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【五千円以内で幸せになる方法】
4 宝石達と人間
人は自然を客観的に見ることができるようになった。
その瞬間から、「美しい」という心がこの世界に生まれた。
そしてそれを我が手にしたいという欲望も。
こんな前フリをして私がこれからお話しする次なる「幸せになる方法」は
「光る石」である。
...むむむ!!今これを見た男性の97%は鼻で笑ったと見た!
ちょ、ちょっとお待ちくだされ殿ォ!
今回私はあなたのような方々のためにこの提案をするのです。
ままま、ほんの1400文字くらい。
十分くらいですよ、しばしのおつきあいを…
まあそう思われるのもしかたないといったところだ。
なにしろ「『宝石(という名前のついたちっちゃい石ころ)』」に狂喜乱舞し、
時には自分の誇りの拠り所にすらする女性」というのが
余りにも図式化され、嘲笑の対象とされているのだから。
あなたはこうおもうかもしれない。
なぜだろう。
あのナポレオンを享楽と波乱に追いやった伝説のホープダイヤモンドの例にしろ、
いくら突き詰めて考えてもそれは石ころでしかない。
では何故人はそのような石ころに心奪われ続けているのか?
ダイヤなんてあんな固いもの削る気力があるくらいなら
自分の虫歯でも削ってりゃいいし、
第一岩からでてきた「ちょっとめづらしい石」にたいして何なんだその珍重ぶりは。
ビロードのフトンに寝かせたり、頑丈なシェルターで守ったりと
まるでどこかの姫君のような扱い。
んなもんより俺っちのほうを珍重していただきたい!
是非ビロードのフトンに寝かせてもらいたいッ!
そのような貴殿の訴えにも関わらず、残念ながら
やはり人間はこれらの色とりどりの石に心踊らせ続けるだろう。
その証拠を示せといわれるのならば、
私はおそらく貴殿を宝石店につれていくと思う。
そして一つのダイヤモンドの指輪をあなたに渡し、『じっと見つめる』ように命じるのだ。
すばらしい−ブリリアントカットと名付けられた手法によって
切り取られ磨かれたダイヤモンドは、あなたに対しなんにも誘惑を仕掛けてこない。
ただ、ただきらめく光の反射をちらちらとあなたに返すだけだ。
ひっくりかえしたりすかしてみたり、水につけてみたり…
いろんなことをするうちに、きっとあなたにも感じられるようになるであろう。
それは、光の凝縮した形なのだ。
目に見えぬ光のエネルギーを極限まで集め−あの石になる。
すべての宝石がそのような自然の凝縮したかたちであると言える−すなわち、
荒れ狂う炎の化身、ルビー。
深海の海、サファイア。
大地の守り、トパーズ。
森の絶えざる緑、エメラルド。
金色の星抱く、ラピスラズリ。
−私たちをぐるりと取り囲む自然の魂を
その光る石にして掌の中に握っている。
人が何故これらの小さな石に引きつけられるかの答えはここにあるように思われる。
自然を「美しい」と感じることができ、またその能力を持った人間が、
まるで自分の偉大さを見せびらかすように
炎の赤、海の蒼、大地の黄色、草原の緑、あらゆる自然の力を掌中に置く、
その尊大さ、甘美さに我々は強く引かれるのではないか?
金持ちや権力者が所有したがる理由もここにあるのではないか?
…新渡部稲造一人ではイミテイションしか買えはしない。
だがその含むところは同じである。
この世界を統べ自然すらこの手におさめんとするヒトの、
まさに権力の証。
イミテイションであればさらに事態は複雑になる。
それはつまり「自然を模したモノ」であるからだ。
人間は、ついに疑似的な自然すら作り出してしまったのだ。
幼い子供が無邪気に笑いながら大人ぶってつけるニセ指輪にも、
もうそれがあらわれている−まさに、神をも恐れぬ行為ではないか。
話が大ピロシキ、いや大ブロシキ過ぎたであろうか。
しかしどうぞ心に留めて置いて欲しい。
古来よりやはり「光る石」は人間の「権力」の象徴だったのだ。
そして手にしてみてほしい。
イミテイションの権力を。
そしてその静かな背徳の悦びを。