1122   いまいちの事情
2002/07/09 2:56:56  ijustat   (参照数 14)
氷雨様、こんにちは。ijustatです。

> イチとゆうのはもちろん"One"の意味なんですけど
> タイトルのように付けたらどうゆう意味ですか?

こういう質問は、日本語教師の心を熱くしますねえ。答えたい衝動を押さえきれない(笑)ので、お答えします!

実は、「イマイチ」の場合、問題なのは「イマ」の方です。「イマ」は“現在”の意味ではなく、そこから派生した、わずかに不足している意味です。この「イマ」が音を変化させたのが、「モウ」です。

この「モウ」がいっしょによく使われる表現は「もうひとつ」で、現在では「もう一つ下さい」の用例のように使われますが、「もうひとつ物足りない」のように使われることもあります。実は後者の使われ方では、語源的には古い方のはずの「いま一つ物足りない」の方が良く使われています。その「いまひとつ」の「ひとつ」が、あるとき「いち」に摩り替わり(これを初めて摩り替えた人は、詩人の才能があると思います)、最初は年配の人達の顰蹙を買いながらも、最近では完全に定着してしまった感じがします。「あの映画はイマイチだ」は、韓国語で言えば「ク ヨンファヌン ビョッロヤ(geu yeong-hwa-neun byeol-lo-ya)」になるでしょう。東京から日光へ行く途中に今市という町がありますが、そこの駅の看板が平仮名で大きく「いまいち」と書かれているのを見て、変な感じがしたのを、思い出します。

韓国語で「今」をあらわす“イジェ”(イジュではありません^^)は、それ以前との対比として用いられることが多いです。日本語の「いま」はそれに比べ、時間の前後に対して中立的です。ただし、先ほどの「モウ」とは別の、「もう昼ご飯を食べましたか」というときの、完了を表す「もう」は、もともと「今」が変形したものだと思いますが、韓国語の“イジェ”と同じく過去と対比する意味があります。その完了の意味が進んで、「まだ3時間目なのにもうお弁当を食べてしまった」のように、早い実現に驚く副詞として使われることがよくあります。

さて、この「今」が時間の前後に対して中立的なために、最初の「モウ」の場合には、その直後との対比が生じ、それが、わずかに不足しているという意味にずれていったのだと思います。

もともと“現在”をあらわすべき「今」がこのような使われ方をするようになるのは、人の言葉が、現在という瞬間を捕らえられないからでしょう。もし「いま」と言った瞬間に“今”をとらえなければならないなら、その“今”が「いま」を言う瞬間に合いそうなタイミングを見切って、“今”にならないうちから話し始め、そして文章が終わった時点では、その“今”はすでに過去になってしまっています。このように「いま」という単語を口にする瞬間に“今”という時間が通過することを表す文は、存在しないでしょう。

そのため、「いま」という言葉は、瞬間的な現在を表すことはできず、その現在を含む期間や、瞬間的な現在の直前または直後を表すようになっているわけです。この時間と言語との単純ではない関係が、時制のあり方を複雑にしているのです。

ところで、「朝いち」の方は、C?E¨C?さんのおっしゃるように、「朝一番」から「番」が取れたものと考えてよさそうです。これは、「朝いちで(…する)」か「朝いちの(仕事)」という形で使われるのがほとんどです。この語は、もとからあった「朝市」と発音が同じなので、無意識に、それと混同しないように気を使って「朝いち」を使用しているようです。「朝いちの仕事」というのは、朝会社に着いてからまず最初に手を付ける仕事のことです。

というわけで、衝動に駆られて説明したために、冗長な説明になってしまいました。