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ホワイトデーに返礼を(3)


「うふふ、おいしかったねぇ」
「…。」
もう詰め切れないくらいに、おなかの中にケーキを詰め込んで。
カフェコーナーを後にした二人組の間に、会話は成り立たない。
長身の青年は、背にかかる少女の声を全く無視し、前だけ見つめて歩き続ける、かつ、かつ、かつ。
短髪の少女は、めげずに大きな背中に向かってしゃべりかけながら歩き続ける、てふ、てふ、てふ。
かつ、かつ、てふ、てふ。
二種類の足音。ばらばらのリズム。
「また行きたいね?」
「…。」
「…もうっ!」
かつ、かつ、てふ、てふ。
問いかけの合間を埋めるのは、足音だけで。
少女が苛立った声を上げるも、青年は断固として無視を続ける…
と。
かつ、と、硬い足音が立ちどまり。
分かれ道。
相変わらずエルレーンの顔も見ずに、あさっての方向を向いたままに短く言い放つラグナ。
「…ではな。次は殺す」
照れ隠しなのか、剣呑な言葉を最後に添えて…
ふいっ、と顔をそむけ、自宅へとさっさと帰ろうとした。
「あっ、待って…」
が。
「!」
強く、左腕をひかれた。
何をする?!と、湧きおこる怒りに満ちた表情でエルレーンに振り返った…
その、刹那。
「ッ?!」
突如、左頬に触れる、柔らかい感触。
それが、軽く背伸びした少女の唇であることに気付いた瞬間には、もう遅かった。
思いもかけない状況にあっけにとられ、ぽかん、となるラグナ。
立ち尽くしたまま呆然としている長身の青年の顔が、やがて…かあっ、と紅潮していく。
言葉を失った彼に、エルレーンは嫣然と笑いかける。
「今日は、ありがとうなの」
「あ、ッ…」
「うふふ、…じゃあね!」
そうして、軽く手をふって彼女は駆けていく。ラグナを置いてきぼりにして…
見る見るうちに小さくなっていくその背中を、声もかけられずに見送る。
やがて、姿が消えてから、やっと…
悔しさが顔にあらわれる、困惑と動揺と羞恥もないまぜになって。
「くっ…」
真剣な殺意を向ける自分に対し散々手ひどくからかってきて、かと思えば恥ずかしげもなくあんなことをやってのける。


「だ…だから私は嫌いなんだ、あの女が…」


耳まで真っ赤になった、非モテ騎士。
もにょもにょと呟かれたそのセリフは、まるで敗北宣言そのものだった。