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とても、とても、小さな彼(1)


非モテ騎士をストーカー…もとい影から見守り続ける女子高生、エルレーン。
彼女が大きな動きを察知したのは、春も近いある日のことだった。
(?!…ラグナが、クラブに入った?)
基本的にソロ活動…恋愛だけでなく学園生活においても基本ピンでしか動けないあの非モテ騎士が?(筆者注:エルレーンも人のことは言えない)
しかも、そのクラブの名前が彼女をさらに驚かせる…

「ぬいぐるみクラブ」。

メルヘン、ほんわか、ふんわり、キュート…
どう考えてもあの男に似合いそうもない部活動だ。
(…でも、どうしてラグナが?)
当然ながら不審がるエルレーン、さっそく実情を調べてみると…
どうやら、面白いことがわかってきた。
実はこの「ぬいぐるみクラブ」、それは世を忍ぶ仮の姿であり、本当の名を「しっと団」と称す。
リア充とバカップルに対して工作活動を仕掛けんとするという…
まあ常日頃「リア充消し飛べ!リア充爆ぜろ!」という危険発言をかまして恥じない非モテ騎士だけに、納得のチョイスである。

が、彼の何処か素直なところはここからで。
表向き「ぬいぐるみクラブ」なのだから、ひとつ作ってみよう…と思ったらしい。
元々手先は器用な性質だし、暇つぶしに…と。
手芸用品店に行って大量の材料を抱えて帰ってくるところも、ばっちりエルレーンは確認した。

そして。
エルレーンは見ていた…
双眼鏡でのぞき見る彼の部屋、その中で少しずつ彼の作品が出来上がっていくのを。
型紙を切り、色とりどりの布を断ち、ピンを止め、縫い合わせていく。
パーツを作り、綿をつめ、組み合わせて…
やがて、あらかたそれが形を成した時。
ようやく彼女は、ラグナが何のぬいぐるみを作っていたのかに気づく…
それは、愛らしく、もきゅっとしていて、思いのほか大きくて…

(…ほ、ほしい)

双眼鏡でそれを確認した電柱の少女(ストーキング中)は、ごくり、と息を呑みこんだ。
一旦スイッチが入ってしまうと、それしか考えられなくなるのが彼女の悪い癖だ。
欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。
ぜったいぜったい欲しい!
「…!」
「非モテ騎士かんさつにっき」に、双眼鏡で見たそれをうりうりとスケッチする…
かわいい。欲しい。ぜったい欲しい!!
(ほしい、あれ欲しい…)
ぎらり、と、黒い光が、少女の透明な瞳に宿る。
「…ぜったいもらっちゃうんだから」
ぽそり、と呟かれた言葉は、犯行声明。
決意を固めた少女は、邪悪な微笑を浮かべたままその場を足早に去った。


一方、その頃…
窓の外から覗き見されているともいまだ知らず、針仕事に精を出していた非モテ騎士。
ぱちん、と、結び止めした糸を、最後に切って。
「ふう…できた!」
とうとう完成した自分の作品にご満悦。
ひょい、と抱き上げてみる、彼のマスターピース。
それがどんなぬいぐるみかというと…

 
イラスト…R-E様