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TOP「先生!ゆどうふさんったら案外マニアックなんです!」映画版クレヨンしんちゃん感想集伝説を呼ぶブリブリ3分ポッキリ大進撃


映画クレヨンしんちゃん・伝説を呼ぶブリブリ3分ポッキリ大進撃
〜「正義」の名の下に立ち上がれ 「救う」ためにその強さは存在する〜


しんのすけ「アクション仮面、『正義』ってなに?」
アクション仮面「しんのすけ君、その『答え』は自分で出すものだ
大丈夫…君ならできるよ」

シリーズの中では(名作と名高い「オトナ帝国」とか「アッパレ」の後なので、なおさら)酷評されているこの作品。
ていうかこのシリーズ子供向けだよね、それであってるよね?子どもが楽しんでたならそれでいいよね??
私もはじめ見たときは、途中の中だるみ部分が気になってあまり楽しめませんでした。
しかし、この映画…テーマとなっている「『正義』とは何か」という部分を考えるにつけ、じわじわと効いてくる作品です。

居間の掛け軸から唐突にあらわれた時空調整員・ミライマン。
彼は「3分後の『未来』に現れる怪獣を倒し、現実世界に危害が及ぶのを防いでくれ」と、自分の思い思いの姿に変身できる力を野原一家に与えた。
「正義」を守ろうとする心が強ければ強いほど、強くなる…と。
みさえやひろしも、はじめは面白半分に怪獣退治に精を出していたのだが…
この映画、いちばん個人的にこわかったのが、ひろしとみさえの変わりよう。
彼らは自分の思うままに変身し、怪獣をぶったおし、そして人々から賞賛されまくるという「怪獣退治」という遊びに溺れていくのです。
みさえはボン・キュッ・ボンの美女に変身し(ここのあたり、思い切り彼女のコンプレックスが丸出しなあたりも哀しい)、イケメンたちにちやほやされる。
ひろしは筋肉ムキムキ、足も長〜い(これまた哀しい)ヒーローになって怪獣を倒し、美女にちやほやされる。
…けれど、それは所詮3分で終わる夢。幻想。ありえない「未来」。
それなのに、いや、だからこそ…彼らはその中に埋没していく。
現実世界を放棄して。
みさえ「ずうっと変身していたいわよね…」
ひろし「そうだな…」
そううそぶく彼らは、仕事も行かず家事もせず、ふとんを掛け軸の前にしきこんでそこに一日中待機する始末。
部屋中にゴミがあふれ、家中にゴミがあふれ、そして彼らは子どもの世話すらしなくなった。
「オトナ帝国」でもこのネグレクト(養育放棄)の描写がありましたが、今回は本人たちの心が子どもに戻っているのではなく、あくまで素だからもっとたちが悪い。
おなかをすかせて泣くひまわりにミルクをつくってあげたのは、しんのすけだった。
みさえ「ごめんねぇー、私たち世界を守らなきゃいけないのよ」
(なんてそらぞらしく欺瞞に満ちたセリフだろう!)
そして、しんのすけは二人をおいて、ひまわりをつれて幼稚園に行く…
しかし、彼だって「怪獣退治」にいきたくなかったわけではない。
けれど、それよりも…しんのすけは、自分の「現実の世界」のほうを優先したのだ。
そうして、妹…ひまわりという、自分が守らなければいけない、自分より弱いひとの存在を。
それでも、ひろしとみさえを責められるほど…私たちはご立派だろうか。
何故しんのすけが「現実の世界」を優先できたか、その理由を考えてみると面白い。
彼は、「現実の世界」と「理想の世界」に、大きな差異がないのだ。
つまり、彼は毎日が「普通に楽しい」、だから、理想に逃げるよりも現実を選べる。
二人は、そうではなかった。
果たしてそれは、「子ども」と「大人」の違いなのか―

だが。
そんな日々は唐突に終わる。
ひまわりをつれ幼稚園に向かったしんのすけは、テレビでデパートが突如崩壊したことを知る。
何の前触れも無く…何の原因も無く…
その理由を悟ったしんのすけがすぐさま家に戻ると…そこには、傷ついた両親の姿が。
現れた怪獣は強力だった。彼らは3分以内に怪獣を倒しきれなかった。
その余波が、この現実の世界にまで及んだのだ。
そして、自分たちの力の及ばない怪獣の出現は、ひろしとみさえをとことんまで追い詰めた。
舞い上がっていた二人の幼稚な自信は瓦解し、彼らは布団にもぐりこむ。
そうして、何とか事態が(勝手に)よくなってくれるように、震えながら祈るだけ…
しかし、無常にも怪獣出現のブザーが鳴り渡る。
ひろしとみさえは、動かない。

しんのすけは、アクション仮面とカンタムロボの人形、そして紙に描いたぶりぶりざえもんのイラストを、強く強く抱きしめた。

自分を守ってくれる彼らを、彼らの強さを、強く強く強く強く抱きしめた―

しんのすけ「オラ、行く!!」

しんのすけ「オラ!ひまのステキなお兄様だから!
ひまが女子大生になる『未来』を、怪獣なんかに壊させないから!
強いひとは、弱いひとを助けてあげるもんだからッ!」


しんのすけは、怖じた二人を背に、一人掛け軸をくぐりぬけ、戦場に赴いた。
怪物に蹂躙される、未来の世界に。

その小さな彼の後ろ姿は、ひろしとみさえに何かを思わせた―

そうして、二人も立ち上がる。

ひろし「俺たちは世界を守るヒーローなんかじゃない!
子どもたちに『未来』を生かしてやりたいと思っている『父ちゃん』だ!」
みさえ「『母ちゃん』よ!」

再び戦う意思を取り戻し、強大な軟体生物に立ち向かう二人。
全ての攻撃を無力化する怪物に、二人の力は遥か及ばない。
だが、ふっとばされても、ふっとばされても、それでも二人は挑み続ける―!

しかし、ひょんなことからしんのすけはその軟体生物を倒すことに成功する。
その時、中空に浮かぶ奇妙な繭から、とうとう最強の怪獣が生み出された―!
詳細は省きますが、最後…その怪獣を救ったのは、やはりしんのすけでした。
身を呈して怪獣を救ったしんのすけは、全身ぼろぼろになって―
しんのすけ「…強いひとは、弱いひとを、お助けするものだけど…
強いひとも弱いひともなく、お助けできたら、したほうがいいと思って…」

それだけ、言って。息も絶え絶えになりながら。
みさえの声が、夜闇に響く―
みさえ「あんたなんか、あんたなんか!
どれだけそっくりに化けたって!
うちのしんのすけのほうが何十倍も、何百倍も、何千倍も、何万倍もかっこいいんだからぁーっ!
かっこいいんだからあぁーーーっ!!」


そうして、再び平和になる世界。
ミライマンとの別れの際、しんのすけはミライマンに問いかけられます。
ミライマン「しんのすけ君、君の守りたいモノって何?」

しんのすけがどう答えたか―
ふざけているようで真剣で、彼の実際の勇気ある行動と矛盾しまくっていて、
それでいて嘘ではなく、彼らしくて―

ミライマン「それが君の『正義』ですね」

ミライマン「その『正義』のこころ、大切にしてください」



この「3分ポッキリ」、確かにあまり評判はよくありませんが、私は嫌いではありません。
特に、「『正義』って何?」という言葉は、何度も何度もよみがえって私に問いかけるでしょう。
(そんで、影響されて小説に書く(笑))

それでは最後に、ミライマンから一言。

ミライマン「怪獣とはわがままなもの わがままな者が怪獣になるのです」