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過去の回想(1)


眠っている。闇の中で。
ベッドに横たわっている長身の男は、浅い眠りの中にいる。
蛇眼は静かに閉じられ、現世の苦難から逃れようとしている。
彼は、夢を見ている。
ラグナ・ラクス・エル・グラウシードは夢を見る―




太陽の光が照りつける、眩いくらいに、白く。
あの女(ひと)が、立っていた。
金色の、美しい髪をなびかせて。
その背に、「先生!」と呼びかける。
そうしたら、彼女が振り向く、
白光に遮られたその向こうで、その女(ひと)は自分を見つめ返し、微笑みを―




「…ッ?!」
どくっ、と、心臓が妙な拍動を打つ。
その奇妙な感覚と息苦しさで、ラグナは思わず両目を見開いた。
一気に広がる視界は、白い壁、黒い天井、いつもどおりの、自分の部屋…
「…」
そして、今自分が見ていたのも、いつも通りの「悪夢」。
最愛の師匠の幻影がたゆたう、いつも通りの―




二度と会うことは、できない。
奪われた、のだ。
あの女に、奪われた、のだ。




…あの女。
ぐうっ、と、喉元にせりあがる、息が詰まるようなあの感覚。
あの女を思い起こす度に蘇る…
あの、忌まわしい、憎らしい、妬ましい、怨めしい女。



あれは、今から何年前か…
先生が戦場から、あの女を連れてきたのは。
今でもよく覚えている。
先生の横に立ち、ただ瞳を見開いていた。揺らぎもしない瞳で。
その女を引き取り育てる、と先生が言い出した時、自分はどれほど驚いたことか。
しかも、剣の扱いまでも教え始めた…ちょうど、自分に教えているのと同じように!
…その時から、少し、こころのどこかに引っかかるものがあったのは否定できない。
先生はそれに「名前」をつけた。

「エルレーン」、と。

奴は、過去を語らなかった。
何らかの相当なショックを受けたせいか…少し、精神的にも退行しているようだった。
思春期と言っていいほどの年にもかかわらず、奴はまるで幼女のように先生に甘えていた。
その場面を見る度、自分は…内心で、舌打ちしていた。
先生にべたべたと抱きつき、その背にもたれかかり、すりよってじゃれつく。
けれども、先生はそれを咎め拒否するどころか、むしろ困りながらも喜んでいるようだった。
先生が穏やかな微笑を浮かべながら、奴の頭をやさしくなぜているのをよく見た…
…まるで、「母親」が愛娘にそうするように!
胸がざわざわした。胸がぐらぐらした。
先生はお優しいから。哀れな孤児を救おうとしているのだから。
そう思うことで、平静を保とうとしていた…いつも。
だが、できなかった…
奴は、自分のもうひとつの領域にまで、ずかずかと入り込んできたのだ。

奴には、天賦の才があった。

先生が教えたことを、まるでそのままなぞるように。
驚くほどの速度で、奴は剣技を学んでいった。
それは、はた目に見ていてすら、その才気がほとばしっているように。
追い詰められていく。じりじりと。
否定しようとして、なおさらに訓練に打ち込んだ。
のめりこみすぎて倒れるほどまでに、先生がそれをいさめるほどまでに。
けれどもそうしなければ、不安で不安でたまらなかった。
先生の弟子は、一番の弟子は、私のはずなのだから!
あんな、何処の馬の骨とも知れないような小娘が、自分より才能にあふれているなんて信じたくない…!

だが。
何とか保っていた虚勢が、とうとう剥がれた。

一度、「お互いに本気を出して」実戦さながらの対決を行った時。
先生がおっしゃったから、手を抜くつもりなんて毛頭なかった。
無遠慮に先生に甘える、不躾に先生にまとわりつく、無神経に先生に絡みつくこの女に、本気で思い知らせてやろう、として―

そして、自分は、負けた…のだ。

ああ。
今でも、はっきりと覚えている…
少し困惑したような、でも確かに勝ち誇ったあの女の表情!
少し虚を突かれたような、でも確かに嬉しそうな先生の表情!
そうして先生は、あの女を褒め…また、頭をいとおしげになぜたのだ!
…足元ががらがらと崩れ去るような、宙に浮いたような不安定さ。

ああ。
先生は、私より、あの女を選ぶのか?

それでも。
何とか、表向きは、耐えた。
あの女も、「兄弟子」の自分に対して、親しげになついてきた。
確かに、愛らしい…
子猫のように、人の庇護を買うような、無垢でいとけない少女。
だが、奴の手前、先生の手前、どれほど自分を取り繕っても…精神の奥にある、昏い炎が消えることはなかった。
時折、何かにつけそれが自分の頭蓋に燃え上がる。
とってつけた笑顔、その皮膚の奥で、燃える、燃える、燃えたぎる。
あの女さえいなければ。
あの女さえいなければ。
あの女さえいなければ、私は以前同様、先生と二人で―!
何とか、表向きは、耐えた。
耐えることで、精いっぱいではあったが。




そして。
決定的な、あの時がやってきた。