--------------------------------------------------
◆ ファーストコンタクト
--------------------------------------------------
早乙女研究所に激しく警戒警報が鳴り響く。
「博士!何があったんですか」
リョウたちが司令室に駆け込んできた。
「メカザウルスだ」
緊迫した表情の早乙女博士が答える。
「まっすぐ研究所に向かっている!出撃準備をしてくれ!」
「わかりました!」リョウたちはそれを聞くなり、駆け出していく。
「お父様、私もコマンドマシンで出撃します」
「頼むぞ、ミチル」
「はい!」
ミチルもそういうなり格納庫へと駆けていく。

「ゲットマシン・イーグル号、発進!」
「ゲットマシン・ジャガー号、発進!」
「ゲットマシン・ベアー号、発進!」
早乙女研究所から三台のゲットマシンが同時に飛び出した。と同時に、コマンドマシンから連絡が入る。
「メカザウルスを発見したわ!A504‐25地点!研究所に向かって進んでいるわ!」
「了解!ただちにそちらに向かう!」
リョウが応答し、三機は旋回して現場に急行した。
数分後、A504‐25地点。だだっ広い草原に、一機のメカザウルス…いや、むしろ人型に近い形をしたメカザウルスが立ち尽くしていた。
「あれか!よーし、オイラが大雪山おろしで!」
「待てムサシ!まずは様子をみるんだ」
「大丈夫大丈夫!行くぜー!チェーンジゲッター3!スイッチ・オーン!」
三機のゲットマシンがジャガー、イーグル、ベアーの順に合体し、ゲッター3が低い振動を立ててメカザウルスの目の前に降り立った。
「…さーあトカゲ野郎!かかってきやがれ!」
気合を入れるムサシ。
「…トカゲじゃ、ないわよ」
突然通信が割り込み回線で入ってきた。
「…えっ?!…い、いま、誰かなんか言った?」
「俺じゃないぜ」
「俺でもないぞ」
「私でもないけど」
リョウ、ハヤト、ミチルからの返信になおさら謎は深まるばかりだ。
だが、そのときさらに通信が入ってきた。
「…うふふ。…私。私よ…巴・武蔵…君?」
「?!だ、誰だ、テメエ!!」
ムサシの問いに答えるように、突然画像回線が開かれた。そしてそこに映るものは…信じられないものだった。
「!?」
「えっ…?!」
「な、何ッ?!」
「…お、俺?!」
割り込みで開かれた通信回線の画像に映っているその顔は…
流竜馬!
「り、リョウ?!」
「ちっ…違う!俺じゃない!」
「そ、そんなことわかってる!問題は、何でリョウが…」
「違うわムサシ君…こ、この人、女の人だわ!」
そう、画像に映るのはその上半身のみであったが、そこには胸をおおい隠すビスチェのようなものを着た姿が映っている。
…だが、その顔は確かにリョウのものだった。
「…そうよ。私のオリジナルは…男性らしいけど、ね」
その女の声が回線を通して聞こえる。リョウの声と、よく似た…だが違う声だ。
「オリジナル…だと?」
「…ふうん。あなたが…流…竜馬……リョウ、ね?」
「…ああ」
「…私は」
彼女はいったんそこで言葉を切り、ふっと微笑って続けた。
「私は、エルレーン…ゲッターロボとゲッターチームを滅ぼすために作られた、流竜馬のクローン」
「!!」
「り、リョウ君の」
「クローン…だと?!」
「う、うそだァ!そ、それじゃおめえ、お、男なのか?!」
「むー!失礼ねー!ほら見てごらんなさいよッ!」
そういうとエルレーンと名乗ったその女は突然着ているビスチェを指でひっぱり、その証拠を見せた。
…たしかに、小ぶりとはいえ、そこには女性らしい胸がある。
「う、うわああ!!」
突然の相手の行動にどぎまぎしてしまったムサシ。顔が真っ赤だ。ハヤトは見てみぬふりをしている。
リョウは…あっけにとられたような複雑な表情をしている。
「きゃははははは!」
エルレーンがそんなムサシの様子を見て、笑っている。
「お、お前、そそそそんな大胆なッ…よ、嫁にいけなくなるぞ〜!」
さらに動転したムサシ。わけのわからない事を口走っている。
だが、笑いながら彼女が言った言葉は、恐ろしいほど冷酷だった。
「きゃはははは!大丈夫よ。ムサシ君が心配してくれなくても。…それに、ムサシ君、今日死んじゃうかもしれないんだから☆」
「!!な、何だとぉ?!」
メカザウルスが背中から…長い剣を取り出した。そしてそれを、まるで人間の剣士のように構える。
「…さあ、行くわよ、ムサシ君?」
「ッ…!!くそーわけわかんねぇよまったく!とにかく行くぞー!」
ゲッター3のキャタピラが回りだす。
「うおぉぉぉおおお!!」
雄たけびとともにゲッター3がメカザウルスに突進していく!
「喰らえ!」両腕が伸び、メカザウルスをがっちりとらえた。そして、勢いをつけて振り回し…
「大雪山おーろーしぃぃーーー!!」
ゲッター3の必殺技・大雪山おろし!だが技が決まるかと思われたその直前、そのメカザウルスは驚くべき動きをした…!
右腕の剣を使い、ゲッター3のキャタピラをすくい上げるようになでぎったのだ!
「う、うわあぁぁぁあぁぁぁああ!」
ムサシの叫び声。バランスを失ったゲッター3は大雪山おろしを決める事が出来ないまま、自分の勢いで吹っ飛ばされてしまう。
そして地面に土煙を上げて落ちていった。
「!!っぐぐぐぐ…!!」
「…レポートどおりなのね。ゲッター3のパイロット・巴武蔵は三人の中でもっとも操縦技術に劣る、か…」
「!!…ちくしょ〜!」
真実だけに言い返せない(しかも今証明されたばかりだ)。
「ムサシッ!俺がやる!…チェーンジゲッター2!スイッチ・オォン!!」
ゲッター3がゲッター2に変形し、再び地上に音もなく立つ。
「俺のゲッター2についてこられるものかッ!!ゲッタービジョンッッ!!」
ゲッター2の高速移動機能ゲッタービジョンで、メカザウルスの周りを高速移動してその目をくらませる。
だが、エルレーンはまったく動じない。
「…喰らえ!」
高速移動状態からドリルアームで攻撃しようとした、その刹那!
いつのまにかレッグに鋼鉄のチェーンが絡み付いているのに気づいた時は、もう遅かった。
「ぐ、ぐあぁぁああ!!」
両足をチェーンにからみ取られ、バランスを取りきれずゲッター2が地面に倒れ付す。
「…ゲッター2のパイロット、神隼人…確かにその高速移動はあなたのご自慢みたいね。
…だけど、逆にいえばその足さえ奪えば」
メカザウルスの剣が一閃する。
「!!ぐうっ!」ゲッター2の右腕、ドリルアームが切り落とされた。
「まったく怖くないってわけ。…あなたは、自分の能力に自信を持ちすぎるのよ」
「…!!」
ハヤトは自分の失態をつかれ、ただ屈辱に耐えるしか出来ない。
「!!くそっ!俺が行く!チェーンジゲッター1ッ!!スイッチ・オンッッ!!」
オープンゲットしたゲットマシンがまた合体し、今度はリョウの操縦するゲッター1に変化した。
「…ゲッター1のパイロット、流竜馬…リョウ。私の…オリジナル」
「お返しはたっぷりさせてもらうぞ!トマホゥク・ブーメラァン!!」
ゲッター1が投げたトマホークを、メカザウルスが剣ではじきかえす。
「…ふぅん。…なるほど、ね」メカザウルスの剣がひらめき、ゲッター1を襲う。だがリョウはそれをひらりとかわしていく。
「…攻撃、防御…どちらにも長けている、というわけね…私があなたをもとに作られた理由がよくわかる、わ」
「何言ってやがる!くらえゲッター・トマホゥク!!」
無数のトマホークがメカザウルスを襲う!
「だけど」エルレーンは恐ろしいほど落ち着き払っている。無数のトマホークに驚きもしない。
素早く剣を背中にしまい、トマホークの雨の中に突っ込んだ!!
「!!何ッ!?」
…トマホークが、当たらない?!
メカザウルスはその巨体にもかかわらず自由自在にトマホークを回避している。
そのうちの一本を、その手につかんだ。
「そのどっちも…私のほうが、上、だわ」
刹那、そのトマホークがゲッター1をかすめて切り裂いた!
「う、うわぁぁあああ!!」
ゲッターウィングを切り裂かれ、失速して墜落していくゲッター1。
リョウの悲鳴が響き渡る。
「ぐうっ!!」
やがて、ゲッター1は大きな音を立てて地面に不時着した。
深刻なダメージではないものの…ゲッターウィングを切り裂かれた今、もはや飛ぶ事はかなわない。
ゲッター1の前に、メカザウルスが舞い降りる。…まるで、死をもたらす死神のように。
「…もう、おしまいなの…?意外ともろいわね、ゲッターチーム」
「…くッ!!」
再び剣をすらりと抜き、ゲッター1に突きつける。そしてモニターに静かに微笑むエルレーン。何の邪気も…浮かんでいないのが、逆に恐ろしい…
「…うふふ、さようなら、リョウ…」
そしてメカザウルスの刃がゲッター1に襲いかかる…!!
「おい、どけNo.39!…ゲッターチームは、俺がやるッ!」
「…?」
メカザウルスがぴたりとその動きを止めた。
エルレーンのあやつるメカザウルスの後ろに、もう一体のメカザウルスがいつのまにかいた。そのメカザウルスのパイロットがエルレーンにぞんざいに言い放つ。
「…きいてるのか?!失せな、こいつらのとどめは俺がさしてやるぜ」
「…」
エルレーンは、無言のまま相手を見ている。
「…エルレーン。初陣としてはもう十分だ。…かえってくるがいい」
別の女性の声が、無線で入ってきた。
その声を聞いた瞬間、エルレーンの表情がぱあっと明るくなる。
「…ルーガ!…わかったわ。それじゃあ、今から帰還します」
そしてゲッターチームに向かってにっこりと笑いかける。
「じゃあね、さようなら…縁があったら、また会いましょう?」
「ま、待て!!」
リョウの叫び声だけが空しく響く。
「おっと!貴様らに引導を渡すのは、このキャプテン・ザンキ様だ!」
残ったメカザウルスのパイロット、キャプテン・ザンキが言い放つ。
「…!!」
ゲッター1が再び立ち上がり、トマホークをその手に構えた。

「…ルーガ!」
メカザウルスから舞い降りたエルレーンは、ルーガと呼ばれたハ虫人の胸の中に一直線に飛び込んでいく。
「見てたぁ?!…私、ゲッターチームに負けなかった、わ!」
「…ああ!とても初陣とは思えなかったぞ」キャプテン・ルーガも笑顔で応じる。
「きゃあー、うれしい!」
くるりと身を翻し、にこっと笑って見せる。そんなエルレーンをキャプテン・ルーガも微笑して見ている。
と、その時、突然周囲があわただしくなった。緊迫した雰囲気が流れる。
「何事だ?!」
キャプテン・ルーガの問いかけに、一人の恐竜兵士が答える。
「きゃ、キャプテン・ザンキが!ゲッターロボに敗れました!」
「…?!」
少なからず驚きの色がキャプテン・ルーガの顔に表れる。
だが、エルレーンは無表情に近い…平静そのものといった顔をしている。
「当然だわ」
その物静かな口調にキャプテン・ルーガは思わずエルレーンのほうを振り向いた。
「ゲッターチームは…私が、殺すの…」

「…危ないところだったな…」
早乙女博士が深刻な表情でつぶやいた。
「…もし…あの最初のメカザウルスが途中で撤退していなければ…今ごろ、君達は…」
「……」
リョウたちは、無言のままそれを聞いている。
「…お父様…あの、エルレーンって言う人…一体…?」
「…彼女の言う事が本当なら…恐竜帝国は、リョウ君のクローンを我々と戦わせるために作った、ということだろうな」
「…大丈夫です、博士」
そういったリョウの顔には…戸惑いと、やりきれなさ、そして怒りにも似た感情が入り混じった表情が浮かんでいた。
「…俺は二人いらない…今度会った時には、必ず負けません!」
「…そうかな?俺にはそうは思えない…」
そう混ぜ返したのは、ハヤトだった。
「ハヤト?!」
「あの女…俺たちより、はるかに強いかもしれん」
「…どうしたハヤト、いつも強気のお前らしくないじゃないか!」
「そうだぞハヤト、一回ぐらいしてやられただけで自信喪失かよ」
「…敵のお色気に動揺して無様な姿を見せたお前には言われたくないな、ムサシ」
「!…そ、そんなこといったってよう、ハヤトだって見てたじゃんかー!」
「…お、俺は見てない!」
「いーや見てた!オイラは見たぞ!」
「もう!何を見てたって言うのよ!あの人は、敵なのよ!」
ミチルが怒気混じりに言う。
「まあまあ…とにかく…手ごわい相手かもしれんな」
早乙女博士が彼らをなだめながら言った。
その言葉に、無言でうなずくゲッターチーム。
「…なあ、リョウ」
ムサシがリョウに呼びかけた。
「何だ?」
「…リョウって、女顔だったんだな」
次の瞬間、リョウのパンチが思いっきりムサシの頭に炸裂していた事は、言うまでもない。


back