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同じ碧の髪、赤い瞳 同じ燐光、同じ道(3)







「…!」
そのスローモーションのコマ送りの中で。
降りてきた。声が。



「ほう…拙いが、光纏か」



はじかれたように、上空を見上げる。
すると―家の屋根に、人影。
白光に輝く真っ直ぐなものを手にした…ああ、あれは剣か?
それは、女性だった。
黒づくめのスーツに身を包んだ、金色の長髪をなびかせた…
だが、何よりも異彩を放っていたのは…彼女のまわりの空間が、紅く燃えていたことだ。
いや、燃えているのは彼女なのか?
赤い燐光を炎のようにたぎらせながら、彼女は見下ろす…
「だが、それで天魔に向かうとは命知らずなことだ」
低く、穏やかな声が、降りてくる。
狼が、ぐるる、と、不服そうに喉を鳴らす。
…どうやら、彼女の存在に本能的に危険を感じたようだ。
攻撃のターゲットを女性に変えたのか、狼が上空に向かって激しく吠え立てる。
ふん、と、彼女が鼻を鳴らしたのが、見えた。
薄く笑んでいる。こんなバケモノに敵意を向けられながらも。
「下がっていろ」
と、今度は…その言葉の先が、自分たち兄弟に向いた。
そして―彼女は、飛んだ。
「はああああっ!!」
刹那、赤い炎が勢いを増す!
真っ赤に揺らめく焔を纏って、金色の髪が舞う…
狼の頭上に舞い降りる、まるで獲物を狙う鷲のごとく。
右手に握った長大な剣が、うなりを上げて振り下ろされ―
がっ、と言う硬い音、吸い込まれる白刃、一瞬遅れて…四散する狼の血!
狼の絶叫。空間を引きちぎるような、激痛に悶える絶叫。
鼓膜をつんざくようなその悲鳴を、ただ震えて聞いていた。
怖くて、怖くて、兄の服の袖をぎゅっ、と掴む。
(…?!)
そして、その時、気づいた。



兄は、震えて、いない。



見上げる。兄の横顔を。
兄は…一心不乱に、見つめている。
見開かれた瞳。かすかに紅潮した頬。
見ている。見ている。
彼女を、見つめている。
熱に浮かされたような、夢を見ているような目で。
血の赤が、凄惨な惨劇の匂いが撒き散らされたこの空間で。
戦いに怯えるのではなく…兄は、真っ直ぐに、彼女を見つめている。
(兄さん…?!)
それが急に不安を呼ぶ。強く、袖を、引いてみる。
それでも兄は動かない。兄の瞳は揺らがない。
見ている。見ている。金色の女性だけを、見ている。
自分など最早忘れてしまったかのように。



ああ。
その時、思った。
そして心底ぞっとしたことを、今でもずっと覚えている。



ああ。
その時の、兄の表情兄の様子そして兄の瞳…



長兄のみを溺愛する、母の、そう母のあの病んだ瞳と、まったく同じように見えた。