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同じ碧の髪、赤い瞳 同じ燐光、同じ道(2)



それは、突然現れた。
巨大な狼。人を喰い殺す、残虐の化身。
奴が出現したのは、よりにもよって…自分たちが平和に暮らしていた街。
嗚呼、真っ青な空に響く色とりどりの悲鳴…
命を無理やり引きちぎられる苦痛が、とんがった断末魔になって四方八方に飛び散った。
その時、運悪く…兄と自分は、そこにいたのだ。
普段駆け回っている街路。いつも通りの空に、いつも通りの街並み。
だが、それを背景に彩る、犠牲者の魂消るような金切り声、そして大量の赤い血が飛び散る様…
異常だった。異様だった。異形だった。
度を越えた恐怖は、自分たちの足に呪縛となって絡みつき、逃げる速度を奪った。
それでも、獲物を喰い終え、更なる馳走を求め狼がその濁った瞳をめぐらし始めた時…ようやく、自分たちは駆け出した。
「…ッ?!」
狼から姿をくらますよう、細い細い路地を走る。
けれども、嗚呼…たたらったたらっ、とリズミカルに煉瓦道を蹴り、追ってくるケダモノの足音!
前を走る兄が、急に自分に振り返る。
どうしたの兄さん、このままじゃ追いつかれるよ!
そう言おうとした、瞬間…
「ッ?!」
胸を強く突かれた。
かはっ、と、痛みでよろけ、後ろに倒れそうになる。
自分を突き飛ばした兄は、狼から視線を外さないまま…大声で怒鳴った。

「逃げろ!」

「逃げろ、レグルス!」
青ざめた兄が絶叫する。
その身体は、恐怖のあまりに震えている…
にもかかわらず、兄は狼を睨み付け続ける。
紅い瞳が、涙のにじんだ赤い瞳が震えている…
―まさか。
脳裏に嫌な思考がひらめく。
囮になるつもりなのか…
自分を守るために!

「うおあああああああ!!」

兄の絶叫。
決意とともに、走り出す―
そしてその途端にその身体が、銀色の燐光に輝く!
全速力でそのまま突っ込む、狼の巨体に!
「?!」
逃げ惑っていた獲物が急に攻撃してきたことに不意を突かれたのか、ぐうう、と、低いうなり声を上げる狼。
いや、それにしたって、人間の体当たりくらいであんなバケモノがひるむとは思えない…
むしろそれはあの燐光の力なのか?
「逃げろって言ってるだろうッ、レグルスーーーーッ!!」
「嫌だあッ!兄さんを置いていけないようッ!」
兄は叫ぶ、自分に逃げろと。
けれども、できるはずがない…
今にも、狼が、兄を殺そうとしているのに!
銀色の光を纏わせた兄を、狼が喉を鳴らして今にも飛び掛かろうとしているのに…!
ぐおおおおおおうっ!
ぎらぎらと輝く牙を見せつけながら、狼が猛った…
お前の小さな抵抗など最早見飽きたわ、とでも言うように、銀色に輝く兄を―それは、巨躯の狼からすれば、小さく小さくかよわいものだ―見下しながら。
ずるり、と、舌がのび、だらだらとそこから唾液がこぼれ落ちる。
今にもこの活きのいい小さなニンゲンを喰えるのだ、と喜びに満ち溢れているような、それはそれは汚い笑みに見えた。
そして、凍てついてしまった自分と、震えながら立ち向かう兄の前で、狼は飛び上がる。
その光景は、まるで、一コマ一コマゆっくりと動くスローモーションのように見えた―