597   現地音主義はイデオロギーですよ。
2001/08/21 00:23:33  ijustat   (参照数 20)
こんにちは、氷雨様。ijustatです。

> ある国で使ってる漢字の読み方は
> 外国でもそのまま使うのが正しいのではありませんか?
>
> 例えば日本の地名である"大阪"は日本では oosaka って読んでますよね
> でもこの "大阪" ってゆう漢字は韓国では "Dea-Pan(デパン)" と読まれてます
> この場合韓国ではこれを "おおさか" って読んだほうが正しいと思いますが
> これを韓国式に読んで "デパン" ってゆう地名に使おうとする人もいます

“デパン”でいいんじゃないですか。それで通(とお)っていれば。日本とは関係ない、韓国での事情ですから。実は私は韓国語を勉強していたとき、東京は“トンギョン”、大阪は“デッパン”、京都は“キョンド”と習いました。でも間もなく、「トッキョ」、「オサッカ」、「キョット」になった。(決して「トーキョー」、「オーサカ」、「キョート」ではありません。)

ヨーロッパでは現地音主義だという幻想が韓国ではまかり通っているようですが(日本でも事情は同じかもしれない)、実状は、C?E¨C?さんの証言があるとおり、かなり“おぞましい”ものです。この点に関して関心のある方は、ウンベルト・エコの『論文作法』(谷口勇[たにぐち・いさむ]訳、而立書房[じりつしょぼう])のp.186-187を見てみて下さい。こんなことが西洋では起こっているのかと驚くことでしょう。ドイツでは、フランス人の名前をドイツ式の発音で読んでいるという話を何かで読んだことがあります。

現地音主義でいくなら『ヴェニスの商人』ではなくて、『ヴェネチアの商人』としなければいけないかもしれません。「ミロのヴィーナス」と言うけれど、発見したのはたしかナポレオンだったと思います。だったらフランス語で「ミロのヴェニュス」か。(「ヴィーナス」が一般名詞なら、そうする必要はない?)Walkmanは日本の商標だから、韓国で呼んでいる英語式の発音は正しくなくて、日本式に「ウォークマン」と発音するのが正しい“原音主義”です。フジモリ大統領はペルー人なのだから、フヒモリではと思うのですが、話によると、ペルーでもフジモリと発音していたとか。あとで日本国籍が確認されたというから、それでもよかったのか。いやあ、頭が痛い。

そう言えば、日本でもリンカーン大統領の名前を、洗礼名の日本語式発音である「アブラハム」って呼んでますよね。あれを、「エイブラハム」と言ったら、気取るなと言われるかもしれない。中国での事情も面白そうです。「ダーウェイ」は、「ダビデ」でもあるし、「デイビッド」でもあります。同じヨーロッパの中でも、ローマ字を使わないギリシャやロシアなどは、また違った複雑な事情があるようです。それから、私は知りませんが、イスラエルやアラブ諸国などではどうでしょうか。私たちの思いも寄らない事情があるはずです。

あと、専門的な知識がなければ現地音の復元が困難なこともあります。たとえば作曲家のショパン(Chopin)。この人はポーランド人だったから、本当の名前はフランス語の発音ではないはずです。私はポーランド語を全然知らないので、私の敬愛するこの作曲家の名前を今まで一度もまともに呼んだことがありません。アンデルセンもそうです。韓国でもアンデルセンと呼んでいますが、田中克彦[たなか・かつひこ]という言語学者が何かの本で、アンデルセンは間違いで、アナスンと読むべきだと書いているのを読んだことがあります。でも、その含みは、たしか現地音主義に対する皮肉だったように思います。

歴史上の固有名詞は、現地音主義は取らないのが通例になっているようです。しかし、もし現地音主義が正しいとするなら、それも現地音を志向しなければ、この主義の一貫性は失われます。もしそうしたら、中国の古典を読むのは大変なことになるでしょう(京都大学では現代中国語音で漢文を読んでいるとか)。聖書の人名も、全部変えなければなりません。しかも、え?と思うような発音に。これらが当時の推定音にすべきだとなったら、もうお手上げです。だから、歴史上の固有名詞は現地音主義は取らないのだと思います。

外来語の現地音主義(?)みたいな思想は、学校で教わるのでしょうか。でも、それは、氷雨さん、科学ではなく、イデオロギーにすぎませんよ。