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同じ碧の髪、赤い瞳 同じ燐光、同じ道(4)


「これで、仕舞だ!」
真紅の斬撃が、狼に吸い込まれ―
そして、空間を引き裂くほどの耳障りな絶叫と共に、血なまぐさい悪夢は終わった。
動かなくなったそれに最後に冷たい視線を投げ、剣を持つ女性は手をひゅん、と振り下ろす。
そうすると、まるで溶けて消えるかのように、その剣が姿を消す…
かすかに光るのは、その右手首を飾る腕輪。
「…ふう」
光に照らされる、ため息をつくその姿が。
「…。」
「…。」
蒼い瞳と、流れるロングヘアの美しい…
兄と、自分は、立ち尽くし。
ただ、ただ、彼女を見つめていた。
…と。
「怪我はないようだな、何よりだ」
「あ…」
さらり、と、金色の髪をなびかせて。
女性は自分たちの方を見やり…微笑した。
先ほどまでの殺意に満ち溢れた険しい表情ではなく、本当に優しそうな笑顔。
青い切れ長の瞳が印象的な、美しい人だった。
そのことにようやく気付いて、はっとなる。
「ありがとうございます!ええっと、あの…」
「何、礼には及ばん。こういったモノを討伐するのが私の役目だからな」
我に返った兄が礼を述べようとするも、彼女はそれを笑って制した。
「当たり前のことだろう」とでも言わんばかりに。
それから…兄をじっ、と見つめ、こう告げたのだ。
「君は…どうやら、アウルの力に目覚めているようだな」
「アウル…?」
「天魔に対抗するための、人間の力…だ」
アウル。
はじめて聞いたその言葉は、兄の何を揺らがせたのだろう。
金色の女性を、喰い入る様に見つめ続ける兄。
…何故か、嫌な感じがした。
だって、ああ…兄さんが、僕を見ていない。
「もし君が長じて、望むのなら…撃退士(ブレイカー)の道を選ぶのもいいかもしれん、な」
女性はそう最後に言い残して。
「ではな」
かつ、と踵を返し、足早に去っていこうとする。
かつ、かつ、と、遠ざかっていく足音。
自分たちは、呆然とその背中を見送っていた…

が。

「ッ!」
「?!に、兄さん?!」

突如、兄が走り出す。
自分を置いて、走り出す。
金色の女性が振り返る、一目散に駆けて来る兄を見て少し驚いたふうな顔を見せる、
兄は何事かを懸命に彼女に言い募っている、
女性の表情が困惑の混じったものになる、
それでも兄は必死に言葉を続ける…

立ち尽くす自分から、数十メートルほどしか離れていない場所で。
兄が遠くに行ってしまっている、自分を置いて。
兄が遠くに行ってしまっている。
会話の内容は聞こえない。
会話の内容は聞きたくない。
ああ、兄さん、どうしたの?
兄さん、一体その女(ひと)に何を言っているの?

やがて、兄が戻ってくる。
女性はまた穏やかな微笑を…だが、何処か哀しそうな微笑を投げ、振り返って去っていく。
「…ごめん、レグルス」
走って帰ってきた兄が、ようやく自分を見た。
「…うん」
ようやく、それだけ返した。
「さあ、家に、早く…またあんなのが出る前に」
そうして、早く家に逃げ込もうと促す兄。
ああ、けれど…
「…。」

紅い瞳。
自分と同じ、赤い瞳。
けれども、兄のそれは、もうすでにおかしかった…
熱に浮かされたような、夢を見ているような。
目の前の風景じゃない、ましてや僕でもない、それじゃあ誰を見ているの?
もういない。あの女(ひと)はもうそこにはいないじゃないか。
まだ見ているの?まだ見ているの?

それでも、何も聞けなかった。
それでも、何も言わなかった。

それとも、この時に無理やりにでも聞いてしまえばよかったのかもしれない。
彼女と何を話していたのかを聞いてしまえばよかったのかもしれない。

それでも、自分はそうしなかった。
そうできなかった。




兄の瞳が、怖かった。
赤い瞳が、怖かった。