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Always watching you!(2)


(こ、これはひどい…なの!
この1週間のメニュー、コンビニごはんとおさけとスイーツしかないの!!)
コツコツつけてきたノートをぱらぱらとめくるエルレーン、驚愕の事実に目を丸くする。
エルレーンが手にしたこのノート…
その名も「非モテ騎士かんさつにっき」という、あまりにもむごいタイトル。
しかも「No.6」と番号も書いてあり、このにっきの歴史の長さを思わせる。
エルレーンは、文字通り彼を陰からずっと見守ってきたのだった…
何しろ、あんな性格だから。
涼やかな整った顔立ちをしていても、鍛え上げられた肉体が力強くたくましくても、女が寄ってこないどころか接点すらなく。
その上彼の生活は、正直「だらしない」のひとこと。
洗濯はかろうじてやるものの、「誰も自分以外に見る人いないし…」とばかりに部屋は荒れ放題。
輪をかけて悪いのが、食生活。
料理をしないでコンビニ頼り、酒は浴びるほど飲む上に甘いものもガツガツ喰う、というよりむしろお菓子で栄養を取ってんじゃないか?と思いたくなるくらいのレベル。
まさに「ダメな一人暮らし男の見本」と言っても過言ではない。
そんなわけで、彼がそのでたらめな生活で身体を壊さないかどうか、逐一彼女は見張っているのだった…
そして、この1週間は特筆すべきひどさ。
コンビニでチンしてもらうタイプのチャーハンとかパスタとか、チョコレート1箱とかで一食すますけしからん日もあるほど。
空き缶を入れるゴミ袋がどんどんぷくぷくにふくれていくほど酒も飲み…
「…さすがに、放っておけないの!」
ぱたん、とノートを閉じたエルレーン、その表情には強い義務感。
非モテ騎士が糖尿とか痛風とかになってしまう前に…彼に、ちゃんとした食事をさせなくては!
特に、野菜…野菜を食べさせなければ、ビタミンとかをとらせなければ!
「…」
さいふを開き、所持金を確認する。
この間依頼でもらったお小遣いがまだたくさん残っている…月末に出る「キャッチザスカイ」のDVD用には先にとってあるし、問題ない。
「…よし」
ふわり、少女は空を舞う。
そのまま音も立てず、猫のように軽やかに地面に着地。
くるり、と踵を返し。
少女は一目散に、近くのスーパーに向かうのだった。



だが。
自分自身は寮生活で、おさんどんは食堂のおばちゃんに作ってもらう甘え切った生活をしているエルレーンの考えは浅い。
自炊をしたこともない彼女のやさしさは、どういう形になってあらわれるかと言うと…



「うおっ…」
そろそろまたコンビニに行って、食事と酒を買ってこようか…
出かけようと玄関を出たなりそれを見たラグナの口から、思わずもれた驚きの声。
…ドアを開いたその横に、ちょこん、とおかれた段ボール箱。
(ま、またか…紫のバラの箱ッ)
ごくり、と息を呑む。
このまま置きっぱなしにはできない…とりあえず、家の中に持ち込む。
今回もやはり例のごとく、箱の上にはメッセージカード…

「野菜 喰え!!」

単刀直入なメッセージのわきには、いつもどおりに「紫のバラ」という謎のイラストが添えてある。
(注:もちろんこれは差出人による「国民的演劇マンガ」のオマージュなのだが、マンガとか読まないラグナには普通に意味不明である)
段ボールを封しているガムテープをはがし、開けてみると…
「はあぁ…」
今度は、情けないため息がはっきりと音を為した。
箱の中には、にんじんが2、3本。そして、大きいキャベツが1玉ずどーんと鎮座している。
またか。そして、今度はよりにもよってキャベツが丸ごととか…
月に1、2度ほど唐突に玄関前におかれるようになった、この不審な贈り物。
つけてくるメッセージから、誰かが自分の不節制を心配しておいてくれているのだと推測するが…
少なくとも毒が入っている様子もないし、今までもそんなことはなかった。
言うなれば善意100%、そこまで自分の身を案じてくれている人がいるということはとてもありがたいことだ。
…だが。
第一誰なんだ、こんなことをするのは?
それに何故自分が野菜不足だとか知っている?
自分の生活スタイルを把握していると言うのか?何のために?何のために?
正体不明の誰かから贈られるそれは、正直なんとなく怖いし気味が悪い。
それに、何より…
(こ、これを、どうすればいいというのだ…この私に!)
そう、ラグナ・ラクス・エル・グラウシードは料理が不得手なのだ。
自炊ができていれば、初めからコンビニめしばかりになど頼りはしない。
そんなレベルの彼に「食材」だけをどーんと置かれても、どうしていいかわからない。
…その上、キャベツが1玉!
4人家族でさえキャベツ1玉を消費するのに相当苦労するのに、一人暮らしの男がそれをできようか…!
だが捨てることなどできない…農家の方々が手塩にかけて作ってくださった野菜を無駄に捨てるなど!
律儀で真面目な男には、そんなことはできやしない…
そうすると、彼に残された道はそれを「食べる」ことしかないのだが。
(ううっ…これで3日は野菜炒めばかりの日々だ)
絶望感に打ちひしがれながら、重い重いため息を吐く。
とりあえず生で喰うか、あとやれてもラグナにはフライパンで炒めるのが関の山。
これからしばらく続く野菜地獄を思い、独り身の非モテ騎士は意気消沈するのだった。

 
 イラスト…くさかべ とくや様