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Always watching you!(1)


『…泣くな、エルレーン。…きっと、これも、運命、だろう』

『私は、ここまでのようだ。…お前のせいじゃない、泣かないでくれ…』

『戦うんだ、エルレーン。戦って、生き抜くんだ』

『それから、ラグナを…あいつを、支えてやってくれ』

『あいつは、真っ直ぐだ。だが、だからこそ、容易く壊れる』

『だから…おまえが、たすけてやってくれ』

『頼むぞ、エルレーン』



『わたしの、ぶんまで。つよくいきろよ、エルレーン』



そう言い残して、あの女(ひと)は死んでしまった。
…だから。
私は、その言葉通り…彼を、支えなくちゃいけないんだ。



たとえ、彼の大剣が私を殺すとしても。



(もう…また空き缶いっぱい転がってるし!)
ふん、と鼻を鳴らすエルレーン。
双眼鏡から覗く先には、そうこうしているうちにまた新しい発泡酒の缶(ビール、ではないあたりが哀しい)を開ける男が見える。
「まったく、これで5本目なの…しかも、まだお昼過ぎだし!飲み過ぎにもほどがあるの」
小声でぷんすか怒りながら、左手で開いたノートにカウントマークを追加記入する。
(それに、あのこたつの上のは…ううっ、またソーロンのクリームガン盛りデカプリンなの!
おとついも食べてまた食べるとか、中毒にもほどがあるの!そのくせごはんちゃんと食べないし…!)
さらに細かく室内の様子を注視、発見したブツにまたも眉根を寄せる。
そして、さらに何やらノートにメモ書きを加えている…


さて。
今、エルレーンという名を持つ少女がいるのは…道路に立っている電柱である。
公共物によじ登った制服姿の彼女は、双眼鏡片手に少し離れた場所に立つ質素なアパートの一室をつぶさに観察しているのだ…
どう見ても不審者です本当にありがとうございました。
しかしながら、愛らしいその不審者は、そんなことなど気にする風もなく熱心に作業を続けている。
双眼鏡が狙うのは、そのアパート、その二階の、端の部屋。
いまいち危機管理意識が薄いのか、たいがいの時間帯でカーテンを中途半端にしか閉めていないその部屋は、とある残念イケメソディバインナイトの根城である。
ターゲットの名は、ラグナ・ラクス・エル・グラウシード…
エルレーンのれっきとした「兄弟子」であり、そして今は彼女の生命を執拗に狙ってくる敵でもある。
彼と彼女の剣の師匠は、清廉たる女(ひと)だった。
二人は彼女に心酔し、陶酔しきっていた。
けれども、その女(ひと)がエルレーンを天魔よりかばってそのいのちを散らした時から…二人は、道を別った。
ラグナは、エルレーンを憎み呪い、その怒りの矛先を一直線に向けたのだ…
「先生が死んだのは、お前のせいだ!」と。
だが、そう罵られたとて…エルレーンに何が出来ようか?
ラグナは彼女の言葉を一切聞きもせず去った、だから弁解することすらできなかった。
憎悪の塊をぶつけられ、嫌悪の石礫を投げられて、ただ涙を流すことしかできなかった。


…それでも。
エルレーンは、思った。


あの女(ひと)は言った、それは言霊。
あの女(ひと)は言った、それは遺言。
あの女(ひと)は言った、それは命令。
ラグナを支えろと、一本気ではあるがそれ故に御しやすく、ともすれば闇に落ちかねないほど純粋な彼を。
ラグナを助けろと、自分を師匠の仇として狙い、その大剣の切っ先を向ける兄弟子を。


彼の敵意や怨念は強すぎて。
最早、まともに自分と話すらしてくれそうもない、あの騎士。
だからエルレーンは思ったのだ。
影のように、無きがごとく。
風のように、目に見えず。
そっと、気づかれぬよう、彼を支えていこう、と。
それがラグナにわかってもらえなくてもいい、そんなことなど望んでいない。
ただ、彼を護ってあげられれば―

聖女のような自己犠牲。
少女は、決して報われることのないその苦難を、自ら選びとったのだ…