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映画クレヨンしんちゃん・ヘンダーランドの大冒険
〜薄皮一枚隔てつつも、現実とファンタジーの世界は交錯する〜


I am Toppema, I'm your servant
But, how useless I am! I cannot do anythin'
'cause I am just a doll, I'm just a small Muppet...

(私はトッペマ、あなたのしもべ
だけど何にも役にはたたない
だって、私はただのマペット)

幼稚園の遠足でいった「群馬ヘンダーランド」。みんなからはぐれたしんのすけが迷い込んだサーカスのテント、そこから物語は鳴動する…
魔法・ファンタジーが主題な今回の映画、クレしんならではの濃ゆい魔法使いが大活躍!
なにしろ大ボスは、「おカマ魔女」の、「カマオとジョマ」だッ(笑)!(←そのまーんま!)
相変わらずぶっ飛んでてステキ、それじゃあ見所にヒヤウィゴー!

ヘンダーランドに遠足に行ったふたばようちえんの子どもたち。
あの風間君がこのテーマパークのマニア(笑)という事実で観客を驚かせつつも、のんびりのほほんとした遠足の描写が続きます。
それは、まったくといっていいほど変わらない、日常の風景…ですが、それも少しずつ変わっていきます。
みんなからはぐれてしまったしんのすけ、一同を探して園内を歩き回るのですが…
(これらのシーン、シーンが移り変わるごとにだんだんと「影」の部分が濃くなっていきます。それはあたかも、ファンタジーの世界が現実世界を侵食していくかのように…)
入り込んだのは、薄暗いサーカステント。その中で見つけた、「お姫様」の「人形」…
しんのすけを見咎めた男、クレイ・G・マッドは言います:
「しんちゃんだけに、特別にもっと面白いものを見せてあげよう」
…それは、ステージで歌い踊る女の子の「人形」…彼女は歌う、無表情に歌う、そして踊る。
「私はトッペマ、あなたのしもべ
だけど何にも役にはたたない
だって、私はただのマペット」

しかし、突如調子がおかしくなる人形…が、しんちゃんがぜんまいを巻いてやると、彼女は自分の意思を取り戻した!
彼女の名は、トッペマ・マペット!
彼女は、しんのすけをここに連れてきた男が悪のおカマ魔女の手先であり、彼らはしんのすけの世界をのっとろうとしていると訴えます。
一方の男(クレイ・G・マッド)は…こういって片付けようとします:
クレイ・G・マッド「おもしろいだろう?こういうアトラクションなんだ」
トッペマの言葉は、ファンタジー。クレイ・G・マッドの言葉は、現実世界のモノ。
その両者が同時に突きつけられているこのシーンは、まさにファンタジーと現実が薄皮一枚のところで肉薄している様を見せています。
普通の人間ならば、クレイ・G・マッドの言葉、つまり現実のほうを選ぶ…そして、何ら変わりない日常を歩んでいくものですが…
ですが、しんのすけはこういって、ファンタジーと現実との壁をぶち破ります!
しんのすけ「オラ、トッペマのいうことのほうを信じる!」
そうきっぱりと信じた理由…これがまた武張ったモノではなく、いかにもしんちゃんらしくていいです
理由:トッペマがかわいい女の子の「人形」だから(笑)

クレイ・G・マッドは本性を現し、狼となって襲い掛かる!
だが、彼を打ち破ったのは…「スゲーナスゴイデス」のトランプ!
しかし、クレイ・Gを降しても、第二の刺客が現れる…
ぷりぷりのおねいさん、チョキリーヌ・ベスタ。
おねいさん好きのしんのすけをまんまと篭絡し、人質としたチョキリーヌ…トッペマを滅し、勝利の高笑いをあげます。
責めるしんのすけに、彼女はこう言い放ちます…
チョキリーヌ・ベスタ「…どお、おもしろいでしょ?こういうアトラクションなのよ」
混ざりこんだファンタジーの世界を、この言葉で一気に追い出し、まとめてしまい…しんのすけは、再び現実世界に放り出されます。
遠足も終わり、家に帰り、家族と過ごし…いつもどおりの、平和な日常。
だが、しんのすけのこころのなかには、彼女のことがいまだ残っていた…
一人風呂につかっていた彼の口から、こんな呟きがもれて出る。
しんのすけ「…しょうがない、よね…」
つまり…いまだ、ファンタジーに片足を突っ込んだままである彼。
そんな彼の前に、トッペマが再び姿をあらわした!
「スゲーナスゴイデス」のトランプをつかえるのは、ハートのある人間…自分とともに、おカマ魔女と戦ってくれ、と!
再びしんのすけに突きつけられる、ファンタジー世界からの招待…いや、これはむしろ非情なオファー
しんのすけ「だって!…だって、オラ…怖いもん、弱虫だもん」
そうつぶやき、彼女の望みをはねのけます…
このへんも、彼が「たった5歳の幼稚園児」という事実を描き出している。
失意のトッペマは、しかし…彼に、最も大切なモノを託しました。
「スゲーナスゴイデス」のトランプ。脱衣所のかごに置いていかれた、ファンタジー世界の産物。
しんちゃんは、それをおもちょばこ(間違いではない)に放り込み、知らないふり、気づかないふりを装う…そして、現実世界へと帰ろうとする。
だが、明らかにそのトランプは、彼の現実世界の中で鈍く異様な光を放っているのだった。

そして、そのトランプのように。
ファンタジー世界の「悪」もまた、しんのすけを離してはくれなかった…
放たれたのは、ス・ノーマン・パー。クールでニヒル、だが装う仮面はフレンドリー…なんとも恐ろしい、雪男。

このス・ノーマン、しんのすけに近づくため、ふたばようちえんに「教育委員会の人間」として入り込んできます。
そのための書類すら、ちゃんと園長先生に提出して。
ファンタジーのキャラクターが、現実世界のシステムを利用して侵入を果たしているのです。
しんのすけはトランプのことを口にしたス・ノーマンが「悪者」だとようやく気づき、かすかべぼうえいたいのみんなやみさえにそれを必死で言い募るのですが…
しかし、誰も彼の味方にはなってくれません。
みさえは「幼稚園の先生」であるス・ノーマンを完全に信用しきり、家に上げ、食事までご馳走しています。
息子のしんのすけが「あいつ悪い奴なんだ!」と必死に言っているにもかかわらず。
そう、忘れそうになるけれども、しんのすけは…しんのすけは、まだ、たった5歳の幼稚園児なのです。
だから、無力。彼には何も出来ない…ただ暗く黙り込み、危険な侵入者と決して目をあわさない事くらいしか出来ないほどに。

深夜、静まり返った野原家…みさえとひろしを眠らせ、本性を現したス・ノーマンが、とうとうしんのすけに牙をむきます。
だが、こちらには「スゲーナスゴイデス」のトランプがある!
彼がその魔法で呼び出したのは…おなじみ、アクション仮面!カンタムロボ!…ぶりぶりざえもん(笑)
明らかに役に立たないのが約一名。
だが、「家が壊れるかもしれないけど」強力なカンタムのパンチも、「火事になるかもしれないけど」強力なアクションビームも、ス・ノーマンにはまったく聞かない!
そこで、四人は知恵を出し合って新たな戦法を考える!
「作戦たーいむ!」「…認める!」の掛け合いが、敵同士ながらほほえましくてよい(笑)
まあ、最初の連れション作戦は失敗しといてよかったとして(笑)
二回目のおしくらマンジュウ作戦で、彼らは何とかス・ノーマンを撃退します。
「熱い…こいつら、熱いぜ!この熱気、がむしゃらなパワー!」
そのがむしゃらさは、彼に何かを思い出させようとしますが…ですが、その前にス・ノーマンは身の危険を感じ逃げ去ります。

ス・ノーマンは、しかしながら、やはり策士…ヘンダーランドの無料券を置き土産においていくのです。
何も疑うことなく、しんのすけを連れ、ヒロシとみさえはヘンダーランドに向かってしまいます…(ここでの描写、しんのすけとひろしたちのムードのギャップがすさまじいです)
だが、静かに罠は彼らを確実に捕らえ…ひろしとみさえは人形にすりかえられてしまいます!
しんのすけは危ういところでトッペマに助けられますが…ですが、父母が彼らの手にかかってしまったことは事実。
とうとう、怖がっていた彼も覚悟を決め、戦いに赴く決意をします。
「オラ…オラ、父ちゃんと母ちゃんをお助けにいくぞ!」
明日の夕方、ヘンダーランドの前でトッペマと落ち合う約束をし、彼は戦いへの準備を進めます…
腹ごしらえをし、カードを素早くだすトレーニングすらするしんのすけ。
たった一人で電車に乗り、ヒッチハイクをし…神妙な顔つきをした今の彼には、普段のふざけた部分などどこにもない。
その姿は、まさに悲壮。
無力な、あまりに無力な…たった5歳の幼稚園児が。
親を救い悪を打ち倒すため、たった一人で戦場に向かうのです。
ちきしょう、泣けるぜ。

クレイ・Gを下し、ひろしを取り戻したしんのすけ…だが、そこにあらわれるは魔女・チョキリーヌ・ベスタ!
…以前しんのすけからもらった肩たたき券で疲れを回復して(笑)、彼女はしんのすけたちに襲い掛かった!
彼女を引き離すため、自らがおとりとなって戦うのは、やはりトッペマ・マペット…!
チョキリーヌと激しいドッグファイトを繰り広げるトッペマ!その戦いを制したのは、チョキリーヌだった…!
だが、その彼女をトッペマは身を張って止める…「スゲーナスゴイデス」のトランプの力を借りて、自分ごと彼女を爆砕する!
チョキリーヌ「お前…死ぬ気ッ?!」
トッペマ「…運命のレールを、元に戻すだけよッ!」

このセリフが、胸震わせます…ハートなき人形であろうとも、その自己犠牲と高い使命感は、人間様でもなかなか持てぬ高潔なモノなのですから。
トッペマを失ったしんのすけ…彼の目からは、一筋の涙が。
ひろし「みさえ…今、俺たちの息子が、少し大人になったところだ…」

野原一家が揃い、目指すは一路ヘンダー城!
この映画、面白いのは…クライマックスであるおカマ魔女との対決が、
魔法ではなく…ダンス勝負、ババ抜き勝負、挙句の果てにはガチンコ追いかけっこだということ(笑)
魔法微塵も関係なし!この辺が逆にすがすがしくていい。
だって、正真正銘の魔法使いに、何も知らない一般ピープルが魔法で挑むなんて、面白くないもんね。
バレエと阿波踊りの熱い戦い、ババ抜きでのヒロシの苦悩と歓喜、フェイントありとっくみあいありの追いかけっこ、いいです
(特に追いかけっこ、スピード感がすばらしい)。

マカオとジョマを封印し、力の中枢を失ったヘンダー城は砕け散っていく…!
それはあたかも、天空の城ラピュタのごとく。
そこから命からがら脱出した野原一家を、ただ一人残った魔法使い、ス・ノーマンが襲い掛かる!
だが、復活したメモリミモリ姫の魔法で、彼の全身の雪が解け…そこから現れたのは、見目麗しい王子様。
そう、冒頭の戦いで、おカマ魔女の手によってやられたゴーマン王子…!
(「暑苦しい男っていやあよ」と言われていた彼は、まったく対極のクールガイ<←身も心も(笑)>に姿を変えられていたようです)
平和を取り戻してくれた小さな勇士に礼を述べるメモリミモリ姫…自分の名前を知っていることにおどろくしんのすけ。
ですが、彼女が微笑んで口ずさむのは、あの歌…
そう、その身を閉じ込められていても、彼女のこころはしんのすけのそばにあったのだ…
「人形」の中に!
メモリミモリ姫「…『私はトッペマ、あなたのしもべ…』…うふふ…!」
しんのすけ「!!…トッペマ〜ッ!!」

そして、エンディングはまさに御伽噺の大円団のように…「めでたし、めでたし」で終わるのです。

また、この話に出てくる「魔法」…その魔力の解除コード(リリース・コード)たる「呪文」なんですが、
これは(魔法使いは)全員が全員、自分の「名前」を使っています。
つまり、「トッペマ・マペット」が使う「呪文」は、全て「トッペマ・マペット!」です。
この辺が非常に好きですね。「名前」それ自身に潜む呪術性を感じさせて。…子どもさんにもわかりやすいし(笑)
アフリカのある部族では、自分の本名を他人に知られないように厳重に注意する習慣があると聞きました。
これは、悪い魔法使いに知られると、呪いをかける材料にされてしまうからなのだそうで…
言霊、言葉の力、そして「名前」の魔力。そんなものを感じさせてくれて、好きな設定です。
…だから、大事にしような、自分の「名前」(笑)