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バレンタインに戦争を(2)


今日は、2月にしては温暖で。
あたたかな太陽の光がぽかぽかと地上を照らす。
昼下がりの公園は、穏やかで。
人気の少ない大きめのこの公園には、ただ鳥の鳴き声と…


「…。」
「…。」


不穏な空気が、漂うだけ。
近場の公園へと場所を移した、エルレーンとラグナ。
この時間帯、そしてこの場所であれば、多少のドンパチをやっても問題はなかろう…との算段。
ラグナが背に負うのは、愛用の大剣。
エルレーンが腰に帯びるのは、愛用の長剣。
同じ女(ひと)、同じ剣の師匠に学んだ、敵を屠るための剣術…


だが。
まだ二人は、それを解き放たない。
かわりにひらめくのは、言葉の刃。
張りつめた空間を矢のように飛ぶ、相手の心の臓目掛けて飛ぶ攻撃の石礫。


「…後悔させてやる、馬鹿女」
「ふふん…後悔するのは、どっちかなぁ?」
「くっ…!相変わらず、減らず口だけは達者だな!」


あくまでこれは前哨戦。
しかし、どんどんと語調は険しくなり、台詞の内容も剣呑さを増す。


「そのやかましい口、無理やりにでもふさいでやる!」
「出来もしないことを言うのは、ラグナの悪い癖だねぇ!」
「何だとッ?!」


同じ女(ひと)に学び、同じ女(ひと)に憧れ、同じ女(ひと)の影を追った…
だからこそ、この二人も同じ時を長く過ごしてきたということで。
すなわちそれは兄妹のようでもあり、お互いの強みも弱みも知り尽くしているということで―


だから、二人の口撃は。
お互いの最も大きなコンプレックスを直撃するような、それはそれは遠慮のない、えげつないものだった。


▼ラグナのこうげき!
ラグナは あしざまに エルレーンを ののしった!

「死ね!!貧乳ぺたんこヲタク娘ッ!!」

つうこんのいちげき!
エルレーンは はぅはぅふるえて はんなきだ!



「はうっ…?!」
かっ、と目を見開くエルレーン。
ふるふると震える長いまつ毛、透明な瞳がはかなげに揺れる。
「貧乳」そして「ぺたんこ」という単語が、彼女の精神をマッハの速度で貫いた。
反射的に、その部分を隠すかのように自分を抱きかかえたのは、おそらく防衛反応…
そう、それは事実、残念ながら事実。
どれだけ雑誌で見たエクササイズをがんばっても、牛乳飲んでもマッサージしても平らなまま変化がない、それが事実。


けれども。
事実だからって、本当のことだからって、口に出していいわけじゃない―
涙目の少女は、きっ、と青年を鋭く睨み付け、大声を張り上げた!


▼エルレーンのこうげき!
エルレーンは あしざまに ラグナを ののしった!

「うるさいッ!未来永劫非モテ騎士ッ!!」

つうこんのいちげき!
ラグナは はぅはぅふるえて はんなきだ!



「ぐうっ…!」
息を呑み、言葉を失うラグナ。
よろり、と半歩後ろにくらめいてしまったのは、ショックの大きさのあまりだろうか。
「未来永劫」と「非モテ」のコンビネーションが、どうしようもなく彼を傷つけた。
整った顔立ち(でも無駄)を苦痛に歪ませて、均整のとれた、戦士として恵まれた長身(でも無駄)を悲痛によじらせて。
そう、それは事実、残念ながら事実。
今の今まで彼女と呼べる人もなく、そしてそれに鬱屈し、周りの人間にもそれをからかわれ続ける…
それは事実。


けれども。
事実だからって、本当のことだからって、口に出していいわけじゃない―
涙目の青年は、きっ、と少女を鋭く睨み付け、大声を張り上げた!


「だ、黙れッ…今日こそ貴様を成敗してくれる、覚悟しろおォッ!!」
「馬鹿!馬鹿!ラグナのばかあぁぁ!!」


お互いコンプレックスをえぐられて半泣き状態の兄弟子と妹弟子は、己の得物を手に―
相手に、同時に飛び掛かった!


 
 イラスト…影都カズヤ様