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vsゆどうふ 第1試合  <vsゴキブリ>


奴等ほど人類に意味もなく忌み嫌われている存在はない。奴等の名はゴキブリとゆう。

だが同じにそれは今や家庭の台所を占拠する彼らにとっては好都合としか言いようがないだろう

何しろ奥様がたは奴等を見ると、必ずといっていいほど言い知れぬ恐怖を覚え、声なくそこにたたずむばかりと
なってしまうからだ。

だが人類の英知を片手に戦うことも可能ではないはず。そう、今こうしている間にも何人もの戦士が
あの台所を戦場として奴等と戦っているのだ。

そして、今から述べる物語も、そんな戦いの記録の一つである。


それはある晴れた夏の日であった。おりしからの猛暑にうだりながら私ゆどうふは怠惰な一日をすごしていた。

ふと尿意を覚えた私は手洗いに向かった。先ほど飲んだアイスカフェオレが効いているに違いない。

いつもどおりにトイレのドアを開けた瞬間、私は奴を見た。そう、奴だ!!

ゴキブリはその細い触覚で私のことを感知したらしく、その動きをぴたりと止めた。リノリウムの冷たく光る床に、

てらてらとした背中を見せて奴は私にガンをくれた。

私もまた動けずにいた。その狭く区切られた空間の中、奴が占領をしている中にどうやって入っていけと

ゆうのか。私は奴がただ早くそこから去ってくれることだけを祈っていた。

アイスカフェオレは以前自己主張を続けている。

きっかけは、永遠ともいえるくらい長く感じた静寂の後に突然訪れた。

先に動いてしまったのはうかつにも私であった。それは微妙な一歩であったが、

奴を驚かせ、行動を取らせてしまうのには十分であった。

アイスカフェオレの無言の脅迫に耐えかねた私はトイレの中に一歩大きく前進した

戦場のパワーバランスが大きく崩れる。

その時、奴は思いもかけない行動に出てきやがったのだ。

奴は敵たる私の方へとすばやいダッシュを見せたのだ!

私は、その刹那、左の足の甲に昆虫類特有のとげとげした感触すばやく何かが触れていく感触

両方を感じていた。そして世界が歪む。くるりと反転する。私はそんな時にも自己主張を続けるアイスカフェオレを

憎たらしいと思った。


それからだ。私はキンチョールやハエタタキなどで奴等に応戦する気力すら失った。

そう、もはやあのトラウマを抱える私にできることは、ひたすら罠を仕掛け、奴等がかかるのを待つことしかない。

私は奴等に敗北した。それは、あのいやな感触とともによみがえる、あの暑い日の記憶でもあった。