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とても、とても、小さな彼(2)


さて、それは次の日のこと。
授業が終わった放課後…てふてふと歩く、制服姿の少女。
さすがストーカーだけあり、ターゲットの行動パターンを読み切っているエルレーンは、見つかる心配すら考えず悠々とラグナのアパートへと向かう。
今日彼は学校で実技系の授業があるはずであり、また午後の遅い時間にもディバインナイト向けの講義をとっていることは確認済みだ。
かん、かん、と、アパートの階段を上がるリズムも軽やかに。
彼の部屋のドアに立つと、一応、念には念を入れ…ドアにぺたりと耳を付け、精神を集中して中の音を聴く。
…音は、返ってこない。
「うふふ…」
こう見えても彼女は鬼道忍軍がひとり、平たく言えばニンジャなのだ。
よろしくない手段を使って手に入れたアイテム「合鍵」を、ポッケからすっと取り出し…
「…!」
がちゃり、と澄んだ金属音。
たいして苦労もせず、するり、と目的の部屋に忍び込む。
昼下がり。主のいない部屋は、とても静か。
カーテンの切れ目から漏れてくる陽の光が、ぼんやりと部屋の中を照らしだす…
一人暮らしには十分すぎるくらいの、やや広めのアパート。
てふてふと廊下を歩んでいくと…
「…きゃうっ?!」
と、何か変な感覚を右足に感じ、飛び上がる。
「えっ、あぅ…?!」
見ると、それは白い長い布…
つまんでみると、それは。
「ふ、…」
それをじっと見つめるエルレーンは一瞬いぶかしげな表情、だがすぐに顔じゅう真っ赤に染まる。
どうしたことだろう、彼はいつから流派を変えたのか。
ふんどしを愛用していたふしなんてなかったのに…!
「…っ、もうっ!」
どぎまぎしながらそれを手早くたたみ、同じように床に放り出されて山になっていたとりこまれっぱなしの洗濯物もたたんでしまう。
「で、こっちは…?!」
勢いのままにそばにあったパジャマを手にとって、あ、と気づく。
「うあぁ…こっちは洗濯しなきゃダメなの」
寝汗をかいたので着替えたまま忘れられたのだろうか、疲れ果てたそのパジャマは洗濯を所望している。
ひっつかんで洗面台に向かい、そこのランドリーケースに入っていた洗濯物と一緒に洗濯機に投げ入れる。
やがて、ごうんごうんと唸りを上げる洗濯機に後を任せて、エルレーンはまた部屋に戻る。
洗濯物は片づけた、次は…
「雑誌とかも出しっぱなし…」
呆れながら、そちらこちらに散在する雑誌や本、教科書を拾って歩く。
そうして、本棚にきちんと納めようとすると…
ぽろり、と、そこから落ちる、ポケットアルバム。
何の気なしに、それを開いてみる…
「?!…はうぅぅぅぅッ?!」
驚愕のあまり、奇声を上げるエルレーン。
目を近づけて、何度も何度も何度も見返し、じいっと凝視してみたが…間違いではない。
どうしたことだろう、彼はいつからそういう趣味に走ったのか。
「お…っ、ぱい、が、…ある…ぅ」
そのポケットアルバムに入っている写真は、全て…同じ、緑髪の女性のものばかり。
誇らしげに張り出したバストは豊かすぎるほど豊かで、着ている服はどれもこれもその豊満さを強調するような派手でセクシーなものばかり…
というより、それはラグナだった。おっぱいのついているラグナだった。
…こともあろうに、上半身セミヌードで、手のひらで胸を隠している(いわゆる「手ブラ」)とんでもないものも。
表情が「どうだ!私は色っぽいだろう?!」と言わんばかりのドヤ顔なのもさらに効果倍増。
「…はぅっ」
頭が衝撃でくらくらしすぎたのか、思わぬめまいを感じてしまったエルレーン。
とりあえずぱたん、とそれを閉じ、なかったことにした…
(とととととりあえず、そ、そうじ続けるの…)
よろり、と立ち上がり、何とか清掃再開。
ざっと床を片付け終えたので、掃除機をかける。
窓を開けると、そこからさわやかな外気と風が入り込んできた。
「ふぅー、こんなものかな…?」
一仕事終え、満足げなエルレーン。


…そして、本題。
ベッドの上にちょこなん、と座って、今の今までエルレーンの挙動をものも言わぬまま見守っていた、それは…


「わぁ…」
思わず声をあげてしまう。
30cmほどもある大きめのそのぬいぐるみは、素人目に見てもよくできていた。
作成者をそのまま愛らしくディフォルメしたそれは、とてもやわらかくて、触り心地が良い生地でできていて。
いつもの彼のスタイル、シャツにベストにロングコート…すべてをきちんと着ているという凝りようだ。
ステッチもとても丁寧で、細かな性格があらわれているよう。
「…はぅ」
ぎゅうっ、と、抱きしめる。
何となく、ラグナのにおいがする、気がする。
(作るのが自分のぬいぐるみなんて、あいかわらずなるしすとなの)
そう思いつつも、彼の分身を離さないエルレーン。
「…。」
しばし、その感触を存分に楽しむ。
人形を胸に抱き、うっとりとしていたが…
ぴーっ、ぴーっ、と鳴る音が、彼女を現実に引き戻した。
どうやら、洗濯機が仕事を終えたようだ。
ぬいぐるみをテーブルに置くと、慌ててそちらに向かうエルレーン。
かごにまとめて入れ、ベランダに出てそれを干す。
さわやかな風が、きらきらと輝きながら洗濯物を照らす。
洗濯物を干し終えると、壁の時計が5時過ぎを告げていた。
ずいぶん長い間、この部屋にとどまりすぎた…
彼が帰ってくる前に、ここから離れなければ。
さてさて。
そのぬいぐるみを、持ってきた布の袋にそっと入れ。
窓を閉め、明かりを消し、ばたん、と扉を閉めて、鍵をかけ。
こうして誘拐犯は、押し入った時より部屋を美しい状態にしてその場を去った。