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◆ I am "the arms", like your Getter Robot.
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「何だって?!…エルレーンが、ミチルさんの家の前に…?!」
エルレーンが早乙女家前にあらわれたその翌日、ミチルは事の顛末を研究所にきたゲッターチームに話していた。
そばで話を聞いていた早乙女博士も複雑な表情をしている。
「そうらしい…しかし、彼女の話では、どうやら本人はそこが私の家だということを知らなかったようなんだ…」
「…そんなの、嘘に決まってますよ!…そうでなきゃ、なんであいつが…」
リョウはそういうが、だからといって彼女の行動の不審さ、謎を理解しているわけではない。
…事実、その家が早乙女家のものであるとミチルに聞かされたエルレーンは、それでも特に何をしたわけでもないようだったから。
「あ、あいつ本当何考えてんだ…?」
ムサシがあっけにとられたような顔をしてぽつりと口にした。
「まったくわからない…私の妻や元気に手を出そうとしたわけでもない。…ただ、『夕日を見ていた』と…そうミチルにいったようだが…」
「…ゆ、『夕日』…?!」
「そうなの…」ミチルもそのときのエルレーンを思い出し、困惑気味に答える。
「まったく…ふざけた奴だ…!」
リョウが憎々しげにつぶやく。
…いつもは温和なリョウが、エルレーンのことになると態度を硬化させてしまうのはもうみんな周知のことなので、
誰も言葉を返すことなく、聞かないふりをしている。
「…でも…一つ、気になることを言ってたわ…」
思い出したかのように、ミチルがそう口にした。
そのつぶやきに、思わずゲッターチームの三人と早乙女博士が彼女に視線を向ける。
「気になること?…あのお嬢さん、なんて言ってたんだい?」
ハヤトが先をせかす。
しばしの間、ミチルは自分でも彼女のあの「言葉」の意味を考えていたようだが…やがて思い切ったように告げた。
「あの人…自分のことを、恐竜帝国の…『兵器』、『兵器』だ、って言ったの…」
「…『兵器』?!」三人の声が重なる。その…とても人間をあらわすものとは思えないような言葉に一瞬当惑する。
「『兵器』…だと?…彼女が、確かにそういったのかね…?」
「ええ、お父様…」
「な、何でだよ…あいつは、見たとこ普通の『人間』じゃねえか、なあハヤト」
ムサシが隣に立つハヤトに同意を求める。
「ああ。…だが、どうかな…」
ハヤトも少しうつむき、その言葉の意味を考えている。
…「兵器」…エルレーンが?あの女はどういうつもりでそんなことを言ったのか?自分のことを「兵器」だなんて…
しかし、彼らの真正面に立つリョウは、そんなハヤトとムサシの様子を冷笑するような表情で見ている…
そして、フッと鼻で笑っていきなり大声でこういったのだ。
「…まあ、俺にとっちゃどうでもいいがな、あの女がどうであろうと、さ。
…エルレーンを助けちまうような、お優しいお前らにとっては違うんだろうがな!」
「?!」
「り、リョウ?!」ハヤトとムサシの表情が一瞬でこわばる。
…と、その言葉を耳にしたミチルと早乙女博士は当然のことながら驚き、リョウにその真意を問い掛ける。
「り、リョウ君?!…ど、どういうこと?!…ムサシ君たちが、あの人を…助けた、って…?!」
「いったい、どういうことかね?!」
「…リョウ、お前…」
ハヤトが軽い怒りと非難をこめてリョウをにらんだが、リョウはなおも嘲笑するように睨みかえす。
「…ああ〜、秘密にしてくれって言ったのに…」
ムサシの非難がましいつぶやきも、何処吹く風だ。
「どういうことなの、ムサシ君?!」
ミチルがうつむきっぱなしのムサシに問う。
「ああ〜…そのぅ…」
もごもごと何事かをつぶやくが、それは言葉にはならない。
…と、リョウがそれに覆いかぶせるようにしてなおも言った。丁寧さを装ってはいるが、その口調は十分に冷たかった。
「…数日前、俺たちは偶然原っぱであの女を見つけたんです。…それで、何とかあの女を…追い詰めたんです。
…ところが、こいつらときたら」
そこでいったん言葉を切り、ムサシとハヤトに冷たい一瞥をくれてやる。
「…あの女がいきなり泣き出したら、突然態度を変えやがって、俺の邪魔をして…おかげであいつに逃げられちまった。
…あいつを捕まえる、絶好のチャンスだったのに…!」
そこまで口にするとそのときの怒りがまた燃え上がってきたのか、最後のほうではかなり言葉に力が入っていた。
「あ、あなたたち…あの人を捕まえたのに、…逃がしたの?!」
ミチルの顔にも驚きが、そして彼ら二人への非難の色が浮かぶ。
早乙女博士はむしろあっけに取られた様子だ。
「ち、違う!…オイラたち、あいつを逃がしてなんかいないよ、ミチルさん…た、ただ」
「『ただ』…何よ?!」
「…だ、だって…あ、あいつがあんまりかわいそうだったから…あいつ、ま、まるで子供みたいに泣くんだもの…」
「…そうだよなあ、お前らはあいつが研究所をメカザウルスで襲って、しかも何度も俺たちを小馬鹿にしてきたにもかかわらず、
あの女の涙一発で態度をコロッと変えちまうんだもんな!…お前ら、本っ当にお優しいことだな!!」
リョウがなおもムサシたちに言い放つ。
そのセリフは、普段の彼を知るものならば必ず耳を疑うであろう、辛辣で残酷な響きを含んでいた…
同じように二人を責めるミチルですら、彼の言葉に一瞬度肝を抜かれた。
「リョウ!…それは言いすぎだろう」
ハヤトがさすがにそのリョウの無礼さに耐え切れず、言い返す。
「フン、実際そうだろう?!…あの時お前らが邪魔さえしなけりゃ、あの女を捕まえることができたんだ!」
「…そ、そりゃそうかもしれないけどよ、リョウ!」
今までずっと黙って責められるままになっていたムサシが、思い切ったように顔を上げ、リョウに反論した。
「…お、お前はなんとも思わなかったのかよ?!あいつが、エルレーンが…あれだけ泣いてても?!
…お前に首根っこつかまれて泣いてたあいつ…まるで、ちっちゃな子供みたいだったじゃねえか!
あそこまで怯えてる女の子相手に、お前のほうこそよくあそこまで言えたな?!」
「…!…俺のほうが悪いって言いたいのか、ムサシィッ!」
リョウの端整な顔に一気に怒りが燃え上がる。
鋭い視線がムサシを射る…だが、ムサシも負けてはいない。無言で彼を睨みかえす…ハヤトも同様だ。
「ま…まあ、落ち着くんだ、三人とも」
一瞬で緊迫した空気をほぐそうと、早乙女博士が三人の間に割って入った。
…だが、彼らはまったく相手から目を離さない。ぎりぎりとお互いをにらみつけている…ぴりぴりした嫌な雰囲気が司令室に流れる…
…と、その時だった。その空気を引き裂くかのように、軽い風切り音が聞こえた…そして、コンコン、というノックの音が聞こえる…窓の外で。
思わず五人がそちらのほうに目を向ける…
「?!」
同時にその目が驚きでかっと見開かれる。
…司令室のすぐ外、空中に高速ホバーバイクで浮かんでこちらを見ているのは…
その当の本人、恐竜帝国のパイロット…エルレーンだった!
「エルレーン?!」
ムサシが思わずその名を呼ぶ。…すると、彼女は窓ガラス越しに彼に向かって微笑えみかえした。
「…エルレーン!…よくも貴様、ここに来れたものだな…!」
その低く押し殺したような声に、ゲッターチームの面々は一瞬どきりとする。
…その声の主は、リョウ。暗い、冷たい瞳で、窓の外に浮かぶエルレーンをねめつけている…!
「今度こそ逃がさない…!」
窓に向かって彼は歩み寄ろうとする。…と、早乙女博士が彼の前に割って入り、それを止めた。
リョウは一瞬困惑したようだが、博士の意図を汲み、それ以上エルレーンに近寄ろうとはしない。
「…エルレーン君。…君は、昨日…私の家にきたそうだね」
落ち着いた、静かな声で彼女に向かって呼びかけた。
…窓の外のエルレーンはそれを聞いている。逃げようとするそぶりも見せない。いつだって逃げられるという自信があるのか…
「早乙女、博士…の?…ああ、ミチルさんの…家。……そうね、近くにあったの。お散歩していた時…」
「…」早乙女博士は注意深く彼女の答えに耳を澄ませていた。
…まるで幼女のようなその話し方からは、嘘をついている様子は微塵も感じられない。
素直に事実を口に出しているだけのようだ…だから、なおさらに彼女の行動に説明がつかなくなる。
「エルレーン君。…君は、いったい…どういうつもりなんだ?
…私たちやリョウ君、ハヤト君、ムサシ君…果ては学校や…紋次君の世界発明研究所まで…
私たちの命を狙うでもない。何かを探るわけでもない。…いったい何のために、君は我々に近づくのだ…?」
穏やかな口調で問い掛ける早乙女博士。
「…」エルレーンは彼をじっと見つめている。
「そうだ…俺もずっとそれが気にかかっていた」
ハヤトが一歩前に進み出、重ねて問い掛ける。
「俺はお前に…少なくとも二回、殺されても仕様がない状況に追い込まれたことがある。
…お前が恐竜帝国の手先なら、その時俺を殺すべきだった。…何故、俺を助けた?何故、俺を殺さなかった…?」
「…」
エルレーンは無言のまま、彼らを見つめている。
「…何とか言ったらどうだッ?!」
その態度に腹を立てたリョウが怒鳴りつける。
ムサシとミチルが慌てて興奮する彼を押しとどめようとする…
エルレーンは彼を見つめている。どこか哀しげな瞳で。
…やがて、彼女の閉ざされた唇が、なめらかに動き出した。
「…だって、そんな必要…ないもの」
「…この間もそのようなことを言っていたね。それはいったい…どういうことなんだ?」
士は以前、星空を見つめていた彼女と会ったときに同じ答えを聞いていた。「まだ時間はあるから、急いで殺す必要はない」と。
…その言葉の意味を図りかねている。…だが、彼女の次の言葉がその答えになった。
「…私、そんな命令は…受けて、いない、わ。…出撃命令も、出て、いない、の。…だから、あなたたちを…今、殺す必要なんて、ない」
「命令…?…そ、それじゃあ、お前は…今まで、トカゲ野郎どもにそんな命令を受けていなかったから、
おいらたちを殺さなかったって言うのかよ?!」
ムサシが問い掛けるその声に、エルレーンはちょっとだけ首をかしげた。
「…ん…それだけじゃ、ないけど…」
そうつぶやきながら、軽い微笑を浮かべた。
「…その命令がない限り、俺たちを殺すつもりはない。…そういうことなのか?」
ハヤトが問うた。
「…そうよ。…だって、あなたたちの、ゲッターロボも…あなたたちが乗って、命令しなきゃ、動かない…し、戦わない、でしょう?」
にっこりと笑ってエルレーンはそういった。
が、次の瞬間…彼女の表情が、まったく消えうせた。
能面のような無表情…何の感情も浮かべないものにかわる。
…その変化、寒々しいその表情にゲッターチームは一瞬、ぞっとする寒気すら感じた。
「そうよ私『兵器』だものゲッターロボやメカザウルスと同じ」
その言葉は異常になめらかに彼女ののどからすべり出てきた。
今までつっかえつっかえ、むしろ軽くどもりながら一生懸命言葉を紡ぐ話し方…それは小さな女の子のような話し方…をしていたのが嘘のように、
そのセリフだけが異常になめらかに発音された。
まるで脳内、精神の奥深くにすら消えぬようくっきりと刻み込まれていたかのように。
「…!」
そのセリフが、昨日ミチルが聞いた言葉の意味をはっきりと裏付けていた。
「…へ、『兵器』って…!」
ムサシが、困惑しきった様子で、それでも彼女に向かって言う。
「お、お前は…『人間』じゃねえか…!」
「…?」一瞬、彼女がきょとんとしたような表情を浮かべる。…が、すぐに彼に向かって微笑み、なおも言った。
「そうだよ?…だから『兵器』なんだよ?」
彼女はそういった。こともなげに。
「…!」
ムサシはもはや言葉もなかった。
…この女が、エルレーンが恐竜帝国でどんな扱いを受けているか…目に浮かぶようだった。
それはハヤトもミチルも、博士も同じだった。…ただ、リョウが、リョウだけが、不信の視線で彼女から目を離さない。
「…だから、お願い…メカザウルスにのっていないときは…出撃命令が、出ていないときは…私、あなたたちを、殺したりしない…だから」
エルレーンの口調に哀願の色が混じる。ふっと哀しそうな顔をして、ゲッターチームを見つめる…
「お願い…私に、戦いを仕掛けてこないで…私、地上では、戦いたくないの…ここは、とても…キレイな、場所。ここにいる間は、私…戦いたく、ない」
「…!よくもそんなセリフが吐けたもんだなァッ!」
とうとう我慢しきれなくなったのか、リョウが彼女に向かって怒鳴りつけた。
「り、リョウ!」
「リョウ君!」
ムサシやミチルがまた止めに入る。
だが、今度は彼は二人を引き離し、エルレーンに指を突きつけ、糾弾するようになおも憎しみを込めて言い放つ。
「…貴様ら、恐竜帝国が!俺たち人間の世界に何をしてきた?!貴様がキレイだと言うこの世界に、何をしてきた?!」
「リョウ、私…」
「うるさい!お前は俺たちの敵だ!…ゲッターの、『人間』の敵、恐竜帝国のパイロットなんだ!…俺は、絶対にお前を許さない!」
ぎりぎりとエルレーンを睨みつけるリョウ。その眼には、彼女に対する嫌悪と憎悪が燃えている…
「…」エルレーンは絶望したような瞳でリョウを見る。自分のオリジナル。同じ顔、同じ姿をした青年、流竜馬を。
「お前が命令を受けていようがいまいが関係ない!…今、ここで…お前に引導を渡してやる!」
そういうや否や、彼は窓ガラスめがけて駆け出そうとした!
「リョウ!…お前、少し落ち着けよ!」
慌ててハヤトが彼の前に立ち、リョウを押しとどめる。
「どけよハヤト!」
「リョウ…!…お前、ちょっとおかしいぞ!どうして…どうして、エルレーンに対してだけ、お前…そうなっちまうんだ?!」
ムサシがとうとう…今までリョウに対していえずにいたことを口にした。
それを耳にした瞬間、途端にリョウの顔色がさあっと青くなる…極度の怒りで。
「どうして…?…どうしてだと?!決まっているだろう!…自分の…クローンに、コピー野郎に…好き放題されているんだ!腹が立たないはずあるかよ!」
もはやそれは絶叫に近い。ミチルや博士は半ば怯えたような目で、彼の変貌振りを見ている。
エルレーンに対する憎しみで錯乱するリョウ…そんなリョウを、ハヤトとムサシが必死に抑えている
(そうでもしなければ、今すぐにでも彼はガラスを叩き割ってエルレーンを殴り飛ばそうとするだろう)。
「触るな!どけっ!」
「お、おい、リョウっ!」
ムサシとハヤトは制止を振り切ろうとするリョウを必死に押しとどめる。
…その時だった。涼やかな声が…窓ガラスの向こう側から、響いてきた。
「…また、私を…かばって、くれる…の?」
「…?!」
ふっともつれあっていた三人が、同時にそちらに目を向けた。エルレーンが、まっすぐな瞳でこちらを見ている。
「この間も…私を、リョウから…かばってくれた、よね。ハヤト君、ムサシ君…どうして…私を、かばってくれた…の?」
「…」
無言のハヤト。そう問われても、返す言葉が見当たらない。
あの時はなんとなく…本当になんとなく、リョウのやっていることに賛同できなかったのだ。いくら「敵」に対するリョウの、あの行動が正しくても…
感覚的にそれを認められなかった。それを言葉にして説明することは…難しい。
それはムサシも同様らしく、困ったような顔をして、ただエルレーンのほうを見て、軽くあいまいに笑った。
「…ハ虫人なら…きっとそんなことは、しない…きっと、ムサシ君や、ハヤト君は…『人間』、だから…」
ぽつりぽつりと言葉をつなぐエルレーン。
透明な瞳が、意味ありげに輝いている。
「ふふ…『人間』…おもしろい、ね…」そういって、二人に微笑いかけるエルレーン。その何の邪気もない微笑に、一瞬二人は見惚れた。
「…お前ら…!」
それに気づいたリョウが非難の目を向ける。二人は慌てて取り繕う。
「今日は、だから…ハヤト君と、ムサシ君に…お礼を、言いにきたんだ……ありがとう、ハヤト君、ムサシ君…☆」
そしてにっこりと彼女は笑った。
「れ、礼…?!」
「…」
その笑みを向けられた二人は、ぽかんとそれを聞く。
「…それじゃあね、バイバイ!ゲッターチーム!」
急に明るくそういい残し、エルレーンは一気に高速ホバーバイクのアクセルをふかす…
振動と爆音が窓ガラスをビリビリとふるわせる。
「!ま、待てッ!」
リョウの制止の声も当然聞かない。彼女は最後に彼らに微笑みかけ、ふいっと背を向けて高速ホバーバイクを発進させた…
あっという間にその背中は小さくなり、点になり、そして空にふっと消えてしまった。
「…」
しばらく、無言のまま彼女が去った方向を見つめるゲッターチーム…と、リョウが不機嫌そうに身をひるがえし、司令室から出て行こうとする。
「お、おい、リョウ!何処行くんだ?!」
「…うるさい!俺が何処へ行こうと勝手だろう?!…今は、お前らの顔も見たくないぜ!」
ムサシがその背中に声をかける…
だが、ぴしゃっと鞭でうつようなけんもほろろな答えが返ってきただけだ。
そのままハヤトやミチル、ムサシがその冷たい態度に呆然としている間に、彼はさっさとその場を離れてしまった。
「…なんだよ、あいつ…」
「エルレーンが相手になると、あいつ…本当にブチキレちまうんだよな…」
ムサシとハヤトが顔を見合わせ、重苦しい声でそういいあった。
「…確かに、リョウ君は…ちょっといきすぎかもしれないわ。…でも!」
いったん彼らに同意しかけたミチルであったが、最後の一言を口にすると同時にその目つきがきっと鋭くなる。
「…あなたたちだって責められてもおかしくないんじゃないの?!…せっかくあの人を捕まえたってのに、どうして逃がしちゃうのよ!」
「だ、だからぁ、ミチルさん、オイラたちがあいつを逃がしたんじゃないってば〜!」
しどろもどろになりながら弁解するムサシ。腰に手を当ててなおも二人を詰問するミチルを、博士が優しく押しとどめた。
「まあまあ…どちらにせよ、彼女は…嘘は言っていなかったと思う」
「…」
「あいつを信用するんですか、博士」
「ハヤト君、君もそうは思わなかったかね?」
「ん…まあ…」
あいまいにハヤトは答えた。
…確かに、あの女の様子からは、彼女が意図して嘘を言っているわけではなさそうだ。
…だが、敵地にいながら、敵パイロットに手も下さず敵の情報を奪うわけでもない…そんなことがありうるだろうか?
「…つまり、地上にいる間は…彼女は我々に手出しをしてこない、ということなんだろうか」
「でも、お父様…あの人が私たちに近づいてくるのよ?」
「…うむ…何故だろうな…?」
博士は頭をかきながらしばらく考え込む。だが答えなどでてきはしない。
「エルレーン…よくわかんねぇ…!」
ムサシが嘆息した。
わざわざあいつは、あのときの礼を言うためだけに…ここに来たのだろうか?
そして、彼女の残したあの言葉。
恐竜帝国の「兵器」…唐突に現れた少女、エルレーンは来たときと同じく唐突に姿を消し、彼らの心に今まで以上の疑問を残していった…


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