けるものか!ゲッター線エネルギーのある限り、ビームを打ちつづけてやるッ!」
その言葉どおり、リョウはゲッタービームを放つのを止めようとはしない。
この絶好のチャンスをのがして、他にいつこのマシーンランド、恐竜帝国の本拠地を破壊できるというのだ…?!
…だが、攻撃をはじめて数分…彼らの健闘にもかかわらず、ゲッターロボ自体がその攻撃に消耗し始めた。
「り…リョウ!や、ヤバいぜ!…そろそろ、エネルギーが!」
残エネルギー量を示す計器をちらりと見たハヤトの言葉に、焦燥が混じりはじめる。
…ただでさえエネルギーを喰うゲッタービームをこんなに連続して放っているのだ…
ゲッターロボを満たしているゲッター線エネルギーは、みるみるうちに使い果たされていっているのだ!
「わかってる、騒ぐな!…あ、ああっ?!」
と、その時。
…ようやく、待ち望んだその瞬間が訪れた…!
今までゲッタービームを当てられていた部分が、ぼんやりと鈍い赤色に変わる。
その赤く染まった部分は途端にどろどろと溶け始め、そこから再び穴があいた。
ゲッタービームの光が瞬時にそこからマシーンランド内に入り込む…
そして、次の瞬間。
溶かされてあいたその穴から、強烈な爆風と炎が噴出した!
それが合図であったかのように、マシーンランドのあちこちから炎が噴きあがる。
内側から爆発し、紫色の表層がそれごと吹っ飛ぶ。
その連続する爆発にあわせ、ばしゃばしゃと海水が水しぶきをあげる…
燃える。砕ける。
恐竜帝国の本拠地、恐竜帝国マシーンランドが。
数十秒も続いたその爆発のクライマックス…
それを見守るゲッターチームの前で、マシーンランドは全体から真っ白い閃光を放った…!
視界を焼くその最後の閃光。
鼓膜をつんざく強烈な爆発音。
そこから生まれた衝撃波が海面を高く波だたせ、爆風でまきあげられた海水が空中高く飛んでいるゲッター1にも降りかかる…
あまりの衝撃波の大きさに、ゲッター1は一旦はじかれたように吹っ飛んだ…
搭乗しているゲッターチームも、一瞬何がなんだかわからないほどに。
…だが、姿勢を立て直し、再び海面に目をやると…彼らの顔に、一瞬で明るさが戻る。
そこには、もうもうと爆発の煙がたっている。
…だが、その煙の量、爆発の強烈さからいって…あのマシーンランドが大爆発し、内部から砕け散ったことは確実だ…!
「や、やった…!」
イーグル号の、リョウ。
「…や、やったぜ、リョウ、ハヤト!…お、オイラたち、ついにやったんだ…!」
ベアー号の、ムサシ。
「ああ!…俺たち、ついにやったんだ!…恐竜帝国を、倒したんだ…!」
ジャガー号の、ハヤト…
口々に彼らはマシーンランドを倒した歓喜の言葉を、喜びの感情のほとばしるままに叫んでいる。
ムサシなどは感動のあまり、狭いコックピットの中で飛び跳ねんばかりに暴れている。
リョウは言うまでもなく、いつもクールで冷静なハヤトですら、その瞳が涙で潤むのを止めることは出来なかったほどだ。
コマンドマシンのミチルも、喜びのあまり浮かんできた涙を、そっと指でぬぐっていた…
長年の宿敵を滅ぼした喜びに沸く四人。
…しかし、東京湾近海に吹く風が…静かに、その煙を揺らした。
その時、彼らの目に…信じられないものが映った。
「…?」
「え…」
「な…何だ、あれ…」
燃えさかるマシーンランドの残骸の中、何かがそびえたっていた。
しかし、それはすすと煙にさえぎられ、よくは見えない。
…やがて、もうもうとあがる黒い煙もだんだんと薄まっていく…
そして、とうとうリョウたちの視界にもそれがはっきり見えるようになった。
「!!」
「め…メカ、ザウルス…!」
「そ…そんな?!」
驚愕のあまり、思わずそんな言葉をもらしてしまうゲッターチーム…
そう、爆発炎上したマシーンランドから現れた不吉な影…
それは、メカザウルスだった!
あの激しい爆発でも微塵のダメージも受けていないらしく、その皮膚にはまったく傷ついた様子がない。
ブラキオザウルスが二本の首を持った…そんな奇妙な生物。
その生物は、多数の砲台を備えていた。
…そして、二本の長い首の間に…鋼鉄で出来た首がもう一本ある。
その首のてっぺん、頭部となっている部分には、この大きなメカザウルスを指揮する命令系統をつかさどるブリッジ(艦橋)らしき部分を見ることができる。
双頭竜の首を持つそれは…まるで、移動基地にそのまま恐竜の身体をくっつけたような、奇怪な形をしていた。
…そして、それは異様に巨大なメカザウルス…
今まで見たどのメカザウルスよりも大きかった!
その高さだけでも、ゲッター1の7、8倍はある…
機械で強化され、無数の兵器を積み込んでいるであろうその巨体を支える四肢だけでも、相当な大きさだった。
…その足の太さ。ゲッター1がすっぽりその中に入ってしまいそうなほどだ…
それはすなわち、あの強力無比、今まで恐竜帝国のメカザウルスを打ち負かしてきたゲッターロボでさえ、その足の一本で軽く「踏み潰せる」ということだ。
まるで、対峙するゲッター1が無力な小虫に見えるほど、巨大なメカザウルスだった。
…そして、そのメカザウルスのスピーカーから…聞き覚えのある声が流れ始めた。
「…ハアッハッハッハッハッ!…ゲッターチームの諸君…ご機嫌如何かな?!」
「!…バット将軍!」
バット将軍。
恐竜帝国のキャプテンたちを束ねる、戦闘部門の最高指揮官…
「マシーンランドを破壊するとは…よくもやってくれたな、小童どもめ!」
「ガレリイ、長官…?!」
ガレリイ長官。
メカザウルスの設計開発を続けてきた、技術部門の最高責任者…
「…『人間』どもよ…ゲッターチームよ、聞こえているか!」
「ご、ゴール!」
…そして、恐竜帝国の指導者、帝国の全てを統べる、ゲッターチーム最大の敵…
帝王ゴール!
「よくも我々のマシーンランドを破壊してくれたな…!
だが、これで最後だ…いまいましい貴様らゲッターと、ゲッター線に脅かされるのも!」
「フッ…!そうはいくかよ!…俺たちのゲッターは、決して貴様らに負けやしない!」
ガレリイ長官の啖呵に、ハヤトが間髪いれず吼えかえす。
…だが、それを聞いてもなお、ガレリイ長官の余裕たっぷりな態度に揺るぎはない。
余程の自信があるのだ、このメカザウルスに…!
「ほう…このダイを前にして、まだそのような口がきけるとは。この無敵戦艦ダイの力、甘く見ておるようだな…よかろう、かかってくるがいい!
…恐竜帝国の全力をあげ、お前たちをひねりつぶしてやろうぞ!!」
「…!」
リョウは、操縦桿をぎゅうっと強く握りしめる…かすかに、その手が震えている。
それは、武者震いだったのか…それとも、恐怖のゆえだったのか…
リョウ自身にも、そのどちらとも判別がつかなかった。
「り、リョウ!…」
だが、ムサシの声がリョウを現実に引き戻した。
はっとなったリョウは、再び目の前にある忌まわしい影を見すえる…
例えその体躯がいくらゲッターロボ以上に巨大かつ強靭であったにしても、だからといって逃げることは許されない!
「行くぜ!…ゲッタァアアァ・ビィイイィムッッ!」
リョウがおたけびとともに、ゲッタービームを発射しようとした!
それは、ゲッターロボ最強の武器、胸部から発射される全てを焼き払う退魔の光…!
…だが、その退魔の光はまったく発射されなかった。
メカザウルスめがけて一直線に突き進んでいくはずの、あの朱い光が胸部から出てこない…?!
「?!」
予想外の事態に、一瞬呼吸が止まった。顔色がさあっと青くなる…
「ビームが…出ない?!」
「え、エネルギーが…足りないんだ!」
ようやくそのことにハヤトが気づいた。
…先ほど、マシーンランドを破壊するために、ゲッターロボは大半のゲッター線エネルギーを使い果たしてしまった…
高出力のゲッター線、ゲッタービームを発射するだけの余力など、とっくの昔になくなっていたのだ!
「くっ…!何てこった!」
「…君…リ…君…!…」
リョウの口からそんな言葉がもれた、その時だった。
さらに事態を緊迫させる通信がいきなり飛び込んできた…
それは、早乙女研究所からの緊急通信!
通信機から響く早乙女博士の声は、不快なノイズに阻まれながらもリョウたちを呼びつづける…
その口調には焦りの色。
「?!…は、博士ッ?!」
「リョウ君…!…そいで、…究所…」
「?!…は、博士ェッ!何があったんですか?!一体何が?!」
ノイズだらけの通信、だが途切れ途切れに聞こえるその単語と博士の口調…
そこから、明らかに研究所に何かが起こっていることがわかる…!
「……」
そして、とうとうノイズが完全に通信を埋め尽くした。
通信機から聞こえるのは、もはや砂嵐のような乾いた音だけ…
「り、リョウ!…研究所が!」
「…!」
「野郎…!俺たちをマシーンランドにひきつけといて、その間に研究所を…!」
ハヤトとムサシが悲痛な声で叫ぶ。
…自分たちの動きは、すっかり奴らに読まれていたのだ…
そして、ゲッターロボもなく、守りの要がゲッター線バリア装置のみとなった早乙女研究所は、今ごろ奴らの手先に…!
「…く、くそッ!
がんっ、と両拳を強くコンソールに叩きつけるリョウ。
今すぐ研究所へ飛んでいければ、すぐにその手先をぶちのめせるのに!
…だが、ここは研究所よりはるか遠く離れた東京湾。
どんなに飛ばしても間に合うような状況じゃない!
「?!」
無念さに打ちのめされるリョウたち…
しかし、その時ゲッター1に降りかかった銃弾の衝撃が彼らを現実に引き戻した!
ピンチなのは、研究所だけではない。
ゲッター線エネルギーをほとんど失い、戦う術も失われた自分たち…
そして、その前に立ちはだかる、この異様に巨大なメカザウルス…
絶体絶命の状況にあるのは、自分たちゲッターチームとて同じことなのだ!
「撃て撃てェい!きゃつらをこの空の藻屑に変えてしまうのだ!」
バット将軍の号令とともに、そのメカザウルスから無数の砲台が伸び上がってきた。
その全ての照準は、ぴたりとゲッター1にあわされ…それらは同時に無数の弾丸を連射しはじめた!
「う、うわああぁっ?!」
銃弾のシャワーを浴び、機体の数ヶ所に被弾するゲッター1。
その衝撃に悲鳴をあげるリョウ…
「り、リョウ君ッ!」
コマンドマシンでその上空を旋回していたミチル…
彼女はゲッター1のピンチを見るや否や、素早く自分の為すべき行動をとった!
「…ええいっ!」
かちっ、とコンソールの中にある一つのスイッチを入れる…
と、その途端コマンドマシンの底部に丸い穴があき、そこから真っ黒な粉末が噴きだした…!
「?!」
その微細な粒子は空中にゆらゆらと揺らめき、薄暗い霧を為す。
…そしてその霧はゲッター1、さらにはメカザウルスをも包み込み…やがて、メカザウルス内の砲撃手たちからは、標的・ゲッター1の姿がまったく見えなくなってしまった。
「煙幕を張ったか…こしゃくな真似をッ!」
鼻を鳴らし、冷笑するかのように言うガレリイ長官。
彼のいるメカザウルスのブリッジからも、すでにゲッター1の姿は確認できなくなっている…
「リョウ君!早く、早く研究所に戻りましょう!」
その隙を突きミチルがリョウに呼びかける。
「あ、ああ…!」
リョウはそれに応じ、すぐさま黒い霧に乗じて退却行動をとる…
全速力でメカザウルスから離れていくゲッター1。
びゅんびゅんと風を切って飛ぶゲッター1は、あっという間にメカザウルスを引き離していく…
「…ちっくしょう!エネルギーさえあれば、あんな奴…!」
ムサシがぱんっ、と拳をもう一本の手に叩きつけながら、心底悔しそうにつぶやいた。
その気持ちは、リョウやハヤトも同じだ。
だが、いまはそれどころではない…
「一刻も早く研究所に戻らなければ…!」
リョウは焦るこころを何とか落ち着けようとしながら、フルスピードで研究所に向かう。
そして、やがて東京湾が視界から消えていった…
あの醜悪な、だが強大であることを認めざるをえない…メカザウルスがのさばっている、東京湾が。
「ゴール…畜生!」
ムサシのその罵りの言葉。
だが、その勢いは先ほどより幾分弱まっている…
彼らも、とうとう認めざるをえなくなってしまったのだ。
相手は自分たちのはるかに上をいってしまったということを…

はやる気持ち、そして今にもあふれかえりそうな嫌な予感。
それらを必死に押し殺しながら、一路研究所へとひた走るゲッターチーム。
海を越え、野を越え、浅間の山々がやがて彼らの目の前にあらわれる…
そして、彼らはとうとう目的地にたどり着いた。
「…あ、ああッ?!」
「う、嘘…」
「そ、そんな…ッ!!」
しかし、彼らを待っていたのは残酷な現実だった…
早乙女研究所。
ゲッター線研究の第一人者たる早乙女博士の、科学の粋を集めた研究所は…すでに、そこには存在していなかった。
…いや、正しく言うならば、そうであった、研究所であっただろう無数のがれきと鉄片が、研究所がかつてそびえたっていた台地を埋めている。
そして、そこここからかすかな炎と、くすぶる煙。
それは、徹底した破壊だった。
黒い不吉な煙がしゅうしゅうと立ちのぼるそのがれきの山。
ほんの少し前まではそれがゲッター線収集塔であったり、ゲッター線分析のスパコンであったりしたということがまったく信じられないほどに、
それらは徹底的にこなごなにされ、焼かれ、砕かれていた…
…あまりの光景に、まるで呆けたように研究所跡地を見つめるゲッターチーム…
自分の父親・早乙女博士と弟・早乙女元気がそこにいたはずだということを知っているミチルはなおさらだ…
彼女はその大きな目を見開いたまま、絶句している…
と、その時突然、空気をびりびりと震わす不快な叫び声が浅間山に響いた。
…その叫びとともに、研究所の陰から何かがゲットマシンめがけて飛び出した!
それは、蛇のような頭をもつ、一体のメカザウルスだった!
(…こいつが、研究所を破壊したんだ!)
彼らの脳裏に、瞬時にひらめくその思い。
それと同時に、かあっと全身が燃え上がるような、強く激しい怒りがゲッターチームを包み込んでいく…!
「き、貴様ァッ…許せん!絶対、許さないッ…!」
「よ、よくも研究所を!」
口々に吼えるゲッターチーム。その瞳がぎりぎりと激怒の炎で燃える。
そして、彼らはすぐさま研究所を破壊したその憎きメカザウルスへの復讐を開始した…!
「行くぞ、ハヤト、ムサシィッ!」
「おおッ!」
「チェーンジ・ゲッター1!スイッチ・オォォンッ!!」
リョウは掛け声とともに合体ボタンを押す…
すると、三機のゲットマシンはひらりと宙を舞い、ベアー、ジャガー、イーグル号の順に積み重なり、空戦用モードゲッター1へと変形した…!
その姿を見たメカザウルスがまた吼えた…
金属がきしるような、不快で気に障る叫び声。
すると、そのメカザウルスの両腕から、じゃきっ、という音とともに、一対の鋭い剣があらわれた!
だが、メカザウルスがその刃をゲッター1に向けようとした刹那、ゲッター1はそれめがけ、トマホークを思い切り振り下ろしていた…!
そのトマホークは、メカザウルスの腕をいともたやすく切り落とした。
どさっと地面に落ちるメカザウルスの腕…
一瞬ひるんだのか、一歩あとずさるメカザウルス。
しかし、ゲッター1はそのメカザウルスに向かって自分から突き進む…!
トマホークを握るその手が何度も何度も打ち下ろされる。
その度にメカザウルスの足、腕、顔、胸、腰…いたるところに深い切り傷が刻まれていく。
そこから噴出す、オイルと血液…
ゲッター1の勢いに飲まれ、もはや切られるままになっているメカザウルス。
「うあぁあぁあぁッッ!!」
リョウが絶叫する。
すさまじい怒りが、彼を突き動かしている。
無心に彼はトマホークを振り下ろす…
研究所を破壊したこの魔物を、がらくたに変えてしまわんがために!
「俺にもやらせろ、リョウッ!」
そして、その思いはハヤトも同じだった…
それゆえ彼もまた、復讐を欲した!
「…オープン・ゲーット!」
「チェーンジ・ゲッター2!スイッチ・オォン!!」
それに答え、合体を解除するゲッター1…
そして、今度はイーグル、ベアー、ジャガー号の順に積み重なるゲットマシン。
陸戦用モードゲッター2が地面に降り立つ…
「喰らいやがれッ!!」
ハヤトはそう叫ぶや否や、いきなりゲッター2をフルパワーで加速させる!
…そしてそのままメカザウルスの四方を飛び回り、身動きがまったく取れないようにする…
ゲッター2のドリルアームがひらめく。
白い旋風となったゲッター2がメカザウルスをかすめていく…
メカザウルスはその度に深い傷を負い、苦痛の叫びをあげる…!
「ハヤト!今度は、オイラの番だッ!」
最後は、ムサシ。
怒りのあまりか、その声がわなわなと震えている。
「ああッ!オープン・ゲーット!」
「チェーンジ・ゲッター3!スイッチ・オォンッ!!」
合体を解除したゲッター2は再び三機のゲットマシンに戻る…
ジャガー、イーグル、ベアーの順に合体したゲットマシンは、海戦用モードゲッター3となって再びメカザウルスに立ち向かう…!
ゲッター1、ゲッター2の連続攻撃によって満身創痍になってしまったメカザウルス…
機能低下を起こし、身動きが自由に取れなくなってそれのしっぽをがしっとつかみ、ムサシは自らの必殺技をかける…!
「うおぉおおぉぉおぉっっ!…大・雪・山…おろしぃいいぃぃぃッッ!!」
ぶんぶんとそのメカザウルスを振り回すゲッター3…
振り回される遠心力で、砕けたその細かなパーツがバラバラと宙に散っていく。
ゲッター3が、その手を離した。
途端に勢いに任せ、メカザウルスは空中高く放り投げられる…
そして、ムサシは最後のとどめをくらわせるべく、青空に舞うその姿に照準を定めた…!
「ゲッター・ミサイルッッ!」
ゲッター3の肩口から一対の強力なミサイル弾が発射された…
真っ白な煙を吐き、まっすぐに飛んでいくミサイル弾。
そのミサイル弾は、違うことなくメカザウルスの頭部に着弾した。
強烈な爆発音。大地を揺るがすような衝撃。
目の前で起こった爆発が、メカザウルスが燃え尽きる炎が、ムサシの座るゲッター3のコックピットを真っ赤に照らした…!
ムサシはその爆発をにらみつけるようにして見ている…
燃えさかる炎と煙の中、確かにあのメカザウルスが跡形もなく消し飛んだことを確認した彼は、最後にこう言った…
まるで、やりきれない思いを吐き捨てるかのように。
「ざまあみやがれ…ッ!」

血のように朱い夕暮れ。
沈みゆく太陽が、早乙女研究所跡地を照らしている…
がれきの山に落ちる、四本の長い影。
沈んだ瞳で、かつては早乙女研究所であったものをぼうっと見回しているリョウ。
がれきのいっぺんに座り込んだまま、うつむいたままで黙り込むハヤト。
先ほどからまったく止まらない涙を何度も何度も手の甲でぬぐいながら、それでもすすり泣きを止められないムサシ。
そのムサシのかたわらで、ミチルはまるで魂が抜けきったかのような生気のない表情をして…ただ、立ち尽くしている。
「…」
「…」
誰もが、無言。だが、思うことはおそらく、四人が四人とも同じこと。
…ふと、リョウは比較的平坦になった場所に着陸させてあるゲットマシンに目をやった。
夕日に照らされ、オレンジ色に染まったゲットマシン。
「…」
…もっと、いや、もう少しでも、ここに来るのが早かったなら…
そんな思いが、また浮かんできた。
…しかし、突然響いた低い連続音が彼の思考を断ち切った。
「?!」
突如、少し離れた場所から、何かがまっすぐ突き出てきた…
その、入り口のついたガレージのようなもの…そう、それは地下シェルターへの出入り口だった!
その扉がしゅん、と音を立てて開く…
そこには早乙女博士の姿があった。
疲労の色が顔に浮かんではいるが、怪我などを負った様子はないようだ…
「…は、博士!」
「お父様!」
それを見て、ほっと安堵のため息をもらすゲッターチーム。
彼らの姿を見て、早乙女博士も弱々しいながらも、微笑みを返した…
「よく帰還してくれた、君たち…」
「…す、すみません博士…!…お、俺たちが、マシーンランドにばかり気をとられていたばっかりに…!」
「…いや、いいんだ。…研究所の地上部分は破壊されてしまったが、…地下シェルター施設、格納庫などは無事だ。
…ゲッター線エネルギーも…用意していたバッテリーがある。ゲットマシンを動かすことぐらい出来る量は、十分にある」
博士は静かにそうつぶやいた。
…だが、語られている内容は肯定的なものばかりとはいえ…「大丈夫」という言葉を気軽に使えるほど、状況はよくはないらしい。
そこまで自分を偽れるほど、早乙女博士は現状を甘く見ているわけではなさそうだった。
「…」
思わず黙りこくってしまうゲッターチーム。
博士の口調から彼らは感じざるを得ない…博士の苦悩を。
「さあ…シェルターに。…これから、我々は考えねばならん…」
そう言って、四人に中に入るように促す早乙女博士。
彼らに背を向け、シェルターの中に入る…
そして、彼らの側を見ないままに、彼はなおも言葉を継いだ…
「これから、どうすればよいのか、…どうするべきなのかを…」


back