1365   英語でラテン語を
2003/05/31 1:27:16  ijustat   (参照数 48)
ゆどうふさま、こにちは。ijustatusです。(ちょっとラテン語っぽく書いてみました)

実は、“Teach Yourself”を読み終わったあと、英語の勉強のためにラテン語の学習書を読んでいるのです。これにはかなりの迷いもありましたが、英語の学習のためには英語で好きなものを読むのがいいという読解力養成の原則により、外国語学習書を読むことにしました。“LATIN, An Introductory Course Based on Ancient Authors”(Frederic M. Wheelock(1956), Barnes & Noble, New York)という本です。

で、なぜラテン語なんかを選んだのかというと、そこにはいくつかの野心があるのです。まず、英語はラテン語の影響を直接・間接的に非常に強く受けています。特に、知的な語彙になるほど、ラテン語の影響が多いのです(学術的な用語にはギリシャ語の影響が多いけれど……)。ラテン語を知り、その文脈に触れられるようになったら、英語の文脈の原形をそこに知ることができるだろうという見積もりです。

この見積もりは間違っていないと思います。日本語のより深い理解のためには、古文の知識も必要だけれども、漢文の知識も必要になって来ます。それらなしに日本語について論じると、そこの浅い議論になってしまいやすいからです。英語についても同じようなことが言えると思います。得に、英語の中で難解に感じられたり不可解に思えたりする構造の一部または多くは、ラテン語やギリシャ語に起因しているに違いないと思われます(ギリシャ語の場合は確かに英語に理不尽(?)な影響を与えています)。ラテン語の理解は、それらの難解な部分の理解を容易にしてくれるものと思われます。

また、もうひとつの野心は、現代ラテン語であるイタリア語やスペイン語、ポルトガル語、フランス語などに対する野心です。この野心はギリシャ語との付き合いの中で芽生えました。古典ギリシャ語と現代ギリシャ語とはかなりの隔たりはありますが、多くは文法の単純化や融合などで、現代ギリシャ語の規則は、古典ギリシャ語の知識から類推できることがよくあります。語彙もよく似ています。この2千年もの間にほとんど、または全く形を変えなかった単語もたくさんあるのです。だから、現代ギリシャ語の学習は、文法の説明をまともに受けなくても、大まかな点は理解できました。ということは、ラテン語の知識があれば、英語のみならず、それ以上に、ラテン系の現代語を理解し身に付けるのが容易になることが予想できます。

実は、ギリシャ語の学習によって、どういうわけか、英語の実力が少しずつ伸びて来ました。こういうのを『語学で身を立てる』の著者は“相乗効果”と読んでいますが、確かに相乗効果はあると思います。ことにラテン語は、その共通語彙の多さなどから、相乗効果はさらに多くなるのではないかと期待しています。英語のろくすっぽできない ijustat が、英語の達人たちを出し抜いて、英語の深奥なる部分に足を踏み入れようという野望を抱いているわけです。これは、かなり大それたことです。身の程知らずと言っても過言ではありません(笑)。

英語の学習書でラテン語を勉強するのは、日本語で勉強するのとは違ったメリットがあります。それは、互いの言語に共通する部分が多いので、日本語から入る場合には大変な努力を要する部分が、英語から入るとかなり楽になると言うことです。数年前、アメリカの大学で日本語を履修しているが、難しくて理解できないという大学生から、ちょっと手ほどきをしてほしいと頼まれたことがありました。彼の持っていた日本語の教材は、とてもいい本でしたが、英語での説明が難しいらしく、彼はほとんど理解できなかったのです。助詞が全く分からないと言います。それで、日本語の助詞が韓国語のどんな助詞に当るかを説明してあげたら、あまりに簡単なので、目をまん丸くして、口を開けて驚いていました。動詞の変化も韓国語で解説してあげたら、あまりに単純なので、「日本語ってこんなに簡単だったんですねえ」と言って、喜んで帰って行きました。ラテン語を英語で勉強すると、彼と同じような経験ができるような感じがします。

また、ギリシャ語を初めにやってからラテン語を勉強すると、ラテン語の格変化はギリシャ語と非常に形が似ているので、読解練習の単文を読むとき、部分的にはギリシャ語のノリで理解できるのです。語順が至って自由なのはギリシャ語と同じですから(ギリシャ語よりはスッキリしている感じがしますが)、その部分でも抵抗がありません。こういうのを“相乗効果”と言うんでしょうね。もちろん、単語を覚えなければならない大変さはありますが、文法がとても易しく感じられるのです。さらに、ラテン語の文法は、古典ギリシャ語に比べてとても整然とした印象があります。語幹に語尾だけ付けていけばいいようです。ギリシャ語は、英語で言えば go - went のように語幹が入れ代わってしまう語が大量にあるのですが、ラテン語にはそういう単語はいくつもなさそうです(実はたくさんあったりして……^^;)。

これは、あくまでも“英語の学習”を口実にやっています。だから、説明に出てくる分からない語は、ちゃんと辞書を引いています。速読はしません。ラテン語英訳の例題を英語に訳してみるのはなかなか面白いものです。なぜなら、これが英語作文の練習になっているからです。ただ、怠惰な私は、紙に書き出すのではなく、頭の中で呟くだけで終わらせています。本当は書いてみた方が勉強になるんですけどね。

なお、“LATIN, An Introductory Course Based on Ancient Authors”のとてもいい点は、単純な羅文英訳演習のあとに、キケローやセネカなどが書いた、実際のラテン語著作物から取った例文をいくつも載せていることです。これが本当に素晴らしいのです。言葉が生きて呼吸をしているということを、本当によく見せてくれています。しかも、この教材の著者の手腕だと思いますが、ラテン語を始めて間もない人が、その妙味を味わえるのです! この妙味は、ラテン語文を音読し、また、目を離してそらで言ってみることで味わえます。

昔、イー・ギョンヨンさんという大変なインテリの知り合いがいたのですが、その人が私に「ラテン語は素晴らしいよ」と言っていたのを思い出します。彼はイタリアで長年勉強していたのですが、母語は京都弁で、英語、イタリア語、ラテン語、韓国語の他に、中国語もできるという人でした。古典作家の著作の断片からでもその妙味があじわえるのだから、作品が読めたら、本当にその素晴らしさにはまってしまうかもしれません。彼が「ラテン語は素晴らしいよ」という言葉には、古典作家たちに対する尊敬の念が込められていました。(ちなみにイー・ギョンヨンさんは、イタリアでラテン語を習ったとき、3ヶ月勉強したあと古典作品を読み始めたのだそうです。)

英語の教材の名著として、けっこう多くの人たちが『和文英訳の修行』を挙げています。不幸にも私はその教材を持っていません。だから、比較することはできないのですが、この“LATIN”という学習書は、『和文英訳の修行』にも匹敵するような、ラテン語教材版の名著なのではないかと思います。

というわけで、何やら訳の分からない方法で英語を勉強している ijustat でした。

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